『ラスト・キングダム』シーズン1-5(完結済み)ネタバレあり
Netflix で配信中の海外ドラマ 「The Last Kingdom」(ラスト・キングダム 2015~2022年)についてまとめた記事です。
原作はバーナード・コーンウェルの『The Saxon Stories』(未訳)。
ネタバレありますので、まだ視聴されていない方はご注意ください。
時代背景は、9世紀末~10世紀初頭の英国。
ノーサンブリアの太守だった父をデーン人(ヴァイキング)の襲撃で殺された主人公ウートレッドは、少年ながら見どころがあるとして仇敵であるデーン人の首領ラグナルが館に連れ帰り、そこで育てられることに。サクソン人の少女ブリーダも一緒でした。
アングロ・サクソンとデーン、対立軸にある二つの勢力の狭間に立つウートレッドの複雑な思いと戦いが、ドラマ全編を通じて描かれます。
ウートレッドとブリーダはラグナルの娘テューラの遊び相手となり、テューラの兄ラグナル・ラグナルスソンの異国での話(ヴァイキング遠征等)に夢中になっていました。
デーン人社会の中で大人になるウートレッドとブリーダ。二人は互いに惹かれ合っていきます。このあたりは普通にありそうな、自然な流れ。
しかし、彼らの運命が大きく変わる事件が起こります。
息子のほうのラグナル(テューラの兄)の留守中、ラグナル首長の館が敵対勢力(首長に恨みを持つキャルタンとスヴェン父子)に焼き討ちされ、ラグナルと妻、家人の多くが亡くなり、結婚式を目前に控えていたテューラは捕らわれ、ウートレッドとブリーダは居場所を失いました。
サガにもよく書かれていますが、ヴァイキングの復讐に焼き討ちは付き物。本当に、これでもか!って思うほど多いです、焼き討ち……
一方、ノーサンブリアのベバンバーグ(現在のバンバラ)は、ウートレッドの父の死後、叔父が太守となっていました。さらに叔父はウートレッドの養父ラグナルを殺害したキャルタンと結託。悪者同士でつるんでるわけですね。
ウートレッドはその後、ウェセックスの宮廷を訪れ、アルフレッド王のもとでデーン人との戦い方を教授することに。すっかりデーン風に染まってしまいサクソン人に敵意を抱くブリーダはウートレッドと別れ、別の途を歩むことを選びました。
サクソン人として生まれながらデーン人社会で育ったウートレッドとブリーダ。幼い頃から苦楽を共にしてきた二人がこれほど早くに別れるとは思わなかったけど、わりとあっさり別れましたね……。
ウートレッドはクッカムに領地をもらい、ミルドリスというサクソン女性と結婚するも、お互いを理解し合えず、結婚生活は破綻。
ブリーダほどではないかもしれないけれど、ウートレッドもサクソン人の暮らしに馴染めないのです。特に信仰。幼い頃にキリスト教の洗礼を受けたにもかかわらず、養父のラグナル首長にもらったミョルニル(トールハンマー)の首飾りを大切に持っているくらいなので。
アルフレッド王がウートレッドの館を訪れた時、少し厭味っぽく「異教徒の広間だな」と言ってましたね。
シーズン1のラストでは、アルフレッド王がデーン人の首領グズルムの軍勢を打ち破ったエサンドゥーン(エディントン)の戦いが描かれています。窮地に陥りながらも湿原に潜んで態勢を立て直し、勝利を収めるアルフレッド王の戦いぶりはとても見応えがありました。
デーン人勢力の中心地ヨールヴィーク(現在のヨーク。ドラマではサクソン語でエオフォルヴィクと表記)では、地域の権力者でウートレッドの宿敵(養父ラグナルを殺害した)キャルタンから救出されたグズレーズが新たな王に。ウートレッドはグズレーズの妹ギセラと惹かれ合いますが、優柔不断なグズレーズはウートレッドを裏切り、彼を騙して奴隷に売ってしまいます。アルフレッド王の助力もあり、ラグナル・ラグナルスソンがウートレッドを救出、グズレーズと和解します。ウートレッドは友人のベオッカ神父によってギセラと結婚しました。
また、仇敵キャルタンとスヴェンを倒し、テューラを救出。キャルタン殺害はラグナルの息子ラグナル(同名ややこしい……)が血讐(フェーデ)として父の仇討ちを果たしました。
ウートレッドと別れたブリーダはラグナルと行動を共にしていて、今や彼の妻といえる存在に。
そして、ウェセックスではアルフレッド王の長女エセルフレドがマーシア太守エセルレッドのもとへ嫁ぐことが決まります。
史実でのエセルレッドはエセルフレドよりかなり年上だったようですが、ドラマでは若い男性になっていました。ただし、性格は最悪。疑り深くて僻みっぽいモラハラ夫。しかも女性の扱いが雑すぎる。エセルフレドは自尊心を傷つけられ、失望を隠せません……。
また、アルフレッド王の甥で先王の息子エセルウォルドは王位に就くことを諦めておらず、アルフレッド亡き後に機会を見出そうと画策。デーン人たちと行動を共にするようになります。
史実のエセルウォルドがどのような人物であったのかは不明ながら、後年反乱を企てたことを考えると、やはり野心はあったのでしょう。
ドラマでは、サクソン軍とデーン軍との戦いの最中、エセルフレドがデーン軍に捕らわれてしまいます。デーン軍の統率者であるシグフリッドとエーリク兄弟に捕虜としてイースト・アングリアに連れて行かれたエセルフレドは、そこで「高貴な人質」という立場の自分に思いやりを見せてくれたエーリクと恋に落ちるのでした。あの馬鹿夫に較べればね……敵対するデーン人であっても優しいエーリクに惹かれるのは無理もない話。
シーズン2はエセルフレドが救出されたところまで。
シーズン3に入り、ウートレッドは妻ギセラとの間に一男一女をもうけ、マーシアではエセルフレドが娘エルフウィンを出産(実はエーリクの子)。
ラグナルが率いるデーン軍は内部で争いが生じ、ラグナルの従兄弟クヌートがエセルウォルドを脅してラグナル殺害を唆します。
寝込みを襲われるという不名誉な最期を遂げたラグナル。武器を持たずに死んだことでヴァルハラ(天上にある戦死者の館)に行けず、その魂はニブルヘイム(冥府)を彷徨っているとされ、ブリーダは彼の魂を救うためにウートレッドとテューラに協力を要請。ラグナルの実妹であるテューラの血をもって、ラグナルの魂は救われたのでした。
一方、アルフレッド王は自身の健康の衰えを感じ、終わりなきデーン人との戦いの中で息子エドワードの将来を案じます。
裏切者のエセルウォルドは戦場から逃亡、ウートレッドに追い詰められ殺されます。そこでウートレッドはラグナル殺害の黒幕がクヌートであることを知ったのでした。
ウートレッドの妻ギセラが三人目の子の出産時に産褥死したり、ベオッカの妻となっていたテューラがデーン人を憎むサクソン人の卑劣な行為で命を落とすという悲しい出来事もありましたが、このシーズンでは、アルフレッド王とウートレッドの関係性の変化、エセルフレドの人としての成長、大人になっていくエドワードなど、登場人物の行動と心の動きが非常によく描かれていました。
アルフレッド王亡き後、シーズン4はウートレッドの故郷であるベバンバーグがアルバ(スコットランド)の襲撃に晒されているところから始まります。故郷、そして太守の座を取り戻すために少数の仲間とともに北へ向かうウートレッド。叔父への復讐を果たす絶好の機会でしたが、そこに放蕩息子のウィトガー(ウートレッドの従兄弟)が舞い戻ってきて、ウートレッドの前に立ちはだかるのでした。
ウィトガーは実父を殺害、新たな太守となります。従兄弟との戦いで盟友ベオッカを喪ったウートレッドは故郷を離れるしかありませんでした。
このシーズンの最大の見ものはテテンホールの戦い。
夫に代わりマーシア軍を率いるエセルフレドとウートレッドはデハイバース(ウェールズ南部)のハウェル王と同盟を組み、クヌートが率いるデーン軍と対峙。交戦中にエドワードの軍勢が加わり、サクソン軍が勝利しました。
クヌートは逃げようとしますが、ウートレッドとブリーダに追いつかれます。ブリーダはそこでウートレッドからクヌートこそがラグナル殺害の真犯人であることを告げられ、クヌートに復讐を果たします。
しかし、その後ブリーダはウェールズ軍に取り囲まれ、「捕虜の辱めを受けるよりはラグナルのもとへ行きたい」とウートレッドに願うものの受け入れられず(ウートレッドは彼女を殺すことを躊躇った)、捕虜としてウェールズへ連れて行かれました。
この時のウートレッドに対する怨恨がブリーダの内面で膨れ上がり、シーズン5で悲劇を招くのですが、その話はあとで書きます。
アイルランドのダブリンからウェールズに到着したクヌートの親族シグトリグルに救出されたブリーダは、彼の軍勢とともにウィンチェスターを目指し、エドワード王を窮地に追い込みます。エドワード王に協力するウートレッドはシグトリグルの目的がウェセックスの征服ではないことを見抜き、彼を説得。ウィンチェスターを去らせることに成功します。
シグトリグルの選択に納得がいかないブリーダは、彼と袂を分かつことに。
また、マーシアでは太守エセルレッドが戦で受けた傷がもとで亡くなり、ウートレッドが機転を利かせてエセルフレドが女太守として認められました。
ウートレッドとエセルフレドは愛と信頼で結ばれていましたが、エセルフレドをマーシアの統治者にするために、二人は愛を封印したのでした。
シーズン4後半では、ウートレッドの子供達が活躍しています。とりわけ娘のスティオラはエオフォルヴィク(ヨールヴィーク)の王となったシグトリグルの妃となり、新たな人生を選びました。
クヌートの子を産み落としたブリーダがウートレッドに報復を誓うラストシーンは凄みがあり、次シーズンでの混乱を暗示しているようでした。
そしてシーズン5(最終シーズン)。
前回のラストより数年が経過。娘を連れたブリーダが軍勢を率いてエオフォルヴィクにやって来ます。シグトリグル王は実弟の裏切りにより、困難な状況に。妻のスティオラが国の為に奔走、ウートレッドはエセルフレドに援助を求めますが、彼女は病に侵されていたのでした。
ウェセックスではエドワード王の二人目の妃エルフレドの父エセルヘルムが自身の孫を次代の王にしたいが為に陰謀を企て、エドワードとシグトリグルの間で戦いが起こるよう煽り立てます。
野心家のエセルヘルム、なかなか味わい深い悪役でしたね。
戦いの中でウートレッドと対峙したブリーダは、今度こそ自分をラグナルの居る場所へ送ってほしいと願うのですが、ウートレッドはどうしても彼女を殺すことができず、実際に手を下したのはウートレッドの娘でブリーダに恨みを抱くスティオラでした。
マーシアではエセルフレドが亡くなり、後継者問題が浮上。ウートレッドはエセルヘルムの陰謀の真実を明らかにし、大胆な攻撃をエドワード王に提案しますが、王は慎重な態度を崩しません。そこへスコットランドの介入もあって、ウートレッドはベバンバーグに赴き、従兄弟のウィトガーを破滅させます。
イングランド統一を叶えたいエドワード王、ベバンバーグを取り戻して家族の将来に希望を抱くウートレッドは最終決戦に臨み、ついに目的を達成するのでした。
長い物語ゆえ、主要人物以外にもそれぞれのシーズンで印象的な登場人物が何人もいました。
サクソン軍でウートレッドの最初の友人となったレオフリック。
戦う修道女ヒルド。
敵対したり、アルフレッド王に協力してみせたり、どっちつかずなデーン人ヘステン。
デーン人の魔女にして預言者、ウートレッドを苦しめたスケード。
エドワード王の長男ながら遠ざけられて育ったアゼルスタン。
マーシアの安寧を心底願い、エセルフレドに忠義を尽くすアルドヘルム。
(他にもまだまだ……書ききれません)
歴史上に実在した人物、オリジナルキャラ、ともにドラマを彩る人間関係をつくってくれました。
しかしながら、この物語で最も過酷な運命を生きたのはブリーダではないでしょうか。
サクソン人に生まれながら、デーン人として生きたブリーダ。冷酷な女戦士のイメージが強いものの、ウートレッドとの確執やラグナルへの一途な愛もあって、興味深い人物でした。
もっとも、主人公のウートレッドにしても、ただ強くてかっこいい英雄というわけではありません。粗野で短気、相手が王であろうと自分の考えを曲げない頑固な一面を持ちながら、長年の友で良き相談相手でもあったベオッカを喪った時などは悲しみに打ちひしがれ、もはや立ち直れないんじゃないか……と周囲に心配されたほどで、良くも悪くも非常に人間味のある男だと思いました。
歴史上に実在したノーサンブリアの太守ウートレッドは生きた時代が異なるので、彼がモデルというわけではないようです。
あと、面白いと思ったのは、サクソン人は「ベバンバーグのウートレッド」と呼ぶのに対し、デーン人は「ウートレッド・ラグナルスソン(ラグナルの息子ウートレッド)と呼んでいたところ。
デーン人たちはウートレッドをデーン人の首領ラグナルの養子として見ていたのでしょう。
登場人物の衣装や武具など、ちょっとこれは……と思うものもあったけれど、まあ許容範囲ということで。
ほかにも、この作品に限ったことではないですが、ツーブロックのようなヘアスタイルやタトゥーも現代人が思い描くヴァイキングといったところでしょうか。
とはいえ、中世前期のイングランドを扱う物語はあまりないので、とても面白かったです。時間がある時にでも、また観返したいと思います。
なお、この作品には番外編『Seven Kings Must Die』があります。
※画像はドラマサイト https://www.imdb.com/title/tt4179452/ よりお借りしました