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自分は何故「右」と「左」がわかりにくいのか?①

私は「右」と「→」、「左」と「←」が咄嗟に結び付かない。
「左」「右」という「言葉」と実際の「方向」がなかなか結び付かないのだ。
少しは間をおけば「左右」という言葉とそれらが意味する方向が頭の中で結び付くのだが、👇のブログで書かれている通りのプロセスが必要である。

「右に曲がってください」という指示に対して・・・

①「右」
②「右」はどっちだ?
「右」は「おはしを持つ手」だ
④ 右手を見る(または意識する)
⑤「右」はこっちだ!

https://www.nopponon.com/left-right-confusion/

インターネット上に、左右が苦手な人が選択しない方がいい職業に「医師」と記載しているサイトが多くて、ドキッとしてしまう。
「自分は左右の判断が苦手」と常に自覚しているので、左右の判定はかなり慎重に行っている。また、対面した患者の身体所見はまず「右側」からとる、という動作を体に覚えこませている。
だからなのか、仕事上で「左右」の聞き間違いや記載間違いによる致命的なミスをしたことは、今のところはない。
MRIやCTなどの画像は、有難いことに右側に「R」と記載されていることがほとんどなので、苦労はしない。

運転は困らない。左右を「イメージする」ことはすぐにできるからだ。
「左右」という言葉を方向に置換したり、方向を「左右」という言葉に置換することは苦手だが、身体感覚で方向を認知することには支障はない。「上下」や「前後」と同じようにすぐに認知できるようだ。
ゆえに音声ナビは苦手だが、地図を読むのはむしろ得意だ。「地図を読む」だけなら、わざわざ方向を「左右」に置き換える必要はない。地図をきちんとみておけば、初めての場所でも道に迷うことは、滅多にない。
そして、不思議なことに「東西」はすぐに言葉に置換できる。地図で示される時も、「左へ曲がれ」と言われるより「西の方向へ曲がれ」と言われた方がわかりやすい。

左右識別困難について検索してみて、参考になったものを挙げる。
まず2006年に愛媛大学から発表された論文「健常大学生における左右識別困難」

この左右識別能力は,生得的なものではなく,ヒトの発達過程において比較的後期に生じてくるものである。
Benton & Sivan(1993)によれば,5歳児の多くと6歳児 の大半は自己身体の「右」「左」が識別できる。
しかし,交差指示課題(「左手で右耳を触れ」)や,対面した検査者の 身体指示では成績が低下する。
交差指示課題は9歳でほ とんどの子どもが通過する。
対面身体指示課題はやや難度が高いが,12歳くらいまでにはほとんどの子どもが間違えずに回答できるようになる。

https://www.ed.ehime-u.ac.jp/~kiyou/2007/pdf/08.pdf

しかし,この左右識別能力には個人差が大きく,健常成人においても,とっさの場合には左右識別に困難を示す者が存在することが知られている。Wolf(1973)は,医師とその配偶者に「大人になってからでも,とっさには 左右を識別することが難しい」という文章を与え
(中略)
その結果,女性の38%, 男性の24.3%が「たまにある」以上の頻度で困難があると回答し,両者の間には有意差が認められた。

https://www.ed.ehime-u.ac.jp/~kiyou/2007/pdf/08.pdf

この研究で使用された質問項目が、左右識別困難の特徴を見事に表していて興味深い。
私にとって、思い当たることばかりだ。

①「右手を上げる」「左手を出す」などの命令にとっさに反応できない
②「右を向け」「左を向け」などの指示にとっさには従えない
③ 正面に立っている人の,手や体の部分の左右がとっさには分からない
④「向かって右」「向かって左」と言われると,とっさにはわからない
⑤鏡の中の自分の左右を混乱する
⑥車に同乗している時,運転者への「右折」「左 折」の指示がとっさにはできない
⑦視力検査の時,輪が開いているのが左右どちらかを答えるのに混乱する
⑧車の運転中に道路の左側,右側がわからなくなる
⑨ 車の運転中に,同乗者の「右折」「左折」の指示にとっさに 反応できない

https://www.ed.ehime-u.ac.jp/~kiyou/2007/pdf/08.pdf

次にQuarterly Journal of Experimental Psychologyという雑誌に掲載された論文 「Distinguishing left from right: A large-scale investigation of left–right confusion in healthy individuals」

オランダで行われた調査だ。
404人中59人(14.6%)が「自分の左右識別が不十分である」と自己評価していた、という。
そして最も印象に残ったのは以下の表だ。

何も考えずに左右を判断できる人は半分ぐらい(46.0%)で、左右の判断に自分の手を利用している人が結構多い(42.4%)、ということだ。
手を使っている人の内訳は
親指と人差し指「L」の形が作れる方が「左」、と判断するのが13.2%(オランダ語で「左」は「Links」)
字を書く方の手はどちらか、で判断するのが28.2%
何か(ジュエリーなど)を付けている手はどちらか、で判断するのが1.0%
だそうな。
なるほど、「L」を作る、というのは実際に使えそうだ。
「左右識別が咄嗟にできない人は意外と多い」と考えてよさそうだ。

では何故「咄嗟にできない」のか?
BBCの記事「Why some people can't tell left from right」が参考になった。

クィーンズ大学ベルファストの臨床教授であるGerard Gormleyが言うには、
まず自分自身の「左右」を判断した後に、対面している相手の「左右」を判断するために、「自分が他者と同じ方向を向くように、自分自身の身体を心的回転させている」という。

Then, when figuring out which side is someone else's left or right, the next step is mentally rotating yourself so you're facing in the same direction as the other person."If I'm facing you, my left hand will be opposite your right hand," says Gormley. "That idea of mentally rotating an object adds an extra degree of complexity."

https://www.bbc.com/future/article/20230112-why-some-people-cant-tell-left-from-right

なお、心的回転とは、「思い浮かべたイメージを頭の中で回転変換させること」だそうな。
人間にとって「左右」の判断は、「上下」や「遠近」などを判断するよりも、はるかに複雑で難しいものだという。

"As health care professionals, we spend a lot of time labelling spatial orientations: proximal, distal, superior, inferior, but really pay no attention to right or left," he (注:Gerard Gormley) says. "But actually, of all the spatial orientations, that is the most challenging."

しかし、「心的回転が不得意」だけでは、私の感じている左右認識の困難は説明できない
また、前述の愛媛大学の論文で使用された項目のうち、少なくとも以下の5項目は「心的回転が不得意」なだけでは説明がつかない。
これらは、どちらかというと私と同様に、「左」「右」という「言葉」と実際の「方向」が結びつかないことが原因かもしれない。

①「右手を上げる」「左手を出す」などの命令にとっさに反応できない
②「右を向け」「左を向け」などの指示にとっさには従えない
⑥車に同乗している時,運転者への「右折」「左 折」の指示がとっさにはできない
⑦視力検査の時,輪が開いているのが左右どちらかを答えるのに混乱する
⑨ 車の運転中に,同乗者の「右折」「左折」の指示にとっさに 反応できない

https://www.ed.ehime-u.ac.jp/~kiyou/2007/pdf/08.pdf

実際、同論文では以下のように述べられている。

Benton & Sivan(1993)は,心的回転を,左右識別能力を構成する基礎的な認知機能のひとつとして挙げている が,それがどの程度本質的なものであるのかについては 議論がある。
なぜならば,彼らも指摘しているように,心的回転が特に重要と思われる対面者の左右の判断は, 自己身体の左右の判断よりもかなり後に獲得される能力 だからである。

https://www.ed.ehime-u.ac.jp/~kiyou/2007/pdf/08.pdf

そこで、この「言葉」と「方向」の関係について考察した論文を読んでみた。
(続く)



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