【インタビュー】ヒラリー・ハーン
取材・文:柴田克彦(音楽評論家)
現代最高のヴァイオリニストの一人、ヒラリー・ハーン。彼女は、12月のパーヴォ・ヤルヴィ指揮ドイツ・カンマーフィルハーモニー管弦楽団日本ツアーでベートーヴェンの協奏曲を弾く。そこで、公演に向けての思いなどをきいた。
─ 今ハーンさんが音楽活動で力を入れているのは、どのような点でしょうか? 現代作曲家への作品の委嘱と演奏、赤ちゃん同伴可能なコンサート、マスタークラスやアウトリーチなど活動も多岐にわたっているようですが……。
やはりコンサートですね。それは音楽を通して“自分の表現”が可能だからであり、他の活動もそうした自己表現の一環の中にあります。ただ作品の委嘱は特に重要視していますので、まとまったCDをリリースした後も続けています。
─ パーヴォ・ヤルヴィ率いるドイツ・カンマーフィルとは長いつきあいだと思いますが、今はどのような関係でしょうか?
共同作業をするパートナーであり、友人のような感覚のグループでもあります。彼らは、自分たちで始めた自主運営の楽団ということもあって、音楽への思いやエネルギーレベルが高く、自分たちのアイデンティティとしてツアーを行い、自然に楽しんでいます。ですから私も同じ感覚でツアーに臨むのが大好きです。また、あるリハーサルでヴァイオリンの後席の奏者が何かを提案しました。するとパーヴォと奏者が話し、その提案を巡って皆と会話を始めたのです。普通そんなことは有り得ません。このように色々なアイディアを持ちながら作っていく音楽はとても楽しく、私もコンサートの後半を必ず聴くようにしています。
─ ハーンさんにとって、パーヴォ・ヤルヴィはどんな指揮者ですか?
彼は常に誠実で、その音楽は生命力に溢れています。それに彼は私のメンター(指導者や助言者)になろうという姿勢ではない初めての指揮者で、「自分の考えをフィルターを通さずに全部表現しろ」と言いながら一緒に音楽作りをし、豊かな表現力が必要な際は適切なタイミングで後押しをしてくれます。ですから彼の指揮を心から信じています。
─ ベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲は、2006年日本で、ドイツ・カンマー・フィルがベートーヴェン交響曲全曲演奏会を行った時に共演しています。それから20年近く経ってハーンさんが描く音楽に変化はありますか?
2006年の時は、カデンツァにブルーグラスのメロディを入れたのですが、怒られるかと思ったら皆に「カッコよかった」と言われたのを覚えています。今回はクライスラーのカデンツァを弾くつもりですが、ソリストが唯一試せる部分なのでどうなるかわかりませんよ。
曲の表現に関しては、それから時間が経っていますので、その間の経験や成熟もありますし、作品に対して「自分の考え方でいいのだ」という自信や安心感を持てるようになった点がかなり違います。演奏経験を重ねていくと、まるで自分が書いたかのように曲を把握できるようになり、表現のオプションも増えていきます。また、今ベートーヴェンを演奏する時は、1つの音から次の音に移る部分が重要だと考えています。曲の中にベートーヴェンの思考の全てが含まれていますから、瞬時に様々な表現が必要となるのです。
─ 今思われるベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲の魅力や特徴とは?
ラインの長さが主となる作品ですが、私は“1つの音の世界”として捉えています。曲の中に“ある響き”が終始存在している。それは他の協奏曲にはない響きです。またこの曲は、抒情的で、クリーンかつ壮大で、非常に繊細でもあります。なので当然美しさはありますが、私は同時に冷たい音楽でもあると感じています。そして清潔さとカオスの両面を持っています。ただ綺麗に弾いてしまうと人間性が感じられなくなる。つまりそのカオスとは人生そのものだと思っています。
─ 最後に日本のファンへメッセージをお願いします。
今回再びパーヴォ・ヤルヴィ&ドイツ・カンマー・フィルと訪日できるのは、大きな喜びです。日本という国には皆が特別な意識を持っていますし、彼らと一緒に日本ツアーを行うこと、そして聴衆の皆様を創造的な音楽作りの中にお迎えすることを、とても楽しみにしています。
《公演情報》
SEKIDO クラシックシリーズ
パーヴォ・ヤルヴィ指揮 ドイツ・カンマーフィルハーモニー管弦楽団
2024年12月8日(日)16:00 横浜みなとみらいホール [ラファウ・ブレハッチ(ピアノ)出演]
2024年12月9日(月)19:00 東京オペラシティ コンサートホール [ヒラリー・ハーン(ヴァイオリン)出演]
2024年12月12日(木)19:00 東京オペラシティ コンサートホール [ヒラリー・ハーン(ヴァイオリン)出演]
[その他の公演日程]
12月7日(土)熊本県立劇場コンサートホール ★
12月10日(火)文京シビックホール ☆
12月13日(金)所沢市民文化センター ミューズ アークホール
12月14日(土)兵庫県立芸術文化センター KOBELCO大ホール ☆
12月15日(日)iichiko総合文化センター iichikoグランシアタ ☆
★ラファウ・ブレハッチ ☆ヒラリー・ハーン
◆パーヴォ・ヤルヴィのアーティストページはこちらから
⇒ https://www.japanarts.co.jp/artist/paavojarvi/
◆ドイツ・カンマーフィルハーモニー管弦楽団のアーティストページはこちらから
⇒ https://www.japanarts.co.jp/artist/dkambremen/
◆ヒラリー・ハーン のアーティストページはこちらから
⇒ https://www.japanarts.co.jp/artist/hilaryhahn/
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