推進派が暴走した根本原因について、戦後予防接種行政の変遷から考える③予防接種法
下記の続きである。
種痘
有名なことではあるが、予防接種は天然痘に対する種痘から始まった。
日本では江戸時代から行われており、明治に入ってから、種痘を義務づける法律が制定されたものの、不履行による罰則は定められていなかった。
明治8年に内務省衛生局より罰則付きの「天然痘予防規則」が制定されたのが、強制種痘の始まりとなった。そして、明治42年に成立された「種痘法」では、戸籍などの利用により接種状況を厳格に管理するようになった。
種痘には、当然副作用も結構あったのだが、当時はほぼ顧みられていなかったようだ。
このように、我が国の予防接種行政は、不作為過誤回避指向が原点にあるのである。
・・・私の記憶では、種痘に関しては良い面ばかり強調した教育を受けていたように思うが、本当はそうではなかったようだ。また調べなければならない。
予防接種法の制定
昭和20年に先の戦争が終結したが、終戦時は伝染病が蔓延する劣悪な衛生状態の国となっていた。外地からの帰還者も多く、様々な病原体も持ち込まれる状態であった。
GHQは、占領政策において公衆衛生の改善が喫緊の課題であると考えた。それはもちろん日本人のためではなく「伝染病蔓延地帯に上陸する自国民の感染防止、並びに恐怖を取り除くため」という思惑があったことが想像される。まずGHQは、連合軍の運営する施設に出入りしている日本人を中心に、速やかに全国的な強制種痘を再開するように指示した。その結果、天然痘患者は激減した。
また、当時は効果が不十分な上に副作用も強いと言われていた、腸チフス・パラチフスに対するワクチン接種も全国的に展開された。約2千万人に実施され、結果的に患者数は減少したようだ(ワクチンの効果かどうかは不明)。
この2つの成果は、日本人に予防接種の効果を喧伝することになり、その流れの中、昭和23年に、罰則付きの接種義務(「努力義務」ではなく「義務」)、という強制力を有する「予防接種法」👇が制定された。対象疾病も12種類と多く、「世界にも類を見ない規模の強制予防接種制度」であり、不作為過誤回避指向が極めて強いものだった。罰則は履行しなければ3千円以下の罰金を科す、と言うものだった。当時の3千円は今の9万円ぐらいなので、そこそこの金額である。
ちなみに、対象疾患は 痘そう(天然痘)、ジフテリア、腸チフス、パラチフス、百日咳、結核、発疹チフス、コレラ、ペスト、猩紅熱、インフルエンザ、ワイルス病(レプトスピラ症)であった。当時の日本の衛生状況がよく分かる疾患ラインナップである。現代とは「予防接種の必要性」が全く異なる、と考えていい。
とはいえ、猩紅熱などはそもそもワクチンの実用化自体が疑問視されていたらしく、ワイルス病やペストも結局施行されることはなかった。「接種実施が可能か不可能かに関わらず、とりあえず入れておいた」という不作為過誤回避指向が極めて強い、というか建前感満載のものだった。
このあたりも、法文を軽視し、解釈で押し通す、現代の日本のあいまいさに通じるものがある。
ちなみにこの法律に関しては、当時の厚生省は難色を示していたが、GHQの公衆衛生福祉局に押し切られた形だったらしい。当時の厚生省の防疫課長は「アメリカではできないけれど、日本でできることをやってみたくて政策化したものの一つではないでしょうか」と、後年振り返っていたという。とはいえ、当の厚生省は当時「伝染病の流行は、他の文明諸国に対しましても一大恥辱と申さなければな」らず、予防接種によって「国民福祉の向上、文化国家の建設に資せんとするものであ」ると述べ、現在と同様に、見事な二枚舌を使っている。
現在と違い、当時の衛生状態を考えると、ある程度強制する必要性はあったと言えるだろう。そこは認める。とはいえ、これは占領下という状態を利用して、一部の米国人の理想主義的妄想を現実化させた、という面があるのだろう。そして、この「強制」が、長らく日本の予防接種行政の根幹となる。
とはいえ、実際に罰則が適応されるケースはなかったようだ。しかし「罰則がある」ことで不履行を抑止する、いわゆる「自発的な服従」を促す効果はあったようだ。これは現在と変わらないように思える。しかし、少なくとも当時の人々は、たかが「お願い」で従う現代人ほどには家畜化してなかったようだ。
同法のもう一つの特徴は、「集団接種」を原則とし「個別接種」を認めなかったことだ。効率的接種による不作為過誤回避の一環だが、結果的に被接種者一人に充てる時間は少なくなり、体調把握や禁忌の有無を確認することなどがおろそかになる。これにより、作為過誤発生の可能性が高まる可能性があった。
そんな中、戦後最初の薬害事件と言われる、ジフテリア予防接種禍事件が発生した。(続く)
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