UXデザイン初学者の体験設計を考え、学ぶべきものをまとめてみた
はじめまして、Japan Digital Designの木原です。
私は三菱UFJ銀行からの出向で、三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)の戦略子会社である Japan Digital Design(以下JDD)のExperience Design Div.(以下XDD)で働いています。
XDDは体験設計のプロであるデザイナーが中心のチームで、そこに私のような金融機関からの出向者が在籍し、金融領域の知識を活用してデザイナーと協働しながら、MUFGグループへのCX向上支援を行っています。
今回は、これまで ”デザイン”という言葉に全く縁が無かった銀行員の私が、自身のつまずきを起点にしてXDD出向者体験を考え、結果としてXDDで使われている知見をまとめてみたお話が出来ればと思います。
XDDの出向者体験を考えようと思うまでの経緯
はじめに、私がこの取り組みを始めようと思った経緯をお話します。
私は元々銀行員としては法人営業とM&Aアドバイザリー業務を経験してきましたが、それらの業務で”デザイン”という言葉に触れることはほとんどありませんでした。そのような中でXDDに着任した私は、まずそもそも「デザインとは何ぞや」、「デザインの対象は何ぞや」、というところから理解することから始まります。
正直なことを言うと着任前、私は ”デザインスキル≒感覚的なセンス”と思っていました。しかしCX向上支援の現場を見ていると、デザインプロセスはユーザー理解を元にロジカルに組み立てられていることや、プロジェクトで活用される知見は学問的にも幅広そうであることに気が付きます。
これなら自分でも習得できる知見はありそうと思う一方で、それらの知見は調べ始めると領域が広すぎて、何から手を付けたら良いのかわからないという悩みも同時に生まれました。
そこで私は、「体験設計に関連してXDDで過去活用された知見をまとめたら自分含むデザイン初学者である出向者の役に立つのではないか」と考え、上司に相談しました。
そしてこの考えを聞いた上司からは「せっかくなら体験設計の取り組みとして実施してみましょう」と助言をいただき、改めて出向者をユーザーとして捉え、着任からプロジェクトに参画するまでの期間の体験をデザインすることを目的とした「出向者着任時の体験検討・改善の取り組み」を実施することにしました。
デザイン初学者である出向者向け体験設計の取り組み
出向者向けの体験設計を検討するにあたり、まずは周囲の出向者からのヒアリングを開始しました。
その結果、当時いた出向者はそれぞれ過去の経験もキャリア感も異なるため、デザイン知見の吸収以外にも契約関連実務やデザインツールの扱い等、私が特に感じていた課題感の他にも多くのつまずきポイントがあることが分かりました。
元々私の中では「XDDで活用されている知見に簡単にアクセスできるものを作ろう」とゴールありきで考えてしまっていましたが、他の出向者も巻き込んで取り組む以上、本当に優先すべき課題を整理して取り組む必要があります。
その為本取り組みでは、下図のようなジャーニーマップを作成し、XDD着任からプロジェクト参画までにおけるペインポイントや、既に存在するソリューションを整理した上で、あるべき体験を実現する為に必要と思われるソリューションを検討しました。
なお一般的にジャーニーマップ作成の際にはペルソナを設定しますが、今回はターゲットとなる出向者の顔や考え方が確り見えている関係だったため、あえてペルソナは設定せずに取り組みを進めました(出向者4名をそのままペルソナ的にとらえ進めました)。
一方で4名それぞれは各自で異なる経験・キャリア感を持っていたことから出向体験において困ったことは意外と異なっており、それを表現すべくペインポイントは出現率に応じてヒートマップ的に色付けを行う等の工夫をしました。
その結果、出向者の体験には出向前の不安→出向直後の戸惑い→プロジェクトに参画するにあたっての知見習得のハードルというような体験の流れとペインポイントがあることが可視化され、何を優先的に取り組むべきかを整理し関係者と認識合わせをすることが出来ました。
本取り組みではその整理のもと、下記を優先的に対応することとしました(その他にも事務面中心の取り組みもありますがこちらは今回は割愛します)。
デザイン初学者である出向者がまず読むと良い参考図書の取りまとめ
XDD出向者として最低限身につけたい知見をindex化し、実際にプロジェクトで活用された知見は参考になるプロジェクト資料への導線を提示
デザイン初学者である出向者がまず読むと良い参考図書
情報にアクセスしようと思うと信頼性と網羅性の観点からまずは書籍が良いという声もあり、デザイン初学者である出向者向けに「まず読むと良い参考図書」として下記3つを挙げました。
● 『UXデザインの教科書』(安藤 昌也著、丸善出版)
⮚ UXの概念からプロセスを網羅できる書籍として。なお、出向当初読んだ際は具体的なイメージがつかめず少々読みづらさを感じていましたが、いくつかのプロジェクトに参画した後に読み直すと網羅的・体系的で読みやすさが増したような感じがします。
● 『ノンデザイナーズデザインブック』(Robin Williams著、吉川 典秀訳、小原 司/米谷 テツヤ、マイナビ出版)
⮚ ノンデザイナーにとってわかりやすくデザインの基本が触れられた書籍として。具体的なイメージがふんだんに含まれているのでイメージがしやすく、またこの本に書かれているデザイン原則を踏まえた上で色々なUIを見ると、世に出ているUIにも意外とこの原則が守られていないものがあることにも気が付きました(そして私の作る資料も、、、)。
● 『銀行とデザイン』(金澤 洋・金子 直樹・堀 祐子著、インプレス)
⮚これは業界内の取り組みを認識する書籍としての意味合いもありますが、具体的な取り組みが実際の画面も含め例示されているので、ノンデザイナーの学びという意味でも読みたい本だと感じます。
上記の他にもよりプロセスや考え方に特化した本として、情報設計観点・デザインプロセス観点・ユーザーインタビュー観点・プロジェクトマネジメント観点等で「より深掘りしたい場合はこの本!」というものもまとめていますが、情報過多になってしまうと結局何から手を付けていいかわからなくなってしまいますので「まず読むならこれ」という観点で上記3冊を参考図書として挙げています。
知見のindex化とプロジェクト資料への導線
上記の通り参考書籍は挙げたものの、デザイン関連の経験がない出向者だとどうしてもイメージしづらい内容もあります。
実際上記で挙げた『UXデザインの教科書』でも「一般的なデザインプロセスやソフトウェアなどの開発プロセスに関する知識を、ある程度持っている人を想定している」と書かれていますが、過去デザインに全く触れてきていないデザイン初学者(ノンデザイナー)にとってUX等に関する知見・プロセスが「実際のプロジェクトではどのように活用されているか」がイメージしづらく、本での学習には限界があります。
ここは経験でカバーしたいところかと思いますが、一方で、出向期間は人によっては1年と限られているケースや出向元での業務も兼務しているケースもあり、限られた出向期間では参画するプロジェクトによって触れられる知見に偏りがあります。
そこで、本取り組みでは「XDDで実際にプロジェクトの中で活用された知見を収集・一覧化した上でプロジェクト資料に紐づける」ということを進めました。
具体的な取り組みとしては、下記のようなことを実施しました。
出向者で手分けして過去プロジェクト資料を読み漁り、一般的な知見が活用されている資料を抽出
それらの知見が一般的に解説されている記事を収集し掲載(読みやすさも考えネット上の記事から収集)
知見と紐づけた形でプロジェクト資料の関連ページへの導線リンクを掲載
各知見をプロセスごとにカテゴライズしてindex化
各知見に重要度を設定し、「出向当初数か月で身につけていくとキャッチアップがしやすい項目」と「その後のフェーズで各人の理解度に応じて参照する知見」を峻別
作業自体はそれぞれ手間がかかるものではありましたが、この中でも特に進め方に迷ったのは「4.各知見をプロセスごとにカテゴライズしてindex化」です。
当初、関連する項目を近づけてKJ法的にカテゴライズしていく進め方や、UXデザインの5段階モデルに沿って戦略~表層各フェーズで活用される知見をカテゴライズする等考えましたが、最終的にはデザインプロセスの時系列に沿って活用される知見をまとめていくのが初学者にとっては一番わかりやすいだろうと考え、デザインプロセスとしての「トリプルダイヤモンド」に沿う形でカテゴライズすることにしました。
JDDで実践するトリプルダイヤモンドは①顧客理解・課題定義→②ソリューション発想・検証→③開発実装・評価というプロセスを踏むように整理されています。
上記検討・作業の結果作成したファイルが下図のものです。各知見をカテゴライズし重要度設定・知見の簡単な解説・ネット上の解説ページへのリンク・プロジェクト資料に紐づけています。
なお、実際には下図に表示されたものの裏に3倍以上の非表示項目があり、カテゴリーだけの表示になっている事項もありますが、やはり情報過多になってしまうと結局何から手を付けていいかわからなくなってしまうので「デザイン初学者が出向後に理解しておくととりあえずプロジェクトから学び取る土壌になりそうなもの」を中心にピックアップしています。
おわりに
今回の取り組みを通し、私個人としてはジャーニーマップ作成を通じた課題の可視化や優先度付けといったデザインプロセスを経験出来たことや、実際に色々な資料に目を通し自分の頭で考えカテゴライズしたことで大きな学びになったと思っています。
一方で、「作って終わり」にならないよう、自分が作ったものがターゲットに使われ、かつターゲットの困りごとが解消されるか、解消されないなら何が原因か、どうすれば改善できるかということも継続的に考えていく必要があります。
このファイルを作った際に在籍していた出向者は、現在では私以外全員帰任済であり新しい出向者に入れ替わっているので、次は実践フェーズとして実際に作成したファイルを使ってみてもらった感想を得ながら、そもそも使うのか、使わないなら何故かということや、改善すべき点があればブラッシュアップしていくという取り組みを進めていきたいと思います!
最後に
Japan Digital Designでは、デザイナーをはじめ一緒に働いていただける方を絶賛募集中です。弊社の取り組みにご興味を持っていただけた方は、カジュアルにお話をするだけでも大歓迎ですので、ご連絡いただけますと幸いです!
この記事に関するお問い合わせはこちらにお願いします。
Experience Design Division
BizPM
Tomoya Kihara