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キャリア教育をデザインする

こんにちは、Japan Education Lab 代表の古谷です。
先日、とあるところでキャリア教育の授業構成について話す機会がありました。これまで、自分の感覚を第一にしていて、きちんと言語化したこともなく、自分の感覚を一つずつ紐解いていくのが、すごく難しかったです。そんなこともあり、ある種の備忘録として、『キャリア教育のデザイン』をnoteにまとめます。

前提として、僕はキャリア教育コーディネーターの資格は持っていません。なぜかといえば、ただタイミングがなかったといえばそれまでなのですが、ゲームは説明書を読まずにやる主義なので、おそらく時間があっても受講することもなかったと思います。

なので、ここに書くことは、僕が自分が創りたいキャリア教育のイメージを具現化するために、どのようなことを考えているのかということになります。それでも、参考になる人は多かれ少なかれいるかと思いますし、今は数年前に比べて、キャリア教育に関わる人が多様化してきてますので、そういった人たちの参考になればと思います。

授業を構成するときの原点

僕が授業を構成する上で、発想の原点にしているのは以下の3つです。

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心理的安全性の追求
心理的安全性とは、対人関係においてリスクある行動を取ったときの結果に対する個人の認知の仕方、つまり、「無知、無能、ネガティブ、邪魔だと思われる可能性のある行動をしても、このチームなら大丈夫だ」と信じられるかどうかを意味します。(下記参照)

元来、組織論のなかで用いられてきたものになりますが、最近では教育界でも耳にするようになりました。僕はキャリア教育を推進していく中で、この『心理的安全性』という考え方はとても重要だと考えています。キャリア教育は特定の授業の中で生まれるものではなく、普段の学校生活の中で最も育まれるものだと思っています。(授業は一つのきっかけや思考をするタイミングにすぎません)そう考えたときに、自分の将来を友人に赤裸々に話すのは、ちょっと恥ずかしいことだと捉え、なかなか開示するに至らない子たちがほとんどです。そこで、僕たちがつくる授業の中で、そういうことを話すのは良いことだと思ったり、話すことによるシナジーを感じられれば、心理的安全性は生まれ、キャリア教育が一過性のものになることを少しでも避けることができるのではないかと考えています。

キャリアの自己調整
進学先を考えるときに、自分の中で何を軸にするかが見えない時、進学根拠がかなり薄くなってしまいます。例えば、偏差値基準なんかがそうです。高校も大学も勉強するところなので、偏差値基準が悪いわけではないのですが、偏差値を主眼に置くべきでないときもあります。
そうならないためにも、必要だと思うのが『自己調整』です。自己調整は学習モデル理論の一つなのですが、端的に言えば、「外的環境ではなく学習者自身が主体となって学習に臨むべき」だという考え方です。

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さて、この考え方はキャリア教育にも非常に重要だと思っています。キャリアは他者の考え方によらず、自身で行き先を決めないといけないもの。本来であれば、進路調査票を配られるタイミングで決めないといけないのではなく、自分のタイミングで決めるべきということです。ただ、理想論はそうだとしても、すべてがそう上手くいくわけではないので、現状のままどう自己調整させればいいのかという話になります。
僕がつくる授業ではデマンドを植え付けるタイミングをどこにするかをよく考えています。「あ、これ必要だな」と思わせるのはどこのタイミングが一番いいかで授業の構成はかなり変わります。まぁ、デマンドも程度があるので、最初から「絶対必要だ!」とまでは行かないので、先生からの話をヒアリングさせていただいたうえで、ある程度の検討を付け、授業中の生徒たちの反応を見ながら調整していくイメージです。

内発的動機を生み出す
内発的動機付けは先の自己調整と大きくかぶるところがあります。長いスパンでの自己調整もそうですが、授業中にももちろん自己調整があります。一度、大学生からいろんなテーマで話を聴いてみようという授業を依頼され、企画したことがあります。しかし、3年生で共通テスト目前ということもあって、話を聴いてもそれが本当に生徒のためになるかと言われると100%言い切れなかったので、話を聴かない部屋も作りました。すると、3セット回したのですが、全回とも生徒がぎっしり教室に入りました。もちろん、勉強したい生徒もいましたが、ただ何もしたくないという生徒もいました。究極的なことを言ってしまえば、この授業の前までにデマンドを植え付けられれば、ここまで顕著に起こりうるものではなかったのかもしれませんが、逆に言ってしまえば、何も仕掛けをしなければ、ちょっと先のキャリアへの動機は全く強いものではなく、それよりも目先のテストや瞬間の娯楽に興じること自己調整するものだということですね。
さて、単発の授業が多いので、こういう事案に陥ることも多いのですが、ある意味僕たちの授業が入り口でもあるという捉え方もできます。僕たちの授業を通して、動機が生まれ、そのあとの学校でのキャリアに関する授業への意識が高まればそれも御の字。なので、「内発的動機付けを生み出すためにはどうすればいいのか」と日々、思考を巡らしています。
今、授業を構成するときに動機を生み出すために設定しているものは『授業難度』です。内発的動機付けを生み出すためには自己決定が大事であると、多くのサーベイにあり、ほぼほぼ自明であるレベルになりつつあるので、自己決定をするために難度設定を細かく引いています。特にワークシートの作り方ですね。簡単に言えば、授業内容をよく理解して、思考力が一定以上あれば枠だけで良い生徒もいれば、それでは全く進めることが出来ない生徒も多くいるということです。

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Self-regulated learning and college students' regulation of motivation.にて紹介されていたものを自分なりに解釈付けたものになりますが、メタ的にモニタリングとかいろいろ内発的動機付けのために必要なことはありますが、一旦僕らが直接的なアプローチはここらへんだと思い、(定期的な関りが生まれれば、新しいことを考えたいですね)まずは取り組むワークシートや取り組む内容の難度を調整できるように授業を構成しています。

授業の構成

僕が作る授業は一律で下記の構成になっています。

営業用

先の原点を土台として、授業へのデマンドを生み出すための共感のフェーズ、自己選択をするための認知フェーズ、そして自身の中に価値をかたどるための形成フェーズがあります。

共感フェーズ
ここで一番意識しているのは『巻き込み』です。言葉面通りなのですが、しほぼ初対面で急にキャリアのことを話して、デマンドを植え付けられる生徒はほぼほぼ皆無です。なので、この共感フェーズはとても大事だと思っています。共感フェーズでは学校・生徒に合わせていろんなコンテンツを実施しています。パズル、動画鑑賞、体をつかったワーク、クイズ大会などなど。心理的安全性の側面もあるので、なるべく心の障壁を崩すことも視野に入れながら、「こういうこと考えるの面白そう」といったプラスの考え方をしてもらえるようにデザインしています。

認知フェーズ
認知で大事なことは、全体への共通認知と個別での認知をもたらせるようにすることです。学校側のニーズがあることもそうなのですが、やはり授業のテーマはとても重要で、今回の授業ではどんなことをするのかを意識させたり、何を持ち帰ってもらいたいのかを認知させるということを考えています。そして、個別で大事なことは千差万別なので、自分にとって重要なものをどう拾ってもらうかの設計も組み込んでいます。簡単に言えば、職業を知るの大切さは全員に理解してもらい、業界・業種ごとについては興味関心の幅に合わせて生徒個人個人で選んで理解してもらうようにする。ような感じです。

形成フェーズ
僕らは授業を通して、なにかのスキルを絶対的に育成しようとまでは考えていません。それを求められることもあるので、その際にはスキルを形成できる授業をデザインしますが、形成=能力というわけではなく、新しい価値をみつけることも一つの形成です。形成フェーズではとにかく言語化をさせることを意識しています。どこでもやっているようなことですが、絶対的に言語化させることをゴールとしたデザイン設計をすることで、生徒たちのアウトプットのレベルがそのまま授業成功度合いに直結するので、うまくアウトプットさせるのではなく、ありのままの言語化を目指しています。そうすることで、先生方の進路指導にもつなげることが出来、学校連携にもつながります。

この構成は1度の授業でももちろんのこと、プロジェクト型の授業の場合でも組み込んでいます。

キャリアに価値を持たさせる

どんなキャリアがあるのか見つける

自分に合ったキャリアを言語化する

上記のような流れも、共感・認知・形成です。
そして、ミクロで見ても同じ構成の授業になっているようにデザインしています。

時間的展望

時間展望とは「個人の心理的な過去・現在・未来の相互連関家庭から生み出されてくる、将来目標・計画への欲求、将来目標・計画の構造、および、過去・現在・未来に対する感情」と定義されています。(下記参照)

ここでの話は次に要素として、漠然としたものではなく、きちんと構成としてキャリア教育コンテンツに加えたい考え方です。

過去を否定・肯定、現在を否定・肯定、未来を否定・肯定と分類したとして、目的設定をどこにするのか、そのためにはどのようなアプローチが重要になってくるのかを考えています。例えば、過去に大きな失敗体験をした生徒がいるとして、現在の自分に対する自己肯定感もほとんどない状態、未来に自分が頑張っているイメージが全くできないとします。そうなったときに、まずメスをいれるのは過去・現在・未来のどこがいいのか。認識を変えさせるべきなのか、認識を改めさせることなく未来への期待を強めるべきなのか、色々と考えることはありますがまだ考えがまとまっていません。まぁ個別最適化と言ってしまえばそれまでなのですが、1対1で授業をしているのではなく、全体に対する授業なので粗方の構成イメージは持っておきたいと思うところです。それこそ、モチベーショングラフを授業で用いたときに、今では自己理解の軸で授業展開していますが、これを自己理解ではなく時間的展望で授業展開ができると、自身をメタ的にとらえ、モニタリングに使うこともできるし、どういう経験が今の自分の発現に繋がっているかを考えたり、現在の指向を未来行動にどうつなげることが出来るのかを上手く考えられると思います。

この時間的展望を取り入れたい理由はただ一つで、「将来を考えても仕方ないよね」という認識を変えていきたいからです。たしかに、今将来を考えても未来何しているか分からない以上、測定することもできないし、意味もないように思えますが、僕自身はそれを真っ向から否定したいです。学校を卒業することは誰にとっても大きな進路の転換期です。だから、次の進路その次の進路を考えることは重要なことだと捉えています。そして、それ以上にキャリア教育には意義・意味があると思っているので、そういった考えを覆していくためにも、この時間的展望はキャリア教育を構成する要素として大きく組み込みたいです。

生徒に気づいてもらいたいこと

いろんな授業の中で、気づいてもらいたいことはいくらでもあるのですが、どの授業でも共通して、伝えたいことは以下の3つです。

○ 時間の有効化
○ 最適な環境・場所
○ 周囲の人間関係

これは自分を変えるために必要なこととして僕が提言したいことなのですが、たぶん何かのサーベイで見た内容だと思います。(しかし思い出せない)

特に『時間の有効化』と『最適な環境・場所』は僕たち側からアプローチできるものだと思っています。学校という存在は生徒にとって認知してなくても大きいもので、小中高通えば12年間という長い月日を過ごしていることになります。しかし、「この学校に通えてよかった」と思える生徒はどれだけいるでしょうか。キャリア教育は生徒に向けたものではありますが、それ以上に先生方へ向けた啓蒙でもあります。僕が啓蒙というのもおこがましい部分もあるかもしれませんが、まだまだ進路指導だけで満足している学校が多くあると僕は認知しています。

キャリア教育を通して、生徒たちが受けて良かったと思うことが出来れば、それが学校へのある種の満足度にもなるし、生徒の本気は先生にも伝播すると思っています。そこに貢献できるようになれればと思う日々です。

最後に

ここまでお読みいただきありがとうございます。
書いてみたものの、まだまだ語りきれないところは多くあります。気になる方はいつでもご連絡ください。facebookでもなんでも大丈夫です。

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僕がやっているものが絶対的な正解というわけでもないですが、この内容でつくることで刺さる生徒がいるはずだと自負しています。もっともっと勉強しないといけないので、時代や生徒の状態など色んなことに解釈を付けて、レベルアップできるようにしていきます。

Japan Education Labはキャリア教育の充実のために活動しています。いつでもご連絡ください。

これからの取り組みも、ぜひこのnoteでチェックしていただけますと幸いです。

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