嗚呼、青春の花咲けば 惜春鳥 (1959) 松竹
木下惠介監督
『惜春鳥 せきしゅんちょう』
古い映画です。
でもこの映画を好きな 年配の方は多いのではないかしら。
木下惠介監督の
青春映画の金字塔と言われています。
また私にとっての深い思い出は
亡くなった母が
この映画の主題歌を よく歌っていたことなの。
もう今は 知っている方も 少なくなったでしょう。
若山彰さんの歌った『惜春鳥』
♪~流れる雲よ 朝空に 朝空に
輝く遠き 山々よ 山々よ
若き命の喜びを 知るや大空 晴れ渡り
嗚呼、青春の花咲けば
どこかで鳥が鳴いている
この美しい詩は 木下監督。
劇中、何度も流れていて 映画を観終わったときには
メロディが耳について離れない。
今は私がよく歌ってます♪♪
歌はネットで聴けるのよ。
とても耳に残る いい歌なんです。
みんなも聴いてごらんよ。
物語は
雄大な磐梯山を望む 会津若松市を舞台に
成長していく5人の若者たちの 友情を描いています。
〇
東京の大学に通っていた
岩垣 (川津裕介)が 帰郷したのを機会に
高校時代、仲の良かった4人は
早速その夜、宴会を開いて旧交を温める。
岩垣は高校時代、成績が良く
ある実業家の支援を受け
氏の東京の本宅に 住まわせて貰いながら
大学に通っていたが
この家の女中と おかしなことになってしまい
氏の怒りを買い 支援は断ち切られ
今はアルバイトをしながら 大学に通っているという。
4人はそんな岩垣を 大いに励まし
しばらく故郷で静養しろと 賑やかに酒を酌み交わす。
ここに飛び入り参加する 芸者のみどり (有馬稲子)
みどりは皆にせがまれて 得意の白虎隊を踊る。
彼女は
牧田 (津川雅彦)の 叔父の英太郎 (佐田啓二)と
以前、東京に駆け落ちし
連れ戻されたという過去があった。
その英太郎は
今はこの地で胸を病み 希望を失くしている。
さて 翌日、飯盛山に登った5人は
白虎隊の墓前に詣でると 白虎刀を買い
馬杉 (山本豊三)の詩吟で 剣舞を舞う。
舞いながら 彼らの脳裏に浮かぶのは
高校時代 他の仲間たちと共に
墓前祭で奉納剣舞を 披露した時のことだ。
♪~南鶴ヶ城を望めば 砲煙あがる~
このシーンが とても素晴らしいのは
奉納剣舞で舞う 高校時代の彼らの姿と
現在の彼らの働いている姿が
オーバーラップするところである。
脚の悪い馬杉(豊三)は 実家で会津塗りを手伝い
峯村 (小坂)も 実家の旅館で板前修業
手代木 (石浜)は工員で 今は労働闘争の真っ只中
牧田 (津川)は
母親の経営するスナックで シェーカーを振っている。
ひととき、
昔の良き思い出に浸る 彼らだったが
現在の彼らは それぞれの境遇の違いから
当然、考え方も感情も ひとつにはなれず
小さな諍いも生まれる。
岩垣は帰省中ずっと
峯村の旅館に泊めて貰っているが
あるとき 他の者には内緒にしてくれと口止めし
峯村に 一万円の借金を申し込み
気持ちの優しい峯村は 皆に内緒で用立ててやる。
岩垣は更に 翌日、馬杉を呼び出し
もらい物の自分のカメラを
馬杉の名義で質入れし 一万円作ってくれと頼み
ここらあたりで徐々に 岩垣の本性が現れて来る。
しかし馬杉は 岩垣のカメラを質入れせず
実家から父の短刀を持ち出し 質入れし
その代金三万円を岩垣に渡した。
岩垣のカメラは
一万円の価値もない安物だと見抜いたからだった。
そしてやがて 岩垣の 今回の帰郷が
東京で犯した詐欺犯罪から 逃亡するための
資金作りであることが露見し
それをきっかけに 彼らの友情は崩壊していく。
そして終盤
芸者みどりの 身請け話が決まり
先の希望のない 英太郎とみどりの恋は・・
病床の英太郎が 東京に駆け落ちした頃の
みどりとの思い出を語るシーン。
「思い出すよ、狭い汚いアパートで
あいつはハタキを持って 白虎隊を踊った。
金が無くて 朝から何も食べてなかったんで
あいつはわざと 元気に踊ったんだ」
〇
まず昭和30年代の
懐かしい会津若松の 温泉旅館やカフェといった街並みや
美しい自然の風景に 目を奪われます。
この土地にご縁のある方なら いっそう胸に沁みるでしょう。
そして この5人の若い俳優さんたちが
声を揃えて詩吟を謡い
剣舞を舞う 長いシーンがとても見事。
ふだん馴染みのない 詩吟や剣舞ですが
いいものだなあ~と しみじみしました。
一方で この作品は当時から
「ゲイ・フィルム」として 論じられることがあったらしい。
ホモセクシュアルの 木下監督らしい作品と言えます。
この、津川雅彦の「牧田」と 小坂一也の「峯村」の
旅館のお風呂のシーンでは
そこに 何年かぶりで帰郷した
川津裕介の「岩垣」が飛び込んで来て
再会を喜んで 濡れた体もいとわずに
抱き合って喜びますが そんな仕草にもちょっと驚きます。
この数分のシーンに 撮影は一日中かかり
俳優さんたちは のぼせあがったそうな・・
そして、川津裕介扮する「岩垣」に対する
山本豊三の「馬杉」の想いも 間違いなく恋であり
とにかく、この5人の美男俳優さんたちは
当時、木下監督の
お気に入りだったのではないでしょうか。
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