【ウルフズ】謎解き・あらすじ・感想(三幕構成で読み解く)
結末まで語るので、本編を未見の方にはブラウザバックを推奨します。
まずは、物語を三幕8場構成に分解します。
一幕
1)ある夜、マーガレットがホテルで連れ込んだ少年(ただし男娼ではない)が事故死したのでフィクサーAを呼ぶ。同じタイミングでホテル管理人がフィクサーBを呼ぶ。二人のフィクサーは協力して仕事することを命じられる。
2)さらに少年が麻薬を運んでいたことが発覚して、持ち主に返却するまでを命じられる。おそらく数日前にアルバニアマフィアから盗まれた麻薬。二人は困り果てるが、なんと少年が実は生きていたことが発覚する。
二幕
3)二人は奇遇にも共通の知り合いだったチャイナタウンの闇医者に少年を治療させるが、意識を取り戻した少年が脱走を図ったので苦労して捕まえる。
4)二人は汚いラブホテルで少年から事情聴取する。少年はディエゴに頼まれて薬物を運んでおり、取引相手は闇業界の大物ラグランジュで、もうすぐポケベルに受け渡し場所の連絡が来ると説明する。少年にクラブでポケベルを回収させるが、クラブにはアルバニアマフィアの首領ディミトリが居て、二人は危うく捕まりそうになるが機転を利かせて脱出する。
5)二人はラグランジュがディミトリから麻薬を盗む計画を立てて、ディエゴは少年を騙して危険な任務を押し付けたと推理する。おそらく少年はその場でラグランジュに殺されるだろうが、二人は放置して、それをもって自分達の仕事を終わらせること(麻薬は返却、少年は処理完了)で合意する。後味は悪いが、この仕事ではしばしば起きることだ。ポケベルに連絡が来る。
6)少年がラグランジュの倉庫に入ったところで、やはり少年を救うべきかと迷っていた二人に、武装したディミトリの一味が襲ってきて激しい銃撃戦になる。二人は協力して命からがら敵を殲滅する。
三幕
7)二人が倉庫に入ると銃撃戦でラグランジュとディミトリの両陣営が全滅していた。少年は車のトランクに隠れて無事だった。フィクサーAは少年を殺そうとするが、フィクサーBが止めて、二人は少年を家まで送り届けて、少年の父親を口止めする。
8)二人はダイナーで朝食をとりながら、雇い主が共通だと気づく。実は最初から全て仕組まれていて、そのまま二人を消すつもりだったのではないか。そのときダイナーを複数名の殺し屋たちが囲んでいるのに気付く。二人は生き延びたら名前を教えることを約束して戦いに挑む。
FIN
▼解説・感想:
●構成
1-1:二人が呼ばれる
1-2:麻薬が見つかる;少年は生きてた
2-3:逃げる少年を捕まえる
2-4:ポケベルを入手する
2-5:少年の処理方法を決める
2-6:倉庫での戦い
3-7:少年を生かすことにする
3-8:黒幕が誰かに気付く;チーム結成!
こうして見ると、二人のフィクサーがチームを結成するまでのオリジン物語だったと最後に判明して、気持ちよく終われる映画でしたね。
●スターが演じるアクションコメディ
ケイパー映画として、かなり良くできた傑作だと思います。
ジョージクルーニーとブラッドピットが再び共演というのは、見ているだけで楽しいですね。オーシャンズ11の興奮をもう一度。
ジョンワッツ監督脚本が挟む軽快なユーモアが心地良いです。これはMCUのスパイダーマンでもありましたけど、あちらは子供が軽口を叩いてるだけなので少し見苦しい瞬間がありましたが、こちらは大人の余裕があって見やすいです。
その上で、不安定な少年が出てくるのがミソで、彼はピーターパーカー味がありましたね。(笑)
●音楽がとても良い
そして、全編を通して、選曲が良いです。
特に、クルーニーが車でいつもシャーデーの往年の名曲を大音量で聴いてるのが渋くて笑えました。ジョンワッツは1981年生まれなのでリアルタイムの世代ではないと思うんですけど、幼少期に父親がカーステレオで聴いてたパターンですかね、これは。
いや、本当に名曲で、いい感じなのでYouTubeを貼っておきます。
Sade - No Ordinary Love - Official - 1992
Sade - Smooth Operator - Official - 1984
流石にMCUのスパイダーマンでこの曲は使いにくかったのかな。(笑)
●続編が楽しみ…だった
なんか『オーシャンズ11』の外伝のような感じもしますね。ここから二人が詐欺師に転向して…という感じで物語を繋げられそうな気もします。
ここまで面白い内容なのに、劇場公開が見送られたり、続編の計画が消えてしまったり、色々と巡り合わせの悪い映画になってしまったのが残念です。
▼謎解き:
さて。
謎解きパートがかなり早口だったので、ここでよく考察したいと思います。
以下、重大すぎるネタバレですのでご注意ください。
●一度、整理しましょう
まず舞台となるマンハッタンは薬物犯罪が多い状態でした。このため地方検事長のマーガレットは犯罪に対する強い姿勢をアピールして政治活動をしていました。彼女はおそらく次期のニューヨーク市長などを狙っていたと思われます。映画をよく見ると、テレビやポスターなどでマーガレットの顔を大きくフィーチャーして「TOUGH ON CRIME(タフ・オン・クライム:犯罪に負けない)」とスローガンを掲げているシーンが結構あります。
薬物取引を仕切る勢力は大きく二つあり、一つはアルバニア系マフィアでこちらはディミトリが仕切っています。そしてもう一つはラグランジュが仕切るグループです。で、二人のフィクサーの会話から、つい先日にアルバニアマフィアから大量の麻薬が盗まれたことがわかります。
この麻薬を盗んだ実行犯がラグランジュに雇われているディエゴでした。ディエゴは一時的に預かっていた麻薬をラグランジュに届ける予定でしたが、身の危険を感じて、少年を身代わりにしました。この少年は麻薬の運び屋を引き受けるのは今回が初めてだったので、気が大きくなってホテルのラウンジで複数名の若い女と楽しく飲んでいたようですが、成り行きでマーガレットに誘われてホテルのスイートルームに入って、そこでオーバードーズを起こして倒れます。
ここから先は映画に描かれた通りで、少年を掃除しに来た二人のフィクサーが、少年を治療して、ポケベルを入手して、少年に配達させて、マフィアの抗争が起きて、生き延びた少年を家に帰して、仕事を完了させました。
ところが、映画のラストで、これらのトラブルは全てフィクサーの雇い主(ボス)が計画したことだったと語られます。ディミトリとラグランジュがぶつかって互いに倒れてくれれば、新しく権力を握ろうとするマフィアにとっても好都合ですし、一時的に犯罪組織を撲滅しらことでマーガレットの株も上がります。更に、マーガレットの政治家としての力をフル活用すれば、マフィアが抱えていた莫大な資金を、マネーロンダリングして資金洗浄することもできます。
●最後の会話
改めて、最後の会話を整理しましょう。きっかけはフィクサーを説得するために、ボスがパムとマーガレットに吹き込んだ決め台詞でした。
A=クルーニー
B=ピット
B: So, what did she say to you to get you to work with me?
それで、お前に俺と一緒に仕事させるために地方検事長は何を言った?
A: What’d she say? She had all the leverage.
地方検事長が何を言ったかって?彼女は全部握ってるだとよ。
B: She said that I didn’t have a choice.
パムは俺には選択の余地は無いと言ったよ。
A: All right.
だろうな。
B: “You take a job, you give your word, and that word’s the measure of the man.”
「仕事を受けたからには最後までやり通すのが男だろ」だとよ。
A: Who called you?
誰からの電話だった?
B: What?
何が?
A: In the car to June’s. Who called you?
ジューンのところに向かう途中で。誰が電話してきた?
B: Who called you?
そっちはどうなんだよ?
A: It was your guy.
お前に電話した男だったよ。
B: My guy?
俺に電話した男?
A: The guy that Pam got your number from. Your guy. So, she must have called him. But then why call me?
パムにお前の電話番号を教えた男だ。お前のボス。パムがボスに電話してたんだろう。でも、それでなぜ俺に電話する?
B: Who called… You’re saying the DA got your number… No.
電話したのは…お前は言ってるのは、地方検事長はお前の電話番号をある人物から教えてもらった…って、まさか。
A: Yeah.
そのまさかだ。
B: We have the same guy?
俺たちのボスが同じ男だったって?
A: We both have the same guy.
俺たちのボスが同じ男だったんだ。
B: But why does he care? It’s just a cleanup job.
でもだからって気にすることないだろ?ただの掃除仕事なんだし。
A: He doesn’t. Unless…
気にしないね。ただし…
B: Unless he knew about the drugs.
ただし、あの部屋に麻薬があるなら話が変わる。
A: Kid’s dead, can’t make the drop, so he calls us.
小僧が死んで、麻薬が無事に届かない。それでボスは俺たちに電話した。
B: One at a time, but nobody answers.
同時に。でも二人とも電話を取らなかった。
A: So, he sent someone else.
それで、ボスはもう一人送った。
B: Chinatown.
チャイナタウンに。
A: Sees the kid’s alive.
そいつは小僧が生きてるのを見た。
B: Hard to miss. The plan’s back on track.
あの騒ぎを見逃すわけない。これで麻薬の受け渡しは予定通りに。
A: Except, we’re on our way to Dimitri’s…
ただし、俺たちがディミトリのクラブに行かない限りだが。
B: Who would have killed us, except…
ディミトリに見つかったら俺たちは殺される。ただし…
A: We didn’t fool Dimitri. He was tipped off.
俺たちはディミトリを騙したんじゃなかった。先にボスがディミトリに俺たちを殺すなと連絡をしてた。
B: Bodyguard didn’t get the memo.
ディミトリの取り巻きは知らされてなかった。
A: The Albanians don’t make a move because…
アルバニアマフィアは俺たちから麻薬を取り戻そうとしなかった。なぜなら…
B: The tracker’s not even on.
追跡装置が作動してなかったから。
A: Until the page.
ポケベルで連絡が来るまでは。
B: It was all a setup.
全て最初から仕組まれていた。
A: It looks like Lagrange is trying to move the stolen drugs.
ラグランジュは盗んだ麻薬を動かそうとしたようだな。
B: And the Albanians go to war with Lagrange, no competition.
そしてアルバニアマフィアはラグランジュとの全面抗争に入った。そして共倒れ。
A: The city shuts down.
(警察が介入して)街は全面封鎖。
B: People get arrested.
大量の逮捕者が出る。
A: I know a DA who’s "TOUGH ON CRIME."
俺さあ、とある地方検事長で「犯罪に負けない」って言ってるヤツを知ってるんだが。
B: …the real thief to clean up.
本物の泥棒だな。綺麗さっぱり掃除できるヤツ。
A: …who can clean drug money.
麻薬の金をロンダリングして洗浄できるヤツ。
B: Great things to come.
すごいことが起こるぜ(栄光の未来が待ってる)。
A: No wonder they wanted the cameras in the room.
道理で部屋に隠しカメラなんか設置したいわけだ。
B: He wanted to know who knew.
ボスは誰が知ってるのか知っておきたいからな。
A: But the kid turns the ambush into a shoot-out.
しかし受け渡し場所を戦場に変えたのは小僧だった。
B: We were supposed to take the fall. He didn’t think we’d send the kid in.
俺たちが来ると踏んでたのにな。ボスは俺たちが小僧を送るなんて思ってなかった。
[both] We were getting cleaned.
俺たち、狙われてるんじゃね。
このように、二人のフィクサーのボスは最初からラグランジュとディミトリを衝突させて共倒れさせるつもりで、ホテル支配人のパムと結託して、運び屋の少年をオーバードーズさせて、二人のフィクサーに運びを代行させるつもりだったと見られます。ホテルの室内に監視カメラがあるのは異常というか、たぶん法律違反ですからね。
●話が複雑になった理由
ボスの計算外だったのは、まず少年が死んだことでした。オーバードーズさせるのは計画通りでしたが、死ぬのは計画外でした。それでパムは慌ててボスに報告して、ボスは受け取り場所を教えるためにフィクサーに電話を掛けました。結果的に少年は死んでなかったのですが。
次に計算外が起きたのは、二人が少年を取引に行かせたことでした。これは二人がダイナーでそう話しているから、たぶんそうなのだろうと思うのですが、私にはちょっと理屈がわかりません。子供にそんなことさせられるか、って感じですかね。いや、キャラがぶれるから、作劇としてよく解らないなー。
A: He has to do it.
小僧が配達するべきだ。
B: I’m not following.
ちょっと言ってることが解らない。
A: Sometimes the job takes care of itself.
時には仕事が自動的に終わることもあるのさ。
B: Oh. So the kid walks in and he gets shot? Because you don’t wanna do it?
ちょ、じゃあ小僧が歩いて行って、撃たれりゃ良いってか。自分でやりたくないから?
A: I don’t do anything I don’t have to. Especially not that.
自分でやる必要がないことはやらない。特に今回は。
B: Let’s say you’re wrong. The kid makes the drop, and he walks out alive.
お前の読みが外れたらどうする?小僧が配達を終えて、普通に歩いて出てきたら?
A: Then…
その時は、ね。
●地方検事長はグルなのか
黒幕として微妙なラインなのは地方検事長のマーガレットです。彼女は少年がオーバードーズで倒れた時に本気で心配していたように見えますし、フィクサーとの会話では何かを演技しているようには見えません。おそらく日常的に少年や男娼をキャッチしてホテルでアバンチュールを嗜む癖がある人物で、そこに目を付けたボスが今回の事件を弱みとして握ってマネロンに使う計画だったのではないでしょうか。
マーガレットが部屋に誘う直前に、少年と楽しく飲んでいた女達も怪しいんですよね。少年の飲み物に何か薬を入れてたんじゃないかな、とか。少年をその気にさせて、マーガレットに誘われやすくしたんじゃないかしら。
Kid: And it’s, like, three fucking girls, they just start talking to me, like, hot girls. Like, I’ve got the fucking juice. They’re buying me drinks and shit ’cause I’m broke. And then, I’m coming out of the bathroom, and this older lady, she’s fucking hot too, is straight up like, “Do you wanna come up to my room?”
それで三人のイケてる女の子達が、俺に話しかけてきたんだ、なんか、ホットな感じで。なんか、俺ってモテるようになったみたいな。その子達は俺に酒を奢ってくれて、 金が無かったからなんだけど、そんでトイレから戻ってきたら、今度はくそイケてる熟女が居て、こっちにきて、ねえ私の部屋に来たい?って言ったんだ。
ただ、マーガレットにパムから電話が掛かってきた時の対応は不自然に聞き分けが良かったし、首尾良くトイレに隠れて二人のフィクサーに話を聴かれないようにしたり、動きが不自然で怪しかったので、マーガレットが最初から黒幕側だったのかは判断に迷います。この怪しい動きも、マーガレットが日常的にそのホテルを不倫目的で使っていたから、ホテルの支配人にバレていたと察して咄嗟に取った行動だったのかもしれませんけど。
●まとめ
そんな感じで、やや消化不良な箇所は残りましたが、全体として面白い映画だったので、そこまで満足度を下げるものではありませんでした。
むしろ、当初は予定されていた続編で、詳細が明かされる計画だったんじゃないですかね。もしくは、続編を作りやすくするために、本作では曖昧に残しておいたとかも考えられますね。上でも一度書きましたけど、本作は物語の構造としてはオリジンの形式を取っているので。
YouTubeでちゃんとしてそうな解説動画(英語音声)も見つけましたが、ここでも「映画内では曖昧にして全ては説明されてない」と結論づけているので、視聴者に解釈を委ねるタイプの作品だと結論づけて良いでしょう。
ここまで複雑で曖昧な物語だと、大ヒットは難しいかもしれませんね。観賞後にスッキリしないので、人に「面白かったから観に行けよ」とクチコミしにくいですから。だからアップルが劇場公開を見送ったのは戦略的には正しいような気もします。
…話がこじれて続編の計画が立ち消えたのだけは本当に残念に思いますが。😭
(了)