ITの地産地消で地元を盛り上げたい。四衢深さんインタビュー
JASPER note編集部の高瀬です。
2024年4月、人口戦略会議は全国市区町村の4割にあたる744自治体が消滅する可能性があると発表しました。特に都市圏以外の”地方”において、人口減少はもはや止められるものではないでしょう。
人口が減ると公共サービスの維持が困難になります。なかでもエネルギーは我々の生活に密接する重要なインフラで、ビジネスモデルの転換や、テクノロジーの活用が求められています。
今回はそんな困難な状況が待ち受ける”地方”を対象に、エネルギーやテクノロジーという切り口でインタビューを行いました。
インタビュー企画「Bricolageの先駆者たち。」第四弾の今回、お話を伺ったのはエネルギー業界関連のSlerで働く四衢 深(よつつじ じん)さんです。
四衢さんは現在愛知県で暮らしていますが、将来は地元岐阜県へのUターンを意識しているとのこと。「IT×地方」や、「地方・地元で働くということ」について興味関心がある方はもちろん、そうではない皆さんも一緒に”地方”の未来を考えてみませんか?
ITとエネルギーに携わることはこれまでやってきたことと矛盾しないと思った
——まずはこれまでの経歴を教えてください。学生時代はどんなことを研究していましたか?
大学では地理学を、大学院では都市計画を専攻していました。地域分析や地価の研究など物理的な空間や人、地域など目に見えるモノを扱うことが多かったです。
——現在はITという目に見えないモノを仕事にしていますよね。なぜITに着目したのでしょうか?
ITを活用すれば「距離」という問題を克服できると思ったからです。地域の分析を行っている中で、どんな分析でも「距離」という問題が必ずありました。
大きい街に、洗練されていてサービスの質が高いお店があったとしても、そこから離れた場所に住む人はその恩恵を享受することができません。しかし、インターネット上のサービスであれば、どこにいてもそのサービスを受け取れます。
もちろんインターネットへのアクセスが困難な人がいることも理解していますが、物理的なサービスよりも遥かにアクセスしやすいと思います。
——ではエネルギー業界に着目したのはなぜでしょうか?
社会の基本的なサービスを支えるということは、これまで専門としてきたことと矛盾しないと思ったからです。
地理学や都市計画を研究する中で、大都市と比べてインフラが整っていない地域を対象にすることが多くありました。エネルギーは交通や公共施設などの基礎となる、インフラのインフラのようなものです。インターネットが発達してもエネルギーの供給は絶対に止められないので、そこを支えることはこれまで研究で扱ってきた”地域”に貢献することに繋がると思いました。
——実際にIT×エネルギーを仕事にしてみて、今はどのように感じていますか?
エネルギー業界においてITが活躍する場は想像以上にありました。主だったインフラが自由化されたことで業界全体で競争が加速しています。その中でDXの期待度が業界全体として高いことを感じています。
「出身者」がいなくなることで地方の人口減少は加速する
——現在、「地方」は多くの課題を抱えていますが四衢さんはどのような問題意識を持っていますか?
「地方」という言葉は定義がはっきりせずに使われている言葉だと思います。「7大都市圏以外の地域」とくくってみても、人口数千人の町と人口数十万の市を一緒に考えることは難しいですよね。
今回は思い切って高瀬さん(筆者)の地元の岩手県盛岡市や私の地元である岐阜県高山市のような人口10~30万人規模の都市について考えましょう。
大きな問題として人口減少があると思います。私が危機感を持っているのは「出身者」が減ることです。現在、新しく生まれる赤ちゃんのうち首都圏の割合が4割弱※¹です。少なくとも今までは首都圏は「行く場所」で「生まれる場所」では無かったのではないでしょうか。
今後は、地方が次の世代の人たちにとって縁遠い場所になってしまうと思っています。地方出身者が少なくなり、地方が旅行先になってしまいます。
地方に移住をしようと思う人には必ず動機がありますが、その大きな理由のひとつが「出身地だから」です。これから地方の移住施策はどんどん難しくなるのではないでしょうか。
※¹厚生労働省-人口動態調査(2022)によると、首都圏(東京都・神奈川県・千葉県・埼玉県・茨城県・栃木県・群馬県・山梨県)の出生数が全体の35.0%
IT化は地方経済の取り逃がしを防ぐこと
——首都圏での出生割合が増えているのは、東京への人口流出が原因ですよね。どのように対策すれば良いのでしょうか?
地方の人たちは経済的な動機で首都圏に移住している面もあります。地方でも稼げるようになることで、地元に留まれるようにしていくことが必要です。
難しいことですが、地方にも取り逃がしているお金はあると思います。それがITサービスです。こちらの図※²を見てください。私の地元である、岐阜県高山市の産業別「移輸出入収支額」を示しています。
「移輸出入収支額」とは、域外からの(移出・輸出に伴う)収入額から域外への(移入・輸入に伴う)支出額を差し引いたものです。 プラスの産業は域外からお金を獲得している産業、マイナスの産業は域外にお金が流出していることを示しています。
これを見ると、全ての産業の中でも第三次産業、特に情報通信業が大きくマイナスになっていることが分かります。つまり岐阜県高山市は情報通信業において165億円分の需要を取り逃がしているのです。
IT関係の仕事は東京に集まっていて、それ以外の地域は東京に依存しています。地方に人を残すために、地方がもともと強い産業を伸ばすことを考えがちですが、IT関係の仕事をもっと地方から生み出したいと考えています。
IT関係の仕事はビジネスを始めやすいという特徴があります。昔はサーバーを買ってくるなどネットワーク敷設にかなり時間とコストがかかりましたが、今はクラウドサービスを活用できるので敷居が低いです。これまで以上に地方でIT関係の仕事をやりやすくなるのではないでしょうか。
現在、高校生が使っている情報の教科書を読んだことはありますか?私は趣味的に読んでみたのですが、教科書の内容をマスターしている方が会社に入社してきたら、私の居場所が無くなってしまうのではと思うほどレベルが高いことを授業で扱っています。この教育を受けた高校生の中で、地元に残ってくれる人が一人でも二人でもいれば、地方でIT人材を確保することも出来ると思います。
分析が十分ではないのは承知の上で、地方発のIT化の推進は経済の取り逃がしを防ぐことにも繋がると思っています。
※²内閣府が提供する地域経済分析システム(RESAS)による「生産分析/指標別グラフ」
地元への回帰が理想
——四衢さん個人としてはどのようにそのような課題に向き合いたいと思っていますか?
今はまだ難しいかもしれませんが、地元の企業が域外に発注しているようなちょっとしたインターネットサービスや業務アプリを提供できるような人材になりたいと思っています。
例えばグラフィカルで新しいフレームワークを使っているようなwebサイトも今は個人でつくることができます。地元の人が自分たちのwebサイトを作ってくれたら嬉しいと思わないですか?また地元に住んでいるエンジニアであれば、直接顔をあわせて細かいカスタマイズを提供することも可能だと思います。地元で使うITサービスは地元で賄う、地元への回帰が理想ですね。
今注目しているインターネットサービスは「情報共有」です。昔は寺院という優れた情報共有の場がありました。今はお葬式があると葬儀業者がすべて手配してくれますが、昔は地域の人が寺院に集まり、協力して葬儀の準備をしていました。例えば食事の用意をするときには各家庭のレシピが集まり、お寺を中心に拡散されるのです。クックパッドのような料理レシピコミュニティがあったと言えるでしょう。
私はそのような地元ならではの情報を共有するようなポータルサイトはできないかと考えています。私の地元の岐阜県高山市は観光産業が稼ぎ頭で、様々なイベントが高い頻度で開催されているのですがイベントごとに個別に宣伝されていて、まとめて情報を得ることができない状態です。このwebサイトをみれば全ての情報が載っているという状況をつくりたいですね。もちろん、古くからあるアイデアですが、意外と私の地元には無いんですよ。
とはいえ、なにか具体的なITサービスを提供できなくても地元にUターンして移住するだけでも、私にとっても地域にとってもハッピーなことだと思っています。
——移住するだけでも地元への貢献になるということでしょうか?
はい。地元に貢献するとなると、考え方によってはすごくハードルを上げてしまうと思うんです。もちろんそういう考え方もあると思いますが誰でもできるわけではありません。まずはハードルを下げることが重要だと思います。
おわりに
今回は地方活性化という一口には言えない、難しいテーマを扱いましたが、四衢さんのデータを活用した分析や伝統的な文化から未来を考える洞察力で新しい気づきを得ることができました。ITサービスの地元への回帰をぜひ実現してほしいと思います。
インタビューの後には四衢さんのお話に関して意見交換を行いました。その中で、特産品や工芸品のように、それぞれの地方ならではの文化やストーリーがあると、地元でITサービスをやるべきという意味づけができるのではないかという考察もありました。私も地方出身者として、改めて地元の課題について考えてみようと思います。
以上、JASPER note編集部の高瀬がお届けしました。
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