汚れなき悪戯 (1955) スペイン
ラディスラオ・バホダ監督
もう70年近くも前の映画ですが
世界中で大ヒットしました。
原題は「パンとワインのマルセリーノ」
私はこの映画を 高校生の頃、名画座で観ました。
高校2年、3年の頃は 洋画一辺倒でしたが
毎週のように 映画館に通ったものです。
そして 主題曲「マルセリーノの歌」は
ラジオでよく流れていました。
教科書やノートを広げた (広げただけ) 机の上を照らす
スタンドの丸い灯りの下で
聴いていた夜を 思い出します。
映画は何べん観ても 涙が出ますが
悲しいからじゃない
この映画の持つ 崇高な精神に涙が出るのです。
それでは、あらすじ 最後までの ネタばれと
映画にまつわるお話をちょこっと。
今日、スペインの小さな村では
村人たちが総出で お祭りを楽しんでいます。
そんな賑わいの中、一人の神父が
病気でお祭りにも 行けない少女を訪ね
こんな話を聞かせます。
それは、このお祭りにも名を残す
マルセリーノの奇跡の物語。
昔、19世紀の後半
戦争によって荒れ果てたこの地に 修道院が建てられ
12人の修道士たちが つつましく暮らしていた。
するとある朝、門前に赤ん坊が捨てられていました。
修道士たちは村中を歩いて 両親を探しましたが見つからず
ついに自分たちの手で この子を育てることにします。
マルセリーノと 名ずけられた男の子は
12人の修道士によって すくすくと育っていきました。
ここで流れる『マルセリーノの歌』によって
マルセリーノの 一日が描かれます。
♪~ お眠りマルセリーノ もうすぐ夜が明ける
お前の一日と魂は 12人の修道士が守ってる
お起きよマルセリーノ もう目は覚めたね
お祈りは 良い子のつとめ ~♪
そして5年が過ぎました。
マルセリーノは修道士たちを
小粥さん、鐘さん、門番さん、病気さん・・と
あだ名をつけ 活発でやんちゃな子に育ちました。
そんなある日、町に行く途中で馬車が故障し
修道院に立ち寄った 農家の一家がいました。
ここで マルセリーノは
優しく美しい農家の若妻と 話をします。
「お父さんは?」
「12にんもいるよ」
「お母さんは?」
「一人もいないの」
彼女は自分にも マヌエルという
男の子がいると 言いました。
この日から マルセリーノは
この若妻に自分の母の姿を重ね
そして会ったこともない
マヌエルという彼女の息子は 空想の友達になったのです。
見えないマヌエルと 会話するマルセリーノを見て
僧院長は心配します。
小さなマルセリーノが 大人ばかりの中で 育っていくことを。
彼は孤独という 病気なのだ。
マルセリーノは 病気さんに訊きます。
「ぼくのお母さんはどこにいるの?」
「母親というものは みんな天国にいるんだよ」
あるときマルセリーノは
行ってはいけないと 言われている屋根裏に行き
十字架に掛けられた キリストの木像を発見します。
そして その瘦せ細った体を見て
食堂から パンとワインを持ち出し キリストに差し出します。
「お腹が空いているんだね」
すると
このとき、キリスト像の右手が静かに動き
パンを受け取るのです。
このシーンが 思いがけないほど感動的なのです。
それから毎日、パンとワインを運ぶマルセリーノ。
寒い夜には 毛布を運びます。
さて、近頃 パンやワインが無くなることに
首を傾げていた 料理長のお粥さんは
ある日、屋根裏に上がっていく マルセリーノを見つけ
こっそり後を追い
そして、屋根裏のドアの隙間から
あのお方の 声を聞きました。
思わず祈りを捧げる お粥さん。
キリスト像は マルセリーノに尋ねます。
「私が誰だか 分かるかね」
「神様でしょう」
「そうだ。優しくしてくれたおまえに 何か報いたい。
何が望みだね。欲しいものを何でもあげよう」
マルセリーノは 答えます。
「天国のお母さんに会いたい」
「それは 今すぐにかね」
「今、すぐだよ」
すると 何処からともなく 満ち溢れる光の中
キリスト像の腕が
優しくマルセリーノを抱きしめる。
お粥さんはこの光景に 幾筋もの涙を流しながら
修道士たちを呼びます。
屋根裏に集まった 修道士たちは
キリストの慈愛に 満ちた腕の中で
昇天していくマルセリーノの姿を 声もなく見守ったのでした。
翌日、この奇跡を聞いた村人たちは
修道院に集まり マルセリーノを弔い
以来、この日を
「パンとワインとマルセリーノの祭り」としたのでした。
神父が病床の少女に 語り終わった頃
祭りも終わり 日は暮れようとしています。
〇
5000人もの 応募者の中から選ばれた
マルセリーノを演じた パブリート・カルボ君が
1955年の カンヌ映画祭で 特別子役賞を受賞し
スペイン映画が
国際的な成功を収めた 初めての一歩となりました。
ピュアな瞳の ほんとに愛くるしい子で
初公開当時、日本でも大変な人気だったそうです。
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