厳しい時代に咲いた 可憐なリリシズム 『ブーべの恋人』
ルイジ・コメンチーニ監督 (1964) 伊
高校生の頃
むさぼるように観た 数々の洋画の中の一本。
毎週のように通っていた あのミニシアターの熱気
二色刷りの 粗末なパンフレットなど
思い出は濃く 深く、いつまでも色褪せません。
そして 哀愁帯びたこの主題曲は
当時、映画ファンなら
知らない人はいないほど ヒットしました。
主演は
この3年前の『ウエストサイド物語』で
ブレイクしたジョージ・チャキリスと
『若者のすべて』『山猫』など
ヴィスコンティ監督の秘蔵っ子 クラウディア・カルデナーレ。
人気スターおふたりのラブ・ストーリーですが
甘さや華やかさは まったく無い
純愛を描いた作品です。
〇
1944年。
イタリアの田舎町にある マーラの家に
ブーベという青年が訪れる。
終戦になり 故郷に帰る途中
戦友だったマーラの兄・サンテの最期を
報告するために立ち寄ったのだ。
ブーベは サンテと共に
パルチザンとして戦っていた青年だった。
マーラの父親は 心からブーベを歓待したが
サンテを失った母親は 何かしらブーベに対して
敵意のようなものを抱いた。
はじめて会った時から 意識し合ったふたり。
翌日、パラシュートの白い絹布を
マーラに贈り ブーベは帰って行った。
その後、数か月の間 ブーベとマーラは
何度か手紙をやりとりしたが
ブーベからの手紙には 党活動の報告ばかりで
甘い言葉のひとつもなく マーラはそれがもの足りなかった。
数か月経ったある日
突然ブーベが身を潜めて マーラの家を訪れた。
ある事件に巻き込まれ
憲兵の息子を射殺し 指名手配の身になってしまったのだ。
マーラの父親から 婚約の許しを得たブーベは
マーラを連れて 故郷へ帰ったが
貧しく汚いブーベの家や家族に マーラはがっかりする。
だが現状は その実家にすら 留まってはいられない。
紙工場の廃墟を隠れ家にし
迫りくる追手の影を感じながらも 束の間の幸せに浸るふたり
しかし遂に 身辺が危うくなったブーベは
仲間の計らいで ひとり国外に逃亡することになる。
突然の別れ。
このシーンは堪らない。
胸を搔きむしるような 名曲が拍車をかけます。
それきり
ブーベからは何の音沙汰もなく 一年が過ぎ
心細く不安な日々を過ごす マーラの前に
ステファノという青年が現れる。
詩や文学について語る ステファノに
ブーベには無い 知性と洗練さを感じ
次第に惹かれていくマーラ。
しかしやがて
ふたりが結婚を考えるようになった頃
ブーベが逮捕されたという知らせが入る。
面会を許され 揺れ動く想いを抱え
ブーベに会いに行くマーラ。
「君の心変わりだけが心配だった」と
ブーベは泣いた。
どんなときも弱みを見せなかった 強いブーベが・・・。
ブーベは 14年の刑を言い渡され
そしてマーラは ブーベの妻となることを決心した。
これから 長い長い14年の刑期が終わるまで
2週間ごとの面会に 刑務所に通い続けるのだ。
7年が経った ある日
駅でステファノと会った。
ステファノの指に 結婚指輪を見たが
マーラは何の感慨もなかった。
「14年と聞いたときは 不安になったけど
この7年は 意外と平気だった。
だって、あと7年経っても
まだ私は34歳、ブーベは37歳、子供だって産めるわ」
〇
主人公のふたり
ブーベのマーラも 実在した人物で
パルチザンとして 抵抗運動に加わっていた
ブーベのモデルと言われる若者は
このお話当時は
18、9歳の 小柄で黒髪の青年で
チャキリスさんに とても似ていた感じだったそうです。
マーラのモデルも
イタリアのシエナ島に住んでいた女性で
今でも「マーラの家」は 残されているとか。
そして
クラウディア・カルデナーレさんは
現在、ユネスコの親善大使として
教育を通した女性の 権利保護活動をしているそうです。
おしまい