インフル特需と耐性ウイルス
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抗インフルエンザ薬が軒並み限定出荷となっている。
鼻をグリグリして処方して「状態が悪化しても責任を問われることはない」と安心する医療と、鼻をグリグリされて処方されて「治療してもらった」と安心する患者の、奇妙なwin-win関係が引き起こした特需だ。
なんか、臆病で変な国だなぁ、大丈夫かね・・・とため息しか出ない。
とはいえ、全身状態の悪い人にとっては抗ウイルス薬は必要なのだ。
ある程度健康な人は寝ていれば治る程度のものだが、全身状態の悪い人にとってはそうではない。
だから、現存している抗ウイルス薬の有効性はできる限り維持されなければならない。
その点で、このような薬剤乱用を放置しておいていいのか?耐性ウイルスは大丈夫なのか?と感じてしまう。
なお、以下の資料が非常にわかりやすかったので参照した。
平成28年度新型インフルエンザの診療と対策に関する研修
抗インフルエンザウイルス薬の薬剤耐性化 とその対応について
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現状について国立感染症研究所のページから、少し調べてみた。
商品名と薬剤名と投与法
ゾフルーザ=バロキサビル(内服)
タミフル=オセルタミビル(内服)
ラピアクタ=ペラミビル(静脈注射)
リレンザ=ザナミビル(吸入)
イナビル=ラニナミビル(吸入)
シンメトレル=アマンタジン(内服)
このうち、耐性株100%のアマンタジンは最早インフルの薬ではなく、今はパーキンソン病とその類縁疾患に対する薬である。初期の患者の歩行障害(すくみ足)に対して、結構効果があるので重宝している。
なお、耐性100%なので、アマンタジンを定期服用していても、当然インフルには感染する。
まず2024/2025シーズン、つまり今シーズン。
すでにタミフル、ゾフルーザ、ラピアクタに耐性ウイルスが認められている。
感染症動向調査👇のグラフより、今シーズン(2024/2025)並みに報告の多いのは2017/2018シーズンと2018/2019シーズンである。
そこで、上記2シーズンの耐性株報告数を確認してみた。
なお、インフルB型については2017/2018シーズン以外は報告数がA型に比してかなり少ないので省いている。全体的にA型に比べると耐性株は少なかった。
まだ2024/2025シーズンは報告数そのものが少ないので何とも言えないが、今のところ他のシーズンよりも耐性株率が高めなのが気になるところだ。
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内服薬や注射薬に比べて、吸入薬の耐性が検出されていないのが興味深い。血流に乗るのではなく、上気道に局所的に作用するからだろうか?
ならば、もしどうしても投薬したい・されたい、のなら元気な人(つまり深呼吸を何度か行うことが苦でない人)は吸入薬を使用し、内服薬や注射薬はそうでない人たちのために温存しておくのが適切な対応なのだと思われる。
・・・もっとも、深呼吸が苦にならない人なら寝てれば改善する気がするが・・・
いや、本当に、しんどい思いをして寒い中わざわざ病院に来て、寒空の下待たされているぐらいなら、安静にしておいた方がいい。
でも、「何に感染しているのか、を調べてもらえ」、さらに「薬飲んで早く直せ」と学校や会社や世間から半強制されている方々も多いと思われる。
そもそも健常者の風邪症候群に「医師の診断と積極的加療」を要求する社会に問題があるのだろう。
その社会に無批判に迎合している医療がさらに問題なのは言うまでもない。
仮に現状を受け入れるとしても、少なくとも、いたずらにタミフルやゾフルーザを処方しまくることは、避けなければならない。
深呼吸は難しいものの、嚥下はできる方々のために残しておかなければならない。
ましてや注射薬であるラピアクタは、本当に必要な方々(内服困難なほどに全身状態の悪い方々)のために、なおさら慎重に考えなければならない。
さらに、「ウイルスのノイラミニダーゼ構造の薬剤に結合する部位が類似 しているため、オセルタミビル(タミフル)に薬剤耐性を獲得すると、ペラミビル(ラピアクタ) にも耐性化する」(資料34枚目)という。
とすれば、タミフルの乱用はなおさら避けねばならない。
「日本人は薬が好きだから・・・」で済まされる問題ではないと思う。