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役所さん 秀作ドラマ『幽婚』

山本恵三監督

こちらは
平成十年にTBSで放送されたドラマ『幽婚』

好きだった脚本家・市川森一さんのお名前に惹かれて
録画して置いたものでしたが
これが素晴らしい!

よくぞ録画したと 自分を褒め褒め
市川作品の中でも
『淋しいのはおまえだけじゃない』『異人たちとの夏』に並んで
私のベスト3になったの!

          〇
冒頭は
主人公・岩淵 (役所広司)の 結婚式のシーン。

この見合い結婚の相手は
元ヤンキーの風俗嬢で 前科持ち
実家は岩淵家以上の 貧乏家庭で
親たちに言わせれば お先真っ暗婚。

しかし岩淵は この結婚を選んだ。

物語りは ここから
岩淵の回想に入ります。

背中に「吉祥天」の刺青を入れている
元ヤクザの岩淵 (役所広司)は
今は真面目に
霊柩車運送会社で 運転手をしている。

葬儀屋ではなく 霊柩車の手配をする会社。

ある夜、若い男が来て
自分の婚約者が 突然死をしたので
故郷の 四国の村まで 亡骸を届けて欲しいと言う。

その村は 黒髪村という山深い村で
翌朝、男の道案内で
岩淵は 彼の婚約者の亡骸を乗せた 霊柩車で出発したが
男は途中で姿を消してしまう。

置き去りにされた
棺の中の女性・佐和 (寺島しのぶ)を見て
不憫に思う岩淵。

「大丈夫ですよ、私がちゃんとお送りしますからね」

地図を見ながら 四苦八苦で走り続け
ようやくたどり着いた黒髪村。

「佐和ちゃん、おかえり」
両親、親戚、村の住民たちに 温かく迎えられる佐和。

岩淵も丁重に迎えられ ひと息つくが
ここで 四十近い岩淵が まだ独身だと知ると
住民たちは なぜか大喜びをする。

実はこの村の風習で
結婚の決まっていた女性が 結婚前に亡くなると
想いがこの世に残ると いうことから

仮の通夜を営み ここで生前の婚約者と
祝言の真似事をしてから 葬送するという
それを「幽婚」と呼ぶが

この場合は 肝心の婚約者が逃げてしまったので
ここでただ一人の独身男 岩淵が花婿役を頼まれる。

岩淵はこの話に ただ驚くばかり。
承諾もしていないのに
どんどん話を進める 住民たちに

冗談じゃない!こりゃあ、一発カマしてやらにゃあと

「ちょっと、ちょっと待ってちょ、
 自分はかつてヒザクラ会と言うテキヤの組員
 前科一犯の凶状持ちで・・」と

パッと背中の「吉祥天」を見せつけたが
年寄りたちは
「おお、お引き合わせじゃ」と
感動して手を合わせる始末。

とうとう力づくで
紋付き袴を着せられ 座敷に連れて行かれると
そこには 白むく姿の花嫁が
ドライアイスによる 霊気漂う姿で 座らされている。

ひぇーっ、あまりの恐ろしさに
柱にしがみつく岩淵を押さえつけ
無理やり花婿の席に座らせると

ぶるぶる震える手で 三々九度を済ませ
いよいよ離れ家に移され ふたりきりに・・

恐怖を忘れようと お酒をがぶ飲みし
酔って寝込んだ岩淵だったが
ふと気づくと
布団に寝かされていた花嫁がいない。

どこからか聞こえて来る かすかな歌声に
表に飛び出すと

蒼い宵闇の中に 佐和がぽつんと立って
「叱られて」を歌っていた。

「私は あなたの妻よ。
 私、今夜はとっても幸せ・・」

いつしか打ち解けて 手をつなぎ山を歩くふたり。
「手があったかい・・」

「俺は死人と歩いている。だが恐れよりも
 言いようのない切なさに 胸が絞めつけられる思いだった。
 この世にいない者に
 愛おしさを感じ始めている 自分への悲しみだ」

そしてふたりは 滝つぼの水に打たれながら 結ばれる。

しかし、夜明け前には
あの世に帰らなければならない佐和。

「わたしを忘れないで。
 一夜も一生も同じ 人の夢。
 過ぎ去ればみんな思い出。あなたの中でわたしは生きたい」

佐和は 薄闇の中に消えていった。

部屋に戻ると
佐和は夕べのまま横たわっていた。
「佐和ちゃん・・・」

夜が明けて岩淵が目覚めると 
本宅の方では 佐和の葬儀が始まっていた。

「ご苦労さまでした」

離れで
佐和に添い寝をしていた岩淵の姿に
村人たちはみな 感動して喜んだという。

岩淵の仕事は終わった。

帰路につく岩淵。
霊魂がついて来るから
行きと帰りは 違う道を通ると言うけれど
「ついて来るなら ついて来ていいんだよ」と
わざと同じ道を辿った。

ふたたび日常に戻った 岩淵だったが
まるで本当に 恋女房を亡くしたような
耐えがたい淋しさに襲われ

それまでまったく耳を貸さなかった
見合い話を はじめて承諾する・・・

そして この結末
なんて素晴らしいの!
ここは、とても勿体なくて言えませんわ!

もう、何べんも観てるというのに
観終わってから ずっとウルウルが止まらない。
誰もの 琴線に触れるドラマだと思いますよ。


文化庁芸術祭最優秀賞
日本民間放送連盟優秀賞
第25回放送文化基金賞
第36回上期ギャラクシー賞
モンテカルロ国際TVフェスティバル銀賞 などなど受賞。

今、YouTubeで観られます。
見なきゃ、損よ。

おしまい

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