電通が正社員の個人事業主化を推進、人件費カットへの布石
電通個人事業主化概要
電通で来年1月から、正社員の一部が早期退職し、個人事業主として働き始めることが分かった。同社は2020年11月、新会社「ニューホライズンコレクティブ合同会社」(以下、NH社)を設立。新たに個人事業主になった後は、NH社との間に10年間の業務委託契約を結び、兼業や起業をしながら働くことが可能になる。
電通が早期退職者を募り、個人事業主として新たに働ける仕組みを作るという。
対象者は、勤続20年以上で60歳未満の社員、または中途の場合は勤続5年以上で40~60歳未満の社員の計約2800人。約20回の説明会と70回以上の個別相談会を行ったところ、約230人が自ら手を挙げて参加を表明したという。
対象者は年配者のようだ。本人の意思で、最終的に個人事業主化が決まったという。最終的に、230人が名乗りを挙げた。
収入の増減についても気になるところだ。同社広報は「(個人事業主になった元社員には)正社員として電通で働いていた際の5~6割(契約期間10年間の平均値)の固定報酬が支払われます」と回答する。
この固定報酬は10年間で段階的に下がっていき、代わりに事業を通じて出した利益に応じて支払われるインセンティブ報酬の割合が高くなっていく。
電通の経営にとってはメリットが大きい。正社員時代の5~6割程度に固定報酬が落ち込み、さらに、その埋め合わせで、個人事業主として稼いだ利益がインセンティブとして加算されていくという。しかも、固定報酬は10年で段階的に下がっていくという。
契約期間10年が終わった場合に正社員として復職できる仕組みはないという。
一度個人事業主化したら、正社員に戻れないという。
つまり、まとめると、電通は人件費を削減するために、体の良い個人事業主化という案を出し、正社員を削減し、あわよくばその個人事業主の開発した事業で利益を得られれば、と思っているようだ。
また、同社としても「(個人事業主になった)OBOGとのネットワークが築ければ、将来的には当社が今まで提案する機会が得られなかった地方の企業や自治体、教育機関やスタートアップ企業などの新たなビジネスの機会ができることもあるのではないかと考えています」とメリットを見込んでいる。
と、もっともらしく、奇麗にまとめられている。
契約社員、派遣、個人事業主という固定費削減の名目
確か、派遣という働き方が出ていたころ、「自由で組織にとらわれない働き方」といううたい文句で宣伝されていたのではないか?
上手く宣伝し、幅広く浸透し、上手く大企業を中心に、固定費の削減するための名目が出来た。
それは契約社員も同じだし、将来的にはこの個人事業主およびフリーランスも派遣と同じ命運をたどっていくだろう。
「自由で組織にとらわれない働き方」「自分で自由に動ける」このうたい文句で、もしかしたら今後浸透していくかもしれない。
しかし、目的は固定費削減である。正社員が増えすぎてかつ年功序列で固定費が圧迫されるため、人を減らしたいのだろう。
個人事業主化は派遣と同じ
結局、雇用形態について考える時、それがなぜ存在するのか、というと、働き方の多様化を目指すというのは嘘で、固定費の削減のためである。
正社員の中には割に合わない高給を貰っている人たちも多数いるので、その補填として、非正規であったり、個人事業主が割り当てられるのである。
実際、40歳以上に対象を絞っていることから、本気で個人事業主化を応援しているわけではないだろう。
もし、多少軌道に乗れば、さらに正社員を個人事業主化できるだろう。
ただ、電通の正社員はニューホライズンコレクティブ合同会社と雇用契約意を結び個人事業主化する、ということなので、ほぼ派遣と同じである。
例えば、派遣会社のリクルートスタッフィングに登録して、そこで派遣登録した人が業務を委託されて出向していく、これと同じだ。
奇麗ごとを言えば、フリーランスは自由で組織にとらわれないため、今までにない新規事業が生まれる可能性はあるとも考えられる。
しかし、実態は、追い出し部屋のようになっていくと想定される。
なぜそこまで正社員を守りたいのか
しかし、個人事業主化して人脈とか仕事の幅が広がる、と考えているとは驚きだ。
個人事業主はそんなにかゆいところに手が届くのだろうか?そんな例がいまだかつてあっただろうか?
結局、会社を抜けたら仕事の質や幅も大きく落ちる、というのが実際のところだろう。
それを隠し、対象者を口車に載せ、230人もの人を個人事業主化として働かせることに成功した。
そこまでして正社員や本体を守りたいのだろうか?確かに、これからも個人事業主化が進めば、固定費はどんどん削減されるし、それを正社員に還元できるかもしれない。
しかし、正社員を守ることに何の意味があるのだろうか?
人生100年時代もう正社員を維持できないとはっきり言えばいい
もうはっきりと言ったらいいではないか。「もう正社員を維持できない」と。これは電通に限った話ではないが。
人生100年時代、年功序列で行ったらとんでもなく固定費を圧迫するだろう。60歳の定年が、65歳になり、さらに70歳になっていくかもしれない。
そう考えると、とても多くの正社員を雇用し続けることなどできないだろう。
年功序列はもう古い、今は実力主義だ、というかもしれないが、実態は今だ根強く年功序列が残っている。
転職するのは怖い、正社員にしがみつかなくてはならない、もう他には行けない、実際こう思っている人の方が多いのである。
結局、雇用形態が正規と非正規、個人事業主と区別されているのが良くない。
何としても正社員に、という考えが日本を硬直化させている。
もしくは、正社員を維持するために、リストラしたり、固定費削減に走ろうとするのが問題の元凶だ。
つまり、正社員という概念を失くした方が良い。
その会社が本人を雇うか雇わないか、というだけで判断すればいい。
雇われれば、全員「社員」でいい。
社会保険費が圧迫するかもしれないが、その分意味もなく高給を貰っている人の給与を下げればいい。
皆が同じ社員として機会をたくさん得られるように
もし皆が「社員」として平等に扱われれば、多くの人にチャンスが巡ってきて、硬直化した日本は変わっていくだろう。
これが本当の柔軟な働き方だ。
かつて派遣やフリーランスが「自由で組織にとらわれない働き方」という嘘の宣伝をしていたが、そんなくだらないうたい文句を流してごまかす必要はない。
全員「社員」。これが自由で柔軟で組織にとらわれない働き方だ。
同じ舞台で皆が働けること、これがまず第一歩であり、そこから革新は生まれていくのである。
年功序列、保身、正社員、派遣、フリーランス、上下関係、色々としがらみはあるが、これらが何かを苦しめている、と気づくときがそろそろ来ている。
電通も「個人事業主化でメリットを得たい」と固定費削減をカモフラージュした宣伝をしているが、いつまで通用するのだろうか。
全てのズレは、「正社員を守りたい」というところからスタートしている。