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デヴィッド・リーン 不朽の名作『逢びき』

デヴィッド・リーン監督 (1945) 英

『アラビアのロレンス』『旅情』などの
名匠デヴィッド・リーン監督の 珠玉の恋愛映画。

原作・脚本は ノエル・カワード。

暗いプラットホームに煙を吐きながら
汽車が滑り込んでくる。
そのクレジットタイトルのシーンに流れる
ラフマニノフの「ピアノ協奏曲第2番」

この映画を観たのも 高校三年くらいのとき
毎週のように通っていた ミニシアターでしたが
私はこのときはじめて
ラフマニノフのこの曲を知りました。

うっとり聴くというより
心の奥底を揺さぶられるような 深い響きに
感動してしまいました。

映画では
オーストラリア出身の天才ピアニスト
アイリーン・ジョイスが演奏しています。

それではお話。
あいかわらずの ネタばれりんこ!

          〇

冒頭、ミルフォード駅内の喫茶店で
沈んだ面持ちで向き合う 中年の男女がいる。

ローラ (セリア・ジョンソン)と
医師のアレック (トレヴァー・ハワード)である。

そこへ偶然にも
ローラの顔見知りである お喋り好きなドリー夫人が
ふたりを見つけ 割り込んでくる。

ローラは仕方なく アレックを紹介
彼は来週アフリカに赴くと 付け加えた。

そう、ふたりは別離の 最後の時間を惜しんでいたのだ。

ふたりの雰囲気を察しもせず
べらべらと話しかけるドリー夫人。

やがてアレックの乗る チャレー行きの汽車が到着した。

彼は何も言わず ローラの肩にそっと手を添え
そして、足早に店を出て行った。

帰りの汽車の中でも
喋り通しのドリー夫人に 耐え難い想いで
ローラが帰宅すると
夫は子供たちを寝かしつけ
居間でクロスワードパズルをしていた。

何も知らない夫。

ローラは レコードに針を落とし
ラフマニノフを流しながら
アレックと出逢ってからの日々を追想する。

「数週間前まで 私は家庭が生きがいの
 平凡な主婦だったのに・・」

ローラは毎週木曜日に ミルフォードの町に汽車で出かけ
買い物をし 貸し本屋で本を借り 昼食を取り
午後は映画を観たりして
夕方の汽車で帰宅するという 平凡な結婚生活を送っていた。

ある木曜日
駅のホームで 目にススが入ったのを
取り除いてくれたのが
まだ見知らぬ人であった アレックだった。

翌週の木曜日
ふたりは街角で偶然、再会し 挨拶だけで別れたが
その次の木曜日はレストランで会い
混んでいたので相席になり 自己紹介をしあった。

アレックは開業医で
木曜だけミルフォード病院に 代診に来るという。
二人の距離は一気に縮まり
木曜ごとのデートを愉しむようになる。

ふたりの住まいは
ミルフォード駅を挟んで 逆方向にあるので
送ったり、送られたり
「あ、あなたの汽車が来るわ!」と
上り下りのホームを 忙しく行きあう姿がほほえましい。

しかし ある木曜の夜 家に帰ると
息子が車と接触して 頭に怪我をしていた。
怪我は軽かったけれど
ローラは自分に バチが当たったと思う。

 だがアレックに逢いたい気持ちは抑えられず
木曜日のデートは続けられ
あるときは 夫にはじめて嘘をついた。

やがて アレックも
抑えきれずに愛の告白をし ふたりは恋に落ちた。

次の木曜日は
アレックが友人の車を借り 郊外をドライブしたが
夜になって車を返しに行った 友人の留守宅で
ふたりが抱擁したとき
思いがけなく早く帰って来た 友人の足音に
ローラは慌てて 裏口から逃げだした。

無様な姿だった。

ローラは屈辱から 夜の町をさまよい歩き
公園にいたところを
警察官に商売女と間違えられた。

このままでは帰れない・・
夫に電話をかけ
嘘の理由を作り 帰宅が遅くなることを伝えた。

もう何度目の嘘だろう。

終電間際の駅に行くと アレックが来た。
ローラと同様 苦しんでいたアレックは
自分の決心を ローラに伝える。

自分たちの手で この恋を終わらせようと
今、打診を受けている
南アフリカの病院に 妻子と赴くことを。

最後の木曜日。
はじめて出逢った ミルフォード駅の喫茶店で
別離の苦しさに 胸を絞めつけられるふたり。

そこへ
ドリー夫人に邪魔されたのだ。

別れの言葉も交わせないまま 去って行ったアレック。
彼はどんな気持ちだっただろう・・

ふと、気づくと
ここは自分の家の居間であり
ラフマニノフが流れていた。

目の前に
妻の様子を心配げに 見つめる夫がいた。
こらえきれずに
ローラは夫の胸にすがりついた。

最近のローラの様子に
何かを察していたらしい夫が言う。

「遠くへ旅していたね、よく戻って来た」

          〇

不倫を描いたメロドラマといっても
ベタついた感じが まったくしない
品のある 大人の恋愛映画。

第一回目の カンヌ国際映画祭 パルムドール賞受賞
アカデミー監督賞、脚本賞受賞

また、1999年 英国映画協会が発表した
「20世紀の英国映画ベスト100」では

第2位の『逢びき』ほか
『アラビアのロレンス』『戦場にかける橋』『ドクトルジバゴ』など
7作品がランク入りし
リーン監督は正にイギリス映画界を代表する巨匠でした。

デヴィッド・リーン監督

おしまい

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