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 なんちゃって先生 〜その1〜

 母校の看護学校から講師の依頼が来た時には本当に驚いた。担当講義は薬理看護なので、製薬業界にいる私にとお声かけ頂いたのではあるけれど、それにしても臨床の現場を離れて24年にもなっている。「薬理」についてはまだしも、「看護」を教えてよいのかと疑問というか不安があった。しかも教師デビュー戦なのに10コマ!

 不安だらけで迎えた初日、学校の正門をくぐると「こんにちは」とすれ違う在校生が元気に挨拶をしてくれる。校舎も制服も変わっていたけれど、挨拶には厳しい校風は変わっていない。正直なところ、在学当時はピンときていなかった挨拶だけれど、社会人になってからはどれほどこの挨拶に助けられたことか。挨拶をしっかりとすると、大抵の人間関係の初手はうまくいく。初対面での印象が最低でもゼロ、決してマイナスではスタートしない。この「マイナスにならない」というアドバンテージは案外大きい。

 そんなこんなで挨拶に感動しつつ、教室に入ると一気に過去に引き戻された。黒板の右端には、日付と週番の名前がある。黒板の上には校訓が額に入って掲示されている。その紙は日に焼けていて、見慣れた特徴のある毛筆文字。
もしかしたら当時から変わっていないのかもしれない。平静を装ってはいたものの、心中では「萌え〜」が止まらない。

 そして、極め付けはチャイムと同時に週番からかかる号令だった。

        「起立、きおつけ、礼、着席」

 「きおつけ」の号令で全員の背筋がピンとする。あの頃は習慣でしかなかった始業の挨拶だけれど、気持ちを切り替えるためには意味はあったのだとピンとした背筋を見て思う。ちなみに、挨拶は時間で区切られていた。11時までに交わされる挨拶は「おはようございます」、それ以降は「こんにちは」になる。これは始業の挨拶だけはなく、すれ違う時の挨拶も同じ。

 懐かしい学生時代の思い出が蘇っただけでなく、忘れかけていた大切なものも思い出された初回の講義。終了した後の購買部のレモンスカッシュのなんとと美味しいこと! なんとか無事に終わった萌え萌えなデビュー戦だった。

 


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