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元祖・保険金殺人!深夜の告白 (1944) 米

レイモンド・チャンドラー脚本 ビリー・ワイルダー監督

原作は
『郵便配達は二度ベルを鳴らす』のジェームズ・M・ケイン
原題は『倍額保険』

これは絶対、面白い!
だって制作者が これほどのメンバーだもん!

保険勧誘員 ウォルター・ネフ (フレッド・マクマレイ)
フィリス (バーバラ・スタンウィック)
ネフの上司 キーズ (エドワード・G・ロビンソン)

          〇

深夜
パシフィック保険会社の ビルの前に止まった車から
肩を拳銃で撃ち抜かれた 勧誘員のネフが降りて来る。

ネフはよろめきながら 無人のオフィスに入り
録音機に向かい
上司・キーズに宛てて 告白を始める。

「キーズ、俺が殺した、犯人は俺だ。 
金のために、女のために・・・ 
そして金も女も手に入らなかった・・笑えるぜ」

物語は ここから ネフの回想に入る。

数か月前、ネフは自動車保険の更新の件で
ディートリクスン氏の 邸宅を訪れたが
主人は留守で 妻のフィリスと会った。

美貌のフィリスに 一目惚れしたネフだが
フィリスもネフに
自分と同じ 暗い匂いを嗅いだ。

フィリスは 愛情の無い夫に
多額の生命保険を賭け 事故死に見せかけ殺害し
保険金をせしめようと 初対面のネフを誘う。

ネフは彼女の誘いを一蹴して 引き上げたが
その夜 アパートに
「あなた、昼間 忘れ物をしていったわよ」と
フィリスが 手ぶらでやって来る。

ネフは フィリスの魅力に負け
殺人計画に 加担することになるが

当然、保険の知識を 知り尽くしているネフは
やがてフィリスに 夫を倍額保険に加入させるよう
指示するなど 主導権をとって行く。

倍額保険とは
自動車などの交通機関より 危険度の低い
鉄道による死亡事故には
倍額が下りるという 保険である。

フィリスは夫を欺き 保険に加入させたうえ
最近、事故で怪我を負い 今は松葉杖使用の夫に
敢えて列車で 大学の同窓会に行くよう仕向け

フィリスの車で 駅に送る途中
後部座席に隠れていたネフが 彼を撲殺した。

その後、駅や列車内で
「ディートリクスン氏」の 目撃者を作るため
変装したネフが 松葉杖で歩き回り
計画は 周到な偽装のもとに仕組まれ

ディートリクスンの死は 列車転落事故として処理され
保険金殺人は 成功したと思われたが

しかし ここで待った、をかけたのが
皮肉にも ネフが日頃から敬愛し、友情を温めあって来た
上役の敏腕調査員キーズだった。

キーズは 長年の経験による勘から 疑問を抱き
高額な保険金支払いを差し止め
フィリスの身辺調査に乗り出す。

結果、いつまで経っても 保険金は得られぬまま
逢うこともままならず
膠着状態に追い詰められた ネフとフィリスは
運命共同体の立場にありながら 相互不信に陥って行く。

そして それにつれて ネフの知らなかった
フィリスの恐るべき過去が 徐々に明らかとなり

さらにフィリスが 亡夫の娘の恋人とも
関係を持っていることを 知ったネフは
やがてフィリスと 手を切ることを決意するが・・・

ラスト。

冒頭のネフの告白シーンに キーズが現れ
力尽きて倒れ込む ネフの最後の煙草に 火をつけてやる。

このラストシーンの伏線として たびたび出てくるのが
葉巻をくわえたキーズが
あちこちポケットをさぐっても いつもマッチが見つからず
そのたび ネフに火をつけて貰うシーン。

ユーモアたっぷり 友情たっぷりの
二人の会話がとてもいいの。

ネフとフィリスの 男女の関係が
破滅の道へ 陥って行くのと対照的に
ネフとキーズの 男の友情は全編に貫かれ
ラストシーンに至って 物語に深い余韻を残してくれる。

          〇
1944年制作というと 今から80年前の作品。

以後、洋の東西を問わず
「不倫が動機の保険金殺人」という題材は
多くのミステリー映画、テレビドラマに用いられましたが
その源流は
この『深夜の告白』にあるとも言われているそうです。

また、今まさに 破滅に直面している
主人公の回想によって物語を描く というスタイルは
フィルム・ノワールの基本手法の ひとつになったとあります。

そして裏話も面白い。
だって、みんな仲が悪いんだもん。

ジェームズ・M・ケインの原作を
気に入ったワイルダー監督は
長くコンビを組んで来た
脚本家チャールズ・ブラケットに依頼したが

ブラケットは
当時としては極めてインモラルな この小説の脚本化を拒否。
そこで ワイルダーは
レイモンド・チャンドラーと 組むことになったが

初老で気難しく 映画脚本は初挑戦のチャンドラーと
当時30代で 洒脱な性格のワイルダーは 正反対のタイプで
非常に折り合いが悪く しばしば衝突。

しかもチャンドラーは 以前から
原作者のジェームズ・M・ケインの 作品が大嫌いで
制作会議でも ケイン本人を前にして
容赦なく原作をこき下ろし 罵倒したそうですが

それでも この仕事を受けたのは
お金が目当てだったそうです。

ビリー・ワイルダー監督
レイモンド・チャンドラー
ジェームズ・M・ケイン

しかし、こんなに仲の悪い人たちが集まって
こんな傑作を 生み出すなんて さすがですわね。

おしまい

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