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赤西蠣太 (1936) 日活

伊丹万作監督

監督の伊丹万作さんは 伊丹十三さんのお父上。
原作は「小説の神様」と言われた志賀直哉。

当時は「小説の神様」の "神品"を映画化しようなんて
考える者は誰もいなかったが
伊丹監督はそれに挑み

それを許した志賀直哉も
監督の才能を 高く評価していたのでしょう。

この映画、とにかく面白い。

主人公・赤西蠣太(あかにし・かきた)には
それまで白塗りの 二枚目専門だった片岡千恵蔵を
間抜け顔の醜男メイクで 三枚目芝居を強調させ

一方、敵方の原田甲斐は 素晴らしい美男でありますが
こちらも片岡千恵蔵の二役です。

斬ったはったの大立ち回りの時代劇に反し
チャンバラ場面を削り
風刺たっぷりのギャグの豊富な時代劇で
日本映画の知性を高めたと言われた伊丹監督作品。

だってほんとに この映画、面白い。
現代劇調で、マンガチックで、落語的で・・
伝説的な名監督・伊丹万作さんが
こんなに面白い人だったとは 知らんかったわ。

          〇

まずそのセンスに驚かされる ファースト・シーン。
雨の夜、二人の武士が
蠣太の噂話をしながら歩いている。

ここで観客には 主人公・赤西蠣太の人となりが
スムーズに伝わって来るが
この 傘をさして歩く二人の武士を 俯瞰で撮り
そこに ショパンの「雨だれ」が流れるのだ。

そして お話は「伊達騒動」だが
この「伊達騒動」は 当時、芝居や講談であまりに有名
知らない人はいないということで
この作品では ストーリーをだいぶ省略している。

で、ここでは簡単に 映画のあらすじを。

仙台・伊達藩では 世継ぎをめぐり
真っぷたつに割れている藩内には 陰謀が渦巻いていた。

そこへ 江戸の殿様の命を受け 
赤西蠣太という 下級武士が
スパイとなって 伊達兵部の悪事を暴くため
伊達の屋敷に潜入。

一年ほど経ち
悪事を暴くための証拠の書類が完成したところで
江戸に帰ることになったが
蠣太の実直な勤務ぶりを気に入った伊達の主君が
スパイとも知らず 放してくれない。

やむなく、何か騒ぎを起こせば 追放されるだろうと
家中で評判の美人である
侍女の小波(さざなみ)に 恋文を贈りつけ
振られて面目がつぶれたところで 暇を貰おうとしたが

ところがなんと
小波は彼の求愛に 心をときめかしてしまう・・・

・・という、ラブ・コメみたいな展開ですが
でもドタバタ調ではなく
洒落て機知に富んだ会話でお話が進んでいく
ほんとにセンスいいのよ。

チャンバラ・シーンは 一か所だけ
後半、お家騒動の張本人・原田甲斐が
大立ち回りの末、倒されます。

面白いと言えば
「蠣太・かきた」をはじめ 登場人物の名が

銀鮫鱒次郎 (ぎんざめ・ますじろう)
浅利貝之丞 (あさり・かいのじょう)
按摩・安甲 (あんこう)
小波 (さざなみ)
女中・若芽 (わかめ)
角又鱈之進 (かくまた・たらのしん)←志村喬さん

なとなど 海産物の名がついている。
「サザエさん」ふうなのだ。

そして蠣太は 現代でいうなら
地方に赴任しているサラリーマンで
社宅(長屋)に住んでいるけど 猫を飼っている。
こんなに頻繁に 猫が登場する時代劇も珍しいですわ。

会話は 武士っぽくない口語体。
「助かりますかしら・・」
「また、元気で会おうよ」

それから 家臣が一堂に会す場面。
何十人もの侍たちが廊下の端に
順々にウェーブを作って 正座していく。

大勢の侍たちがウワッと
一室から溢れ出て来て 大騒ぎをする俯瞰の図。
俯瞰好きのジャスミンは大喜び。

ラストは 一件落着した後、
小波の自宅を訪ねる蠣太。

はじめ同席していた 小波の父、母が
ポッポッと 画像処理で消えていき
ふたりきりになった このシーンに
ワグナー「結婚行進曲」が流れて ハッピーエンド。

志賀直哉が絶賛したという
ユーモラスで モダン・ティストの溢れる傑作なのです!

伊丹万作監督

ご子息・十三さんと。

伊丹万作の子息・岳彦君 (十三さん)と
大江健三郎は 松山東高校で友人同士だった。
大江は
「岳彦君はいつも半外套を着て
 ジェラール・フィリップのようだった」
と話していた。
大江は後に十三の妹と結婚し、義弟となった。




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