【Season2 Vol.14】 JATO ATCリレー: 向原 裕哉さん
【Season2 Vol.14】 JATO ATCリレー: 向原 裕哉さん
JATO ATCリレー Season2の第14走者は、高橋 雄介さんからバトンを受け取ってくださった、向原 裕哉さんです。
向原さんと高橋さんは、同じリーグで約3年間対戦相手のアスレティックトレーナーとして活動されていたそうです。Los Angeles DodgersにてMinor League Athletic Trainerとして仕事を始められ、今シーズンで7年目が終わられたようです。長きにわたりアメリカ野球界で活躍されている向原さんにお話を伺いました。是非ご一読ください!
ATCになろうと思ったのはいつですか?またその理由を教えてください。
専門学校在学中です。当時の先生方から影響を受けたこと、高校アメフトでの実習経験からATCになって仕事をしたいと思い、卒業後留学をしました。それ以前の高校生の頃は部活に月1回来られていたS&Cコーチの方からアスレティックトレーナーという仕事があると教えてもらった程度で、そもそもATCとは何か専門学校に入ってから初めて知りました。
今、どんなお仕事をされていますか?
Los Angeles DodgersにてMinor League Athletic Trainerという立場で仕事をしています。7−8軍まであるMLBのマイナーリーグ組織ですが、2021年のシーズンはAA(3軍)を担当しました。
基本的にはスクリーニング、測定、メディカルチェックとフォローアップ、担当チームのEmergency Action PlanとCOVID-19プロトコルの作成・実施、怪我予防のプログラム作成・教育、日々のトリートメント・治療、リハビリや競技復帰のプログレッション、怪我や病気の評価・referral・prognosisの予測、それらに付随してくる決断と連絡、Electronic Medical Record(電子カルテ)に記録が主な業務です。
また、シーズン中にFAの選手をサインした際のメディカルチェックのセットアップや、戦力外通告された選手のexit physicalもチーム担当のATCが行います。
インシーズンであれば、評価や治療は対面で行う訳ですが、オフシーズンであればリモートで選手の状態を評価・判断し、我々ATCがリモートでリハビリすることもありますし、現地のドクターとPTさんに診てもらうこともあります。
メジャー担当に中島さんという先輩ATCがメディカルチームにいらっしゃいます。マイナー選手の情報を上げたり、春季キャンプの書類準備など、仕事を任されることもあります。
球団によって変わりますが、マイナーリーグATCならではの雑務があるのは事実です。例えば遠征では選手達2人で1部屋シェアなので、そのルームメイトのリストを作成して担当チームのフロントに連絡すること。もし選手がAAAやHigh Aのチームに移動となった場合、Emailで送られてくる航空券を選手に渡すこと、また空港への移動手段の手配も業務の一部です。他球団では航空券の予約自体もATCの仕事だったりします。
このように色々な業務があるので、球団フロント、コーチ、他部署スタッフ、ドクター・メジャーとマイナーメディカルスタッフ、担当チームのフロントなどとのコミュニケーションとその速さも重要となってきます。
シーズン中の向原さんの1日の動きを教えて下さい。
基本的なナイトゲーム(ホーム)の1日の流れは以下です。
〜12:00 球場に出勤
〜13:00 メール確認や雑務、その日のリハビリプランの確認、ATRのセットアップ
13:00〜 リハビリやトリートメント・ケア開始
15:00〜 練習開始、フィールド上で練習のカバー、競技復帰プログレッションの遂行
17:15〜 電子カルテに記録、トリートメント・ケアの続き、Pre-gameのケア開始
19:05〜 試合のカバー
22:00〜 必要であればPost-gameのケア、監督・コーチに怪我とリハビリのアップデート、電子カルテにその日のケアやリハビリを記録の続き、
23:00〜 帰宅
球場に早めに行って個人的にトレーニングすることもあれば、練習がほぼない日には球場に遅く行くこともあります。もちろん試合が延長したり、選手の緊急対応でERに行く際は深夜に帰宅することもあります。
また今シーズンはコロナ禍と言うこともあり、マイナーリーグでは週2回の唾液PCR検査の実施や、コンタクトトレーシング、プロトコルのアップデートによる現場の対応も行いました。
ご自身の仕事の好きなところ、やりがいを感じることについて教えてください。
これに関してはいくつかあげられます。
好きなところ:
多国籍・多文化で色々な方々と出会えること、そして競技力の高い選手たちのためにチームとして機能していること。
選手の人間としての成長を見れること。
自由な部分もありつつ、アメリカ野球界の厳しさを体感できること。
やりがい:
選手、コーチ、スタッフの信頼を得て、メディカルとしてチームの勝利に貢献すること。
担当した選手が上のレベルにあがり、最終的にメジャーに上がること、そして活躍すること。
怪我から競技復帰の手助けをすること。
過酷なスケジュールの中で、「仕事とプライベート」、そして「仕事と家族」のバランスはどのように取っていますか?Burn outせず、自身をポジティブに保つために取り組んでいることがあれば教えてください。(前回の高橋さんからのご質問です。)
仕事以外の時間やダウンタイム時に家族と連絡を取るようにしていますし、午前中や帰宅時には仕事モードをオフにし、自分の好きなことしたり、6時間以上(できれば7−8時間)必ず睡眠を取るようにしています。また試合終了後、球場に長く残らずさっさと帰宅できるように、可能な仕事は試合前に終えるようにしてます。
自分をポジティブに保つために取り組んでいること:オフ日をオフとして使うこと。例えば、オフの日は必要なリハビリではない限り球場に行かなかったり、メンテナンスのケアであればオフの日はやらないと伝え、ゴルフにでも行ってしっかり食べて寝てくれと言います。またHigh maintenanceな選手を極力作り出さないように、選手から要求は全て鵜呑みせず理由を聞くこと、必要と感じなければNoと言い、代わりに別の提案をすること、マニュアルセラピーの前後でアクティブなことを取り入れ、選手が自立してケアできるよう指導します。
あなたにとって、JATOはどんな存在ですか?
日本人ATCを支え守る存在でしょうか。これまで先輩方がATCの価値を広めてきた事実があるから、現在の立場があるのだと思っています。またヘルスケアプロフェッショナルとしてスポーツ以外の分野の開拓をしている方々もいらっしゃり尊敬しています。
あなたにとって、ATCは<ひとこと>で言うと、どのような職業ですか?またその理由を教えてください。
ファシリテーターだと思います。中立的な立場を保ちつつ、選手、コーチ、ドクター・PT、S&C、スポーツ心理、フロントなどの共に、メディカルや健康の観点から課題を円滑に解決していく職業です。そのためATCとしての評価やマニュアルセラピーなどのテクニカルなスキルの他に、ソフトスキルも向上していくことがとても重要だと思います。
【編集後記】 向原さん、お忙しい中ご協力いただきどうもありがとうございました。向原さんのアスレティックトレーニングに対する情熱や向上心がインタビューから伝わってきました。次回は向原さんと専門学校時代に同級生でおられた方に登場していただきます。どうか楽しみにお待ちください!
---
▼JATOのウェブサイトはこちら