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CEO初学者の学び - CEO半年報 -
本記事はこの記事は、丸井グループ / marui unite / Mutureの有志メンバーによるアドベントカレンダーの最終日の記事です。
今年の7月にMutureのCEOに就任し、半年が経ちました。この期間に、組織としても個人としてもさまざまな変化が生まれたと感じています。新しい仕組みやアプローチを導入し、変革の兆しを形にしてきたつもりですが、まだまだどれも道半ばです。それでも、この半年で気づいたことや感じたことが多くありましたので、このタイミングで棚卸しをしながら書き留め、今後の展望も記しておこうと思います。
アドベントカレンダーらしからぬ内容で、誰の役に立つかもわからない内向きな振り返りになるかもしれませんが、今だからこそ書けるものがあると思い、このテーマにしました。なお、丸井グループの企業変革の進捗については、昨年のアドベントカレンダーとの違いや本年の投稿を群像的に捉えていただくことで、明確にご理解いただけると思いますので、そちらにお任せします。
経営の即時性と透明性を引き上げた
最初に取り組んだのは、経営の即時性と透明性を高めることです。そのための施策として、経営バックログをリアルタイムでメンバーに公開する試みを始めました。バックログ運用自体は前CEOの芝尾さん(BAOさん)の時代からあり、もともとはBAOさんの思考を発散させ拡張するために活用されていました。しかし、私がCEOに就任した際に、目的をアップデートし「できていないことを含めて全部発信する」という方針に転換しました。これにより、安全性は保証されないものの、やりたいことや目指す方向性をできるだけ早く伝えることを重視しました。
メンバーの反応はさまざまでした。バックログを熱心に見る人もいれば、全く見ない人もいます。見ない人がいることをただ悪いことと捉えるのではなく、経営としてコミュニケーションに改善の余地があることを明らかにしたと受け取っています。一方で、ありがたいことに、経営に関心を持ちバックログや関連する発信を追ってくれるメンバーも明確に分かるようになり、より良い機会やテーマを渡せる環境ができつつあると感じています。
取締役会の資料作成も見直しました。それまでは丁寧に作り込んだスライドを使用していましたが、議論を前提とした場には不向きだと感じました。そのため、資料をシンプルにNotionに落とし込み、論点を明確にすることに注力しました。その結果、資料作成にかかる工数が削減されただけでなく、内容に集中できるようになり、議論の質も向上しました。これは資料作成の一例ですが、他の場面でも同様の変化があり経営としての議論や意思決定がよりシャープになったと感じています。
これらの取り組みを通じて、経営陣も「完成度にこだわらずに発信する」という文化にシフトしました。その結果、施策のスピード感が増し、さまざまなプロジェクトに柔軟に挑戦できるようになったことが大変嬉しく思っています。情報の非対称性を極力減らしながら、引き続き組織内で信頼関係を構築していく方向で進めていきたいと考えています。
全員の知恵を引き出す仕組みづくり
組織の知恵を最大限活かすために導入したのが「Spot」という仕組みです。経営として重要だと考える5つのテーマを設定し、それを基に議論や実行の場を設けました。「Spot」には “染み” という意味と同時に “居場所” という意味があります。そのSpotを目印に、関わり方や活動の幅を自由に取れるようにすることで、自己組織化を促進する仕組みになるよう設計しています。
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先々の大まかな経営戦略は引き続き私の小さな脳味噌で考えつつ、Spotを通じて全員の思考力や行動力を借りることで、その戦略を大きなものに膨らませて実現していければ良いと思っています。
最終的には、なるべく多くの人が積極的に議論や行動を起こしてほしいと考えていますが、現在は過渡期として捉えています。そのため、参加者が自ら積極的に動くも良し、遠巻きに眺めて一言二言挟む形で距離を保つも良し、としています。それぞれの関わり方そのものが今の組織の状態を映し出していると考えています。
この仕組みを導入して見えたのは、メンバーの一人ひとりが機会をどう受け取るかの違いです。身を挺して議論や行動を活発に推進する人もいれば、安全なところから動かない人や我関せずという人もいます。これを見て人の特性と結論づけることは簡単です。「あの人はやる気がないから」などと言っていれば、責任をメンバーに預け楽な気持ちになれるでしょう。
しかし、それでは経営が安全圏に身を置いているだけだと考えています。そうではなく、経営としてなぜそのようなスタンスが生まれたのかに向き合い、継続的に環境を改善していかなければならないと思っています。Spotの活動には極力介入しないようにしていますが、そこでの活動がより良いものになるためには、向き合い支援していくことが必要であり、それが私の責任だと感じています。
一方で、手を尽くしても反応がなければ、ある程度ドライに機会提供を減らしていく対応も必要だと考えています。これは丸井グループの変革に携わる者としても極めて重要な視点だと思います。大企業の変革においては、スモールでも強い意志を持つチームを作ることが肝要だと考えています。そのためのメンバーの抜擢や、チームコミュニケーションの改善を、極めて献身的に行うことがMutureの生業でもあります。
時には手を尽くしても反応がない場面に遭遇しますが、ここはチームの意志を薄めないためにも、やはりドライな対応をする判断をしなければならないと思います。最終的に大きく前進していくための過渡期には必要な痛みだと感じています。丸井グループに対しての支援品質を高く保つためにも、自組織も全員がこれを意識し行動することが必要です。当初からその狙いを定めていた訳ではありませんが、Mutureという組織でもこのような反応を得ながら、さまざまな取り組みを作っていくことで、その大切さに改めて気づかされました。
丸井グループ外の接点を増やすことで見えたこと
Mutureは11月に幕張メッセで開催されたデジタル人材育成支援EXPOに出展しました。正直EXPOの実態がわからないまま、市場調査を兼ねて参加しましたが、組織にとって多くの学びがあり、新たな可能性も生まれ、良い機会になりました。本当に出展して良かったと思っています。
EXPOの主旨からしても当然ですが、周囲の出展者はわかりやすい商材やソリューションを手に、それをプロモーションし商談をする場として活用していました。その中で、私たちは対話を重視し、変革に取り組む企業の悩みを聞き出すことにフォーカスしました。というより、売り込もうにも内容が抽象的すぎたり、値札がついていなかったりと、売るものが定まっていなかったというのが実情かもしれません。
この取り組みを通じて、具体的なリードや協業の話も生まれましたが、最も大きな収穫は、日本企業の変革における課題の解像度を上げられたことです。それまでは丸井グループ1社の課題に深く寄り添う形で取り組んできました。それはそれで深みがある非常に良い環境ではありましたが、改めて他社の課題に耳を傾けると、共通点が多く見られました。その結果、これまでより一段と構造的に課題を捉えることができるようになりました。
また、Mutureとして小さなコミュニティづくりにも取り組み始めました。「JTCX勉強会」と名付け、8月と10月に2〜30名程度の極めてクローズドな環境で勉強会を実施しました。「JTC」という呼称には、時に揶揄的なニュアンスを含む場合もありますが、私たちはそのイメージを変えていきたいという信念を持つ企業人を称えたいという思いであえてこの名前を採用しました。ちなみにその様子は以下のyoneさんの記事で垣間見えます。
参加者はJTCの中で変革に邁進する方や、悩みを抱える方など様々な方々で構成されており、非常に熱の高い議論が行われ、多くの学びを得ることができました。今はまだ小さな種火のような存在ですが、大事に育てていきたいと考えています。すでに参加者側から運営に回る意志を持つ方も出始めており、その方々の手を借りながらすでに次回来年2月の開催も決まっておりますし、今後の展開が楽しみです。
さらに、Mutureの取り組みに対してリビングラボとのアプローチとの類似性を見出していただいた方が論文※にまとめてくださり、それをきっかけに11月に開催された「第6回全国リビングラボネットワーク会議」で登壇させていただきました。これまでもいくつか登壇の機会はありましたが、今回はアカデミックな視点でMutureの取り組みを分析していただいた点が特徴的で、そのおかげで、私たちの活動の一貫性や再現性をより深く認識でき、私たちにとっての成功体験となりました。
※ 木村篤信 氏「システムを<解く>/<説く>実践にみる社会システムデザイン方法論~DXやビジネスモデル転換の事例分析を通じて~」
こうした外部の課題に触れるインプットや、アカデミックな視点を借りたアウトプットなど、外部との接点を活用することで、組織が変わり、事業が変わるためのプロセスや手法を磨き上げていく必要があると強く感じています。今後もこのポイントをMutureとしてさらに強化していきたいと考えています。
少し宣伝になりますが、こうした知と実を交えて交差点となるような機会を作りたいと考えています。3月13日にMuture主催でカンファレンスを開催しますので、もしご興味がありましたらぜひご参加ください。現在、登壇者は調整中ですが、変革の実践に取り組む方々や、それを構造的に捉えて分析するアカデミックな方々が集う場となる予定です。
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「戦略には鮮度と変数が必要」という気づき
この半年間で得た大きな学びの一つは、戦略は「後から変える」ことが許されるという事実です。むしろ、さまざまな場面で当てて反応を見ながら変え、進化させていくべきだと感じています。そのためには、まず戦略を提示し続けることが重要です。
完成度を追求するのではなく、速やかに形にして「鮮度」が落ちないうちに提示し、反応を活かしてアップデートをする。
ただ提示するだけでなく、反応をしっかり観測できるように仮説を持ち、何がわからないのかという「変数」を自分の中で定義しておきます。
行動のスピードは「鮮度」を、行動の量は新しい「変数」をもたらします。その結果、戦略の柔軟性をさらに引き上げることに繋がると思っています。
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これを徹底して繰り返すことで、戦略の進化につながると実感しています。
このプロセスを繰り返すことで、環境変化に適応できる戦略や組織が育つのだと考えています。とはいえ、冒頭に述べたようにまだ道半ばですし、ずっと生み出し続けることは正直しんどいです。常に脳が沸騰しているような状態でないとアイデアは出てきません。しかし、それをしなければ始まらないのです。一生既定路線を歩み続け、環境変化に淘汰されるのを待つのではなく、自ら進化していく道を選ぶしかないと考えています。
これからの挑戦とMutureの未来
事業
この記事では経営としての新たな取り組みにフォーカスしたため、どうしても丸井グループでの活動内容への言及が薄くなってしまいました。しかし、引き続きMutureの最重要拠点は丸井グループです。
今後はこれまで以上に取り組みを進化・深化させ、丸井グループのデジタル戦略全体に関わり、インパクトと利益を生み出していきます。一方で、外部との接点を増やし、さらに独自の価値を磨き上げていきます。完全に二兎を追うことになりますが、その意志で挑むつもりです。
組織
中長期的な目標として、情報格差をなくし、相利共生的な文化を持つ組織を作り上げることを掲げています。メンバーが周辺化せず、自らの意志で行動し、新しい価値を創造する。そのような文化を醸成するための仕組みや場を引き続き整備していきます。その中で、目覚ましい活躍をする人材が次々と排出され、CXO量産組織のような未来が訪れたらそんな喜ばしいことはありません。
個人
私自身は、とにかく経営者としてまだまだ成長が必要だと感じています。現時点で思いつく限りの行動としては、外部の経営者や専門家との対話を増やし、大企業変革のケーススタディを吸収していくことですが、まだまだもっとやらなければならないことがあるでしょう。強く推進しながらも、柔軟に方向転換できる経営者でありたいと考えています。足りない部分をさらけ出しつつ、強さを身につけていきたいと思っています。
最後に—— 変革を楽しむあなたへ
Mutureはまだ若い企業ですが、挑戦を恐れずに変革を楽しむ文化を育てつつあります。完璧ではない一歩一歩の中に、成長の可能性が隠れていると信じています。これからもメンバーやステークホルダーと共に歩み、変革の最前線で挑戦を続ける組織でありたいと考えています。もし私たちの姿に共感していただけるのであれば、ぜひ何か小さな行動を起こしていただけたらと思います。例えば、私にDMを送ることや、勉強会やカンファレンスに遊びに来ていただけると最高です。Mutureに参加したいと言っていただけたら、本当に感激します。ぜひ何かしらの関わりを持って、その先で一緒に種火を育てていけたらと思います。
という記事をCEOという立場から書きましたが、もう一個書きたかったのが焚き火の記事です。ぜひ一緒に火を囲んで話しましょう。