悪用禁止!詭弁と陰謀論の教科書 第3回「反論を論破する技術」
「詭弁・陰謀論で人を騙すテクニック」について解説しています。
※これまでの流れがないと分かりにくい内容です。先に第1~2回をお読みください。
・第1回では「あったことをなかったことにするデマ」
・第2回では「なかったことをあったことにするデマ」
をそれぞれ作ってきました。
しかしいずれのデマも、大勢の批判にさらされます。それに対して何らかのカウンターを打たなければ、すぐにデマと露見して鎮静化してしまいます。
そこで今回は「批判をかわす方法」についてお話ししていきます。
誤解されたくないのですが、ここから説明するのは「議論に勝つ方法」ではなく、「議論に勝っているかのように見せかける方法」に過ぎません。聴衆の多くに「あっちが言い勝っているな」との印象を与えることが目的です。
決してボールを持つな!
コツは「立証責任を絶対に引き受けないこと」です。
言い換えると、「立証責任というボールをそもそも受け取らないこと」又は「もし受け取ったとしてもいい加減な方法ですぐに投げ返すこと」です。
その方法を6つ紹介しましょう。
①嘘の中に混ぜ込んだ一部の真実に注目させる
多くのフェイクニュースには、少しの真実が混ぜ込まれています。その「少しの真実」には疑いようのない証拠が用意されているので、当然信じてしまいます。
不思議なもので、それを信じてしまうとうっかり陰謀論の別の部分までも真実であるかのように見えてしまうのです。
例を挙げてみましょう。
正誤問題です。次の文章が正しいかどうか考えてください。
東京とシドニーの経度を比べてみると、東京の方が西にあります。つまりこの問題の答えは丸かな、と一見思ってしまいます。
ところが、この問題の焦点は別の箇所にあります。実はオーストラリアの首都はシドニーではなく、キャンベラなのです。
この問題のトラップは、ラストの「西にある」という点についつい目が行ってしまい、東京とシドニーの位置関係にばかり着目してしまうところです。まるで前提のように書かれている「オーストラリアの首都シドニー」という点はスルーしてしまいます。
このやり取りでは、交通事故の証拠が示されただけなのに不倫まで立証されたかのような空気になっています。
この方法を、第2回で作成した陰謀論「A市政はB国にコントロールされている」という話に適用してみましょう。
この事例では、「D議員がE社社長と会ったことがある」(第一事実)という点だけが真実であり、「E社がB国のフロント企業である」(第二事実)という点がフェイクなのです。しかし「写真が証拠だ」といわれてしまうと、つい写真が証明する第一事実に着目してしまい、うっかり第二事実までもが立証済みと勘違いしてしまうものです。
②検証不可能な反論をする
これが①~⑦の中で最も効果的な方法です。よくある陰謀論はこれしか使っていません。
カール・ポパーという科学哲学者をご存じでしょうか。彼は「科学とエセ科学の境界は、反証可能性があるか否かで分けられる」と主張しました。
例えば「お化けはいる」との主張に対して、「これこれこういう実験を行ったが、お化けはいなかったぞ」と反論しても、いる派は
「お化けは変幻自在なんだから、実験なんかで存在を証明することはできませんよ」
と言って開き直ることができます。
つまり、「お化けはいる」との主張は何をもってしても覆すことができない最強の主張なのです。このような反証できる可能性がないものは、科学ではないというわけです。
ポパーの考えを詭弁論の世界に応用すると、こうなります。
「反証できる可能性のない主張、つまり何をもってしても否定できない主張をすれば、議論で決して負けることはない」
では「何をもってしても否定できない主張」とは何か。
具体的には、伝聞情報や内心に渡る話を指します。
【伝聞情報を用いた反論】
伝聞情報を用いた反論とは、第1回で例示したように
「お前の主張はアメリカの政治学者ハワード氏によって完全に否定されている」
と主張しつつ、ハワード氏が具体的にどのような主張をしているかを問われれば
「お前の責任において調べろ」
と突き放すことを指します。その「ハワード氏の論証」とやらの原典が見つからないため、相手方は反論の方法を失います。
【内心に渡る反論】
内心に渡る反論とは、
「お前は本心から謝っていない」
「顔つきがまだ悪いから、お前の性根は未だ更生していない。本当に更生したなら顔つきが変わってくるものだ」
といった検証不可能な主張を指します。
余談ですが、私は高校時代、成績が下がったときに父から「最近勉強をサボっているのが分かるぞ。顔が緩んできとる」などと検証不可能なことを言われてイラっとしたことがありました。
この方法を、再び第2回で作成した陰謀論「A市政はB国にコントロールされている」という話に適用してみましょう。
D議員の内心に渡る議論や、〇野△夫からの伝聞情報などを効果的に用いながら反論しています。
③疑惑を前提に反対論を棄却する
「疑惑」を一つ作ると、そこから派生的に「別の疑惑」が発生します。
その後、最初の疑惑に対する疑問が提出された際に、まだ仮説段階である「別の疑惑」をあたかも既に証明済みの事実のように扱って、そこからさかのぼって最初の疑惑を立証するという詭弁です。
これを上手く使うと、反対論者を黙らせるために使えます。
これまた例の陰謀論に適用してみると、こんな感じになります。
本来、
「B国企業に有利な仕様変更がなされた」→「D議員が介入したのではないか」
という順序で疑惑が進んでいったのに、陰謀論者は逆に
「D議員が介入した」→「B国企業に有利な仕様変更がなされたとしか考えられない」
と見事に論理を逆転させて反対論を抑え込んでいます。
④相手の主張を曲解する
上記2例は今もネットでよくみられる議論ですね。
「じゃああなたは・・・」と言いながら、相手が一度も主張していない話を勝手に登場させる手法です。
これを例の陰謀論に適用すると、こんな感じになります。
話が巧妙にズらされているのがお分かりでしょうか?
文章で読めば気づけるかもしれませんが、口頭でのやり取りではスルーしてしまいがちなズレですよね。
⑤主張を変遷させる
上記の例は私が実際に経験したものです笑。
知らなかったことを認めたがらない人が非常に多いです。
これも、例の陰謀論に適用してみましょう。
例の陰謀論は、当初はこう言っていたはずです。
「C社だけが受注できる状態になった」と言っておきながら、陰謀論作者の下調べが不十分で、実は日本企業も受注できる状態だったのです。現に応札しているわけですから。
しかし陰謀論者は、簡単に自説を引っ込めません。今度は
「仕様変更によってC社が勝ちやすい状況を作り出した」
という話に変遷させました。何の根拠もないのに。
⑥話者の属性を攻撃する
これも「工作員」とほぼ同じ主張なのですが、実に差別的なレッテル貼りであり、まともな人間は使ってはいけない手法です。
これも例の陰謀論に適用してみましょう。
陰謀論者は、自分は政治学者の〇野△夫氏の談話などを引用しておきながら、相手方が同様に学者の主張を持ち出そうとすると、平気でその属性を攻撃してきます。
⑦突き放して冷笑する
これはもう、無理やり話を終わらせる最終手段です。
疲れたとき、又は形勢不利なときによく用いられる手法ですね。
陰謀論者の「答弁」を見てみよう
ここからは、①~⑦のテクニックをフル動員した陰謀論者の「答弁」を通しで見ていきましょう。
また、動画サイトでの議論という設定にして、下に視聴者のコメントも足してみました。
まとめ
いかがだったでしょうか?
陰謀論者の「いなし方」は詭弁テクニックに満ちたひどいものなのですが、何も知らない一般人が観察すると、そこそこちゃんとした受け答えに見えてしまいます。
皆さんも、もし事前の解説を一切読むことなくいきなりこのやり取りを聞いたら、どうだったでしょう。「なるほど、A市役所とB国との癒着は本当かも」と思ってしまいませんか?
これで、詭弁のハウツーを一通り語り終えました。
もう語るべきことは十分語り終えたかなと思っていますが、反響があれば「見破り方」について思うところを書いてみるかもしれません。
(書きました。最終回はこちら)