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AU#28:睡眠介入が運動能力に及ぼす影響

睡眠介入が運動能力に及ぼす影響:システマティックレビュー

序文
睡眠は人間の健康と幸福にとって極めて重要な生物学的欲求です。健康と機能を維持するために、一般的に推奨されている睡眠時間は一晩に7~9時間と言われていますが、多くの成人はこの睡眠時間を満たしていません。高強度のトレーニングを行うアスリートにとって、睡眠は心理的・生理的回復のために最も重要な項目であることが認識されおり、最低8時間が推奨されています。しかしアスリート達は移動によって概日リズムが乱れたり不慣れな睡眠環境に晒されたりし、さらには競技前夜の認知的覚醒などのスポーツ特有の要因に加えて、仕事や学業、ライフスタイルの選択や個人の特性(年齢etc.)などの為に睡眠不足に陥っていることが報告されています。結果は一定ではありませんが、睡眠の制限によって身体・認知能力が低下する可能性が報告されています。このことからも、アスリートの睡眠に対する関心が高まっており、近年、睡眠介入を検討する研究が増加しています。これまで、アスリートの睡眠・覚醒行動を調査する研究は、栄養、睡眠衛生、睡眠延長・昼寝に焦点を当ててきました。しかしながら、現段階で睡眠介入に関する最新のシステマティックレビューは5年前にBonnarら(2018)によって行われたものであり、それ以降に多くの睡眠介入の研究が発表されています。よって、今回のシステマティックレビューはBonnarらの知見を拡大し、アスリートにおける睡眠とそれに伴うパフォーマンスの改善を目的とした睡眠介入に関する最新の文献を統合することを目的としたレビューとなります。

論文概要
背景・目的
睡眠はアスリートが最大限のパフォーマンスを発揮するために必要不可欠である。それにもかかわらず、スポーツの背景にはアスリートの睡眠とそれに伴う回復に悪影響を及ぼしうる多くの要因がある。このシステマティックレビューの目的は、アスリートにおける睡眠とそれに伴うパフォーマンスの改善を目的とした睡眠介入に関する最新の文献を総合することである。

方法
このシステマティックレビューでは、PRISMAガイドラインとPICOSアプローチに基づいて行われた。検索は2022年5月に電子データベースPubMed、EBSCOhost経由の SPORTDiscus、Web of Scienceを用いて行った。抽出後、以下の基準を満たす研究を対象とした:(1)参加者は個人またはチームスポーツのアスリート、(2)睡眠の改善を目的とした介入を実施、(2)少なくとも1つの客観的なパフォーマンス・回復の成果を測定、(4)睡眠とパフォーマンスの関係を報告。

結果
検索結果は1584件であった。スクリーニングの結果、25件の研究が組み入れ基準に合致した。組み入れられた論文は全て2011年から2021年の間に発表された介入研究であった。含まれた研究では、睡眠衛生、昼寝、睡眠延長、光操作、冷水浴、マインドフルネス、または2つ以上の方法の組み合わせなど、様々な睡眠介入が実施された。睡眠延長と昼寝は、睡眠とパフォーマンスを改善するための最も代表的な効果的方法であった。マインドフルネスと光の操作は有望な結果を示したが、これらの知見を確認するためには更なる研究が必要である。睡眠衛生、夜間の電子機器の排除、冷水浴は睡眠とそれに伴うパフォーマンス・回復に影響を及ばさなかったが、これらの結果は少ない研究に基づくものである。

結論
レビューされた文献中で質の高いエビデンスの量が限られていることを認めつつも、夜間の睡眠時間を増やすか昼寝をすることが、身体的および認知的パフォーマンスを改善するために最も効果的な介入であった。

まとめ
このシステマティックレビューの結果によると、睡眠延長と昼寝が、身体的・認知的パフォーマンスの改善に対して最も有力な睡眠介入であることが明らかになりました。アスリートが夜に7時間程度の睡眠を取っている場合、3〜49日間に睡眠時間を2時間まで増やすことが推奨されています。また、必要に応じて昼寝(20~90分)で日中の睡眠を補うこともできます。しかしながら今回のシステマティックレビューには、バイアスのリスクが低い研究が含まれていないため、結論の強みが限られているという制限があります。このトピックに関する今後の研究では、より確実な結論を導き出せるよう、より信頼性が高く妥当な研究方法を用いてエビデンスの質を高めるべきであると感じます。アスリートと関わる臨床家の方達には、睡眠時間がパフォーマンスに影響する可能性があること、どうすれば睡眠時間を増やせるかを、ぜひアスリート達と検討してみて下さい。

Reference
Cunha, L. A., Costa, J. A., Marques, E. A., Brito, J., Lastella, M., & Figueiredo, P. (2023). The Impact of Sleep Interventions on Athletic Performance: A Systematic Review. Sports Medicine-Open, 9(1), 58.
 
Bonnar, D., Bartel, K., Kakoschke, N., & Lang, C. (2018). Sleep interventions designed to improve athletic performance and recovery: a systematic review of current approaches. Sports medicine, 48, 683-703.

文責者:姜洋美

編集者:井出智広、岸本康平、柴田大輔, 杉本健剛、水本健太(五十音順)


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