デンマークとスウェーデンの地方創生:第五章・デンマークの地域政策
概要
戦後に生じた都市と地方の地域間格差に対して、1970年代以降に政府は工場の移転や社会福祉サービスの充実を実施した。90年代以降は各地域によるイノベーションの創出を目的として自立的な地域政策の策定を促し、国は大規模なインフラ整備や地方分権を実行した
この記事では、「デンマークとスウェーデンの地方創生」の第五章を閲覧いただける。
第五章では、デンマークの地域政策について記述している。
5-1. デンマークの国土の概況
この章では、まずは国土の概況から説明する。最初に国土に関する基本的な地理情報を述べ、次に都市部への人口の集中度合いから地域間格差についての現状を確認する。
デンマークは、ドイツの北側に位置するヨーロッパ大陸の一部であるユトランド半島と、大小407の島々からなる島(その内、有人島は75)からなる本土とノルウェー海に浮かぶフェロー諸島、そして世界最大の島であるグリーンランドから構成されている。グリーンランドとフェロー諸島は、自治権を認められている。
面積は4万2千km2であり、九州とほぼ同じ大きさである。本土の大部分は平地であり、最高地点はわずかに173mしかない。また、国土の約半分(53%)は農地である。デンマークの人口は、2022年時点で約585万人(広島・岡山・山口を合わせた山陽地方の人口とほぼ同規模)である。人口密度は130人/km²で、日本の約3分の1である。
首都のコペンハーゲンはスウェーデン南部の東側に位置するシェラン島にある。シェラン島の西に位置するフュン島と更に西側のユトランド半島とともに、政治や経済の中心地が集積している。コペンハーゲンの人口は2022年時点で約65万人(千葉県船橋市と同規模)である。また郊外の住宅街などを含んだコペンハーゲン圏の人口は約130万人(埼玉県さいたま市とほぼ同規模)である。更にマルメの節で詳述したが、スコーネ地域とオーレスン・リンクで結ばれた広域圏であるオーレスン地域の人口は約370万人(神奈川県横浜市とほぼ同規模)である。
次に、他の都市についても説明する。デンマーク第二の都市であるオーフスは、ユトランド半島の東に位置する都市である。地理的にはデンマークの中心に位置する都市であり、ユトランド半島最大の都市である。オーフス市の人口は2022年時点で約28万人、オーフス都市圏の人口は約90万人である。またオーフスから工業が盛んなバイレなどの都市を含んだユトランド半島東部の都市圏の人口は約140万人であり、コペンハーゲンと同規模の人口を有する。デンマーク第三の都市はユトランド半島とシェラン島の間にあるフュン島の中心都市であるオーデンセであり、オーデンセの人口は約18万人、オーデンセ都市圏の人口は約50万人である。また都市圏の規模で考えると、オーデンセの都市圏よりもユトランド半島北部にあるデンマーク第四の都市であるオールボーを中心とした都市圏の人口の方が大きく、都市圏人口は約60万人である。しばしばコペンハーゲン、オーフス、オーデンセ、オールボーをまとめて四大都市圏と呼ぶことがある。以下がデンマーク本土の市町村ごとの人口密度を表した地図である。シェラン島が最も色が濃く、人口が集中していることが分かる。
以上のことを考慮すると、デンマークはコペンハーゲンの人口の集中度合いが顕著であるが、オーフス、オーデンセ、オールボーといったそれぞれが比較的離れた位置に大きな都市圏を有している。また国土は非常に平坦で、山や大河川によって国土が分断されているわけではない。そのため、スウェーデンに比べれば地域間の格差は大きくなく、交通インフラなどによって各都市の移動も比較的容易であることが考えられる。
しかし、デンマークにも地域間格差は存在している。今回扱うロラン島とボーンホルム島はその事例に該当するものである。両島とも仕事や教育といった機会を求めて人々が島外へ移動し、両地域は多くの社会問題を抱えるという日本の地方と同様の構図が見られている。両島の事例は、それぞれ6章と7章で扱っていく。
5-2. デンマークの自治体の役割
この章ではデンマークの自治体の役割や地方行政の仕組みについて解説する。
デンマーク憲法では他の先進国と同様に、県や市町村に国の監督のもとで住民に対して基本的な社会サービスを提供する権利を保証している。デンマークは福祉国家として、政府が福祉や教育といったサービスに大きな役割を果たしている。これらのサービスは地方自治体が運営主体となり、地域の社会福祉サービスに対して大きな役割を有している。
デンマークの地域や自治体は、直接選挙で選ばれた民主的な議会によって統治されている。国の役割としては、自治体間の調整と財政の不均衡の是正といった機能が主であり、地方分権が比較的強い傾向にある。
このような地方分権の体制は、デンマークが福祉国家としての制度を確立していくことになった1974年の国家計画に関する規則から構築されていった。この規則によって地域政策の策定については、中央政府が策定する国家計画、12の地域計画当局(10県とグレーターコペンハーゲン当局、ボーンホルム広域自治体)が作成する地域計画、各自治体が作成する自治体計画・地方計画の3つが存在していた。各計画は上層部の計画決定と矛盾しないように策定され、上位レベルの決定が変更された場合には下位レベルの計画もそれに応じて修正されなければならな買った。
2004年の地方行政改革法の制定と2007年1月の施行に伴い、公共部門の大幅な再編成が行われた。本土の行政単位であった13の県が統廃合され、より広い地域をカバーする行政単位である5つのリージョン(県)に再編された。県は直接選挙で選ばれた議会によって運営され、4年ごとに選挙が行われる。県には課税権がないため、中央政府からの補助金と市町村(コミューン)からの拠出金で事業を行う。一方で、市町村には徴税権が付与されている。同時に、中央政府と市町村に業務が移管されたため、県の業務は市町村に比べて狭くなり、医療分野が県の主要業務になった。また2007年の地方行政改革で市町村の再編が行われ、271あった市町村は98に統合された。土地利用計画や規制など国土の空間計画に関わる行政権は、従来は中央政府、県、市の3層で分担していたが、従来の県が廃止されたことによって中央政府と市の2層で分担することになった。
その後2007年に法改正が行われ、開発における環境に対する強化が図られるようになった。2007年からの国土計画では、環境大臣による国土形成計画報告書を通じて、国土形成計画及び都市計画の大綱を定めることが決定された。また環境大臣には、市町村の計画が全体的な国益に合致するように、各地域の計画に対して拒否権が付与されることになった。これによって国が環境対策として地域政策を大きく規制することができるようになった。さらに2007年の再編後は、政府はマクロ経済政策、広範なインフラ整備、文化事業・科学技術支援、徴税、医療計画、初等教育の方向性、高等教育などに大きな役割を果たすことになっている。
その下で各地域の議会は、それぞれの地域の開発ビジョンを示す地域空間開発計画を策定している。これは、2007年から導入された新しいタイプの戦略的計画である。各自治体の議会は、それぞれの自治体の目標や戦略を自治体計画にまとめる。この計画は、市町村が提出する詳細な地域計画の骨格となり、計画法や様々な関連法規に従いながら個々の開発プロジェクトを実施する。
その結果として、県が持つ役割としては医療、重度の身体障害や社会問題を抱える方の施設運用、一部の開発計画、ゴミや土壌汚染などの環境対策に限定されることになった。一方で市町村が持つ役割としては、児童相談所、企業の環境対策、疾病予防・リハビリなどの一部医療サービス、失業者向けの窓口業務、観光事業、市町村の道路・バス輸送、地域の文化保存、学校の運営、上下水道、徴税などがある。行政組織の改革によって県の役割が縮小し、市町村と国の役割が強化されている。
5-3. デンマークの地域政策の歴史
1940年代~1980年代
1940年代から1960年代にかけては、政府が策定した国土計画によって国の経済成長を促し、福祉制度を確立していく時代であった。この時代には都市と地方の地域格差が生じていった。1958年には、地域格差に対処するための地域政策に関する法律が採択され、都市と地方での失業率の格差を縮小する政策が始まった。そこで製造業の企業や工場を都市部から地方に分散させる政策が実施された。また、新しい開発を開始するだけではなく、小さな地方自治体を合併し、地域の福祉施設の整備や大規模開発を行うために大きな地方自治体に統合する計画が実施された。その結果、1098の市町村が277の大きな市町村に合併し、25の県が14の県に合併された。
しかし、1973年の第一次石油危機を機に、デンマーク経済は構造的な不況に陥ることになった。この危機を乗り越えるために、政府は市町村の中心地に新しい福祉施設を建設することを進めた。このような福祉国家の制度構築によって、地方自治体がより多くの権限を持って地域の開発を進められるようになった。県や市町村は地方行政や地域福祉施設の運営に関する新たな責任が課されるようになり、それに伴って県や市町村が担う役割が増加し、地方分権が進んでいった。
その結果として1970年代と1980年代の経済危機にもかかわらず、Small and Mideum-Sized Towns(SMST)と呼ばれる人口が5千人から5万人の中小規模の市町村の人口は、それ以外の市の2倍の速さで発展した。これは福祉国家政策の進展によって、新しい行政や福祉施設によって地方に多くの雇用が創出されたことが大きかった(Christian, 2022)。行政や福祉を中心に雇用が創出されたことで、それを足がかりとして他のサービス産業や製造業といった産業が創出され、地域経済が回っていくという好循環が生み出されることになった。このような取り組みが、1970年代から1980年代にかけての中小規模の地域の発展につながることになった。
一方で、首都圏は1970年代から1980年代にかけて負の発展を遂げた。1989年にコペンハーゲンは経済危機に陥り、政府はコペンハーゲンの発展を進める戦略を策定し、1958年に制定された地域支援法が廃止し、都市と地方の財政的な不均衡を是正するために、地方へ積極的に財政支出を行う政策が廃止されることになった。
1990年代~2010年代
1992年の国家計画では、グローバル化の進展やデンマーク全体の経済的な不況によって、地方を巻き込んでデンマーク全体が国際競争力を有し、経済成長を果たすことを目指すようになった。これによってインフラ整備や福祉施設の充実、都市から地方への企業の移転を中心とした都市と地方の格差を縮小させる政策から、地域特有の資源を最大限に活用する開発へと転換した。この変化によって国家主導で策定されていた地域政策は、地方が地域のステークホルダーを巻き込みながら、独自の目標を決定していくという分権的なものに変化していった。そして1999年の欧州空間計画展望(ESDP)に代表されるように、行政と民間の双方の合意によって開発の目標を策定し、行動計画を決定することが増加するようになった。
2000年代以降はハードな財政政策やインフラ政策から、国と地方自治体との役割分担を進めたり、規制緩和による自由な計画や開発を促進したりするといったソフトな手段にまで広がることになった。一方で、地方と都市の格差を縮小させるために、国土政策として国がイニシアティブをとって開発が遅れている地域の開発を担ったり、行政機能の分散を進めたりするなど、必ずしも国の地域における役割が縮小したわけではなかった。
その後2007年の第二次自治体改革の一環として、地域計画は廃止されることになった。国が策定し、法的拘束力のある地域計画は、拘束力のない地域開発計画に変更された。一方で環境保全などの観点においては、国は地方の開発計画に対して規制することができた。地域計画は、自治体内の市民の対話に基づく地域開発戦略にとって代わられ、より地域の実情にあった独自の政策が取られるようになっていった。この転換は、国家主導のトップダウンの地域統治からボトムアップの地域統治を目指すものだった。
またコペンハーゲンとそのほかの地域との社会経済的な格差を縮小させるため、都市機能を地方へと移転する政策が進められるようになっていった。例えば、保健医療部門の地域別組織化や地域単位でサービスのバランスを図る政策が実施された。2006年に16の「スーパーホスピタル」の設立が決定され、既存の病院の拡張や新しい病院の新設が進められた。設置の基準としては、人口20万人以上を対象とするなどの一般的な基準は設けられていたが、スーパー病院の最終的な設置場所は地域によって決定された。これらのスーパーホスピタルの建設によって、医療における専門知識の集中や分野の調整が進んだが、同時にいくつかの小規模病院を閉鎖・縮小したため、一部の地域の患者にとっては病院へのアクセスが難しくなるという問題を引き起こすことになった。2022年5月にデンマーク政府と議会のいくつかの政党は、この問題に対応するためにスーパーホスピタルよりも簡易的な機能を有する25の地方病院を設立することを決定した。
以上のような都市機能の地域分散についての政策は、2012年に社会移転を担当する新しい国家機関「Udbetaling Danmark」の設立により促進されることになった。2012年に地域サービスセンターが設立され、すべての地域で新たな国家公務員の雇用が創出された。2015年と2018年に、政府は7つの国家機関や省庁、国立大学のキャンパスの地方への移転を進める計画を提示した。これによって雇用を創出し、デンマーク国内全体の発展を促し、地理的な不均衡を縮小させようとした。行政機関の移転先は必ずしもデンマークの最周辺部に限られていたわけではなく、オーフスやオールボー、オーデンセといった大都市や中規模な都市も含まれていた。しかし、Schmidtらが2021年に行った政策の効果に関する研究では、デンマークのリングコービングとエスビャールの2都市を対象とした事例で、2007年の行政改革に伴う地域機関の一斉閉鎖により、都市機能の移転によるプラスの効果が打ち消されたことを明らかにしている。さらに、この研究では、移転された機関によって創出される雇用とそれによって波及的に創出される雇用は、移転先の労働市場が小規模である場合、あまり多くはないことを示している。一方で最近では、公立高等教育機関の移転計画が議論されている。そのアイデアは、4大都市(コペンハーゲン、オーフス、オーデンセ、オールボー)から10%程度の教育機関を、4大都市外に移転または新設するという計画である。
また、首都圏を中心とした都市部の開発については再開発が進んでいるが、住宅省が管理している公共都市再生データベースによれば、中小規模の都市の再開発は再開発計画のうちの20%しか実行されておらず、地方都市での開発の遅れが目立っている。
地方都市の開発に対する政策では、失業、犯罪、教育、収入、移民という5つの量的基準に基づいて開発が遅れているとされた地域に対する特別な支援を行う政策が実施されている。2017年に計画法が自由化され、沿岸部の建築の制限が緩和され、沿岸部の小さな町の開発機会の増加が図られた。また、小売業の事業実施の地域についての計画についても規制が緩和されたり、商店の規模に関する従来の規制や制限が廃止されたりしたことで、町の中心部以外での新しい小売センターの計画も制限された。また新たな開発区域は、国の計画の下で開発が行われるようになった。さらに政府は人口4000〜20000人の町において、タウンセンターと呼ばれる組織を中心に、自治体の関心に基づいた14のパイロットプロジェクトを提案した。タウンセンターが自らの決定によってパイロットプロジェクトの実施を承諾し、政府に申請を行った上でプロジェクトの実施が政府によって承諾され、そのプロジェクトを契機として街の再開発を進めるという政策である。
一方でコペンハーゲンの開発については、1990年代以降再開発が進められていた。コペンハーゲンを中心とした地域の開発は、環境大臣の指導の下、フィンガープラン計画が策定されてきた。フィンガープランという名称は、コペンハーゲンの中心部から郊外に向かって伸びる交通網を整備し、その周辺に住宅地などの開発を行い、交通網の間にはオープンスペースとして緑地を残すという計画である。
中心部の都市を掌として、そこから指のように交通網が伸びることからフィンガープランと呼ばれている。この計画は、1947年の第1次フィンガープラン以来、複数回策定されており、これまで県や市町村が参加するGreater Copenhagen Authorityなどの協議会や研究会で策定されていた。2007年には、国が初めて関与し、Finger Plan 2007が立案された。この計画では、駅から半径600m以内に大型オフィスビルや商業施設の集中立地を進めており、交通渋滞の緩和のためのコンパクトシティの構築を進めている。また現在はコペンハーゲンから縦に伸びていた周辺部の街同士を、ライトレールで横断する形で結びつける計画が考案されている。
インフラ整備では、本土の島や半島を結ぶ橋の建設や他国の国際鉄道・道路網との連携が進められてきた。デンマークは、1962年から「ビッグH」と呼ばれるデンマークの幹線となる鉄道・道路の建設に取り組んでいる。ビッグHとは、コペンハーゲンからフュン島、ユトランド半島を結ぶ東西の軸と、それと垂直に交わるユトランド半島の南北の軸とシェラン島からその南部のロラン島の南北の軸を合わせた国土軸を指す。
そのうちコペンハーゲンのあるシェラン島とフュン島やファルスター島、ロラン島、そしてユトランド半島との間にかかる橋は建設され、デンマーク国内は陸路で結ばれることになった。その後2000年にはシェラン島とスウェーデンを結ぶオーレスンリンクが開通した。これによってスウェーデンとデンマークが、陸路によって接続されることになった。そして現在、2024年に完成が目指されている「Fehmarn Belt Fixed Link」プロジェクトが実行されている。これはデンマークのロラン島とドイツのフェーマルン島を海底トンネルで結ぶプロジェクトである。現在コペンハーゲンから陸路でドイツへ行くためには、ロラン島とフェーマルン島の間でフェリーを利用するか、フュン島経由でユトランド半島を遠回りしてドイツに行くという選択肢しかなかった。従ってこのトンネルの開通によって、ドイツへのアクセスが格段に容易になる。またオーレスン橋経由でスウェーデン、デンマーク、ドイツを結ばれるようになり、北欧と中欧の接続性が大幅に向上することが期待されている。
近年でのデンマークの地域開発アプローチは、デンマークの全地域の国際競争力の向上を目指すものになっている。政府は2018年に空間開発計画(Landsplanredegørelse)によって自治体の計画業務の枠組みを定め、自治体が政府のビジョンと協調するために優先順位を示している。例えば、「デンマークのデジタル成長戦略(2016-20)」には、企業が最先端のテクノロジーを活用できるように技術エコシステムを改善し、魅力的なデジタルハブとしてのデンマークの地位を強化することを目的とした38のイニシアチブが含まれている。
2019年以前は国、県、市町村が競争力促進のためのイニシアチブを立ち上げて資金を提供していたが、2019年には新たに国家事業促進委員会が設立された。以前のアプローチでは、多くの制度やプロジェクトがあり、それによって重複するイニシアチブ、戦略上の焦点の欠如、高い管理コストなどの問題点が存在していた。そのため、行政の各レベルに明確な役割分担を設け、より効率的なシステムの構築を目指した。
その結果として2019年からは、地方自治体はビジネス振興に関連する業務を担わなくなり、その代わりに新たに設立された「国家ビジネス推進委員会」が独自の戦略を策定し、地域の競争力を高めるために地方や地域のプロジェクトに資金を提供する役割を担うことになった。この委員会は、全国各地の企業代表者と地元の政治家で構成されている。さらに、全国理事会と協力する7つの新しい地方理事会が地方支部の潜在能力を最大限に引き出し、それぞれの課題に取り組むために地方支部と協力するという取り組みを始めた。また地方理事会は、全国13の地方自治体のビジネス活動を担当することになった。この新しい政策アプローチにより、すべての地方の産業政策は一つの包括的な戦略的フレームワークへと統合されることになった。これによりデンマーク全土における成長が促進され、大都市圏以外の地域の魅力を向上させるための戦略が作成されている。
5-4. 小括
ここでデンマークの地域政策の小括を行いたい。
デンマークも概ねスウェーデンの地域政策と同様に、1960年代までに進んでいた都市と地方の経済格差を縮小するために、1970年代から1980年代にかけて都市部の製造業を中心とした企業を地方へ移転させる政策を進めていた。また福祉国家政策を進めるために1974年に国・県・市町村の関係を整理し、社会福祉サービスを中心に地方自治体の役割が拡大された。自治体によって創出された社会福祉サービスが中心となって、地域経済が安定的に回るようになっていった。
しかし、1990年代以降はスウェーデンと同様に地方が自立的に産業を創出し、国の経済成長に貢献することが求められるようになり、地域が独自の開発計画を策定するための政策が取られるようになっていった。この流れを受けて2007年には行政組織の再編成が行われ、県が廃止され、国と市町村の二つがそれぞれの役割を担うことになった。国は公共サービスの地方移転やインフラ整備によって地方と都市の格差や地方間の格差の是正を図る政策を続けている。市町村は独自の開発計画を策定し、それぞれの地域の特性を活かした多様な取り組みが行われている。
5章の参考文献
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竹田昌次, 2017, 「北欧福祉国家と移民政策ージェンダー平等政策との関わりでー」, 総合政策論叢, 第8号, 2017年3月
次章および他章は以下のリンクからアクセスしていただける。
次章:第六章・ロラン島:
その他の章:
第一章・概要:https://note.com/japanordic/n/n9a65072dc51f
第二章・スウェーデンの地域政策:https://note.com/japanordic/n/n4252f89ef077
第三章・マルメ:https://note.com/japanordic/n/n26e33b74518c
第四章・イェムトランド:https://note.com/japanordic/n/n44a1af3ee347
第七章・ボーンホルム島:https://note.com/japanordic/n/n9bc056ddf635
第八章・考察:https://note.com/japanordic/n/nf73754eacc52