【ドント・ムーブ】あらすじ・感想(三幕構成で読み解く)
結末まで語るので、本編を未見の方にはブラウザバックを推奨します。
私は事前知識ゼロで観たので、第一幕の急展開をかなり楽しめました。できれば読者の皆さんにも同じ衝撃を味わって欲しいので、今すぐNetflixで冒頭10分を観てから判断してください。なんか「体が動かない/動かしちゃいけない」くらいの認識で観るのが一番楽しい映画ですよー。
まずは、物語を三幕8場構成に分解します。
一幕
1)アイリスは失意のまま山奥の州立公園の崖の上に立って飛び降りようとする。通りすがりのリチャードと名乗る男が現れて会話することでアイリスは思いとどまる。
2)アイリスは帰ろうとした所でリチャードに誘拐される。車内で目を覚ましたアイリスは暴れて事故を起こさせて脱走を図るが、リチャードから神経筋遮断薬を投与したからまもなく体が動かなくなると脅される。アイリスはそれでも走って逃げることを選択して、森に入っていく。
二幕
3)アイリスは川に飛び込んでリチャードから離れる。アイリスは体が動かなくなる直前に川から上がって草むらに寝転がる。
4)アイリスは農作業をしていた老人に介護される。しかしリチャードが老人の家に来る。危険を察した老人はアイリスを匿うが、リチャードに殺されて家を焼かれる。アイリスはリチャードに見つかって老人のトラックで連行される。
5)アイリスは車中でリチャードが実際は妻子が居ることを知って、趣味で人殺しをする本物のサイコキラーだと知る。
6)リチャードが先ほど起こした自動車事故を片付けていた所で巡回中だった警察官に職務質問される。アイリスは警察官にリチャードの犯罪性を伝えることに成功するが、リチャードは警察官を殺してパトカーを燃やす。
三幕
7)アイリスはリチャードに湖のボートに乗せられる。アイリスはリチャードのナイフを奪い、リチャードが警察官から没収していた銃で撃ってリチャードを討伐する。
8)ボートが浸水して沈むが、アイリスはなんとか泳いで岸に辿り着く。同じく息も絶え絶えに岸に辿り着いたリチャードを見つけて、アイリスは捨て台詞を言う。薬が切れて動くようになった身体。大きく呼吸する。風が心地良い。
エンディングテーマ)"You Don't Own Me" by Deep Sea Diver(お前に言いなりになりゃしない;女だからって甘く見るんじゃねえよ)
FIN
▼解説・感想:
●構成
1-1:アイリスは山に自殺に来るが、中止する。
1-2:アイリスは男に誘拐されて、シャットダウンの薬を投与される。
2-3:アイリスは森を逃げて、川に飛び込む。
2-4:助けてくれた老人が、男に殺される。
2-5:男が同情の余地もないサイコ野郎だと判明する。
2-6:犯行に気づいた警察官が、男に殺される。
3-7:アイリスは湖のボートで男を倒す。
3-8:アイリスは体の自由を取り戻す。男も生き残る。
綺麗なハリウッド式の三幕構成でした。
第一幕でアイリスの危機的状況と脱出という今作のミッションが示されて、第二幕で色々逃げようとしては失敗を繰り返します。5場で男が妻子と電話することで、アイリスの心を動かした会話が全部作り話であることが判明し、観客は同情の余地も無く男を殺すべきだと気持ちが固まります。そのあとダメ押しで警官殺しを重ねて、いよいよ第三幕で湖に場所を変えて、アイリスがナイフと銃で男に罰を与えます。
わかりやすいし、とても良いのではないでしょうか。
自殺願望を持つ女性を説得して救出した後に誘拐して殺すのが趣味、という超サイコ野郎が本作の最大の特徴ですが、彼が最初に救出する過程で主人公女性の背景が台詞として語られるのも上手いと思いました。
●ラストについて
この映画が好評だったら、サイコキラーの男を主題にして続編を作ることを前提にしたラストって感じですね。(笑)
あんな刃渡り25センチのナイフで顔を突き刺されて貫通して、さらに腹を銃で撃たれて、上空5メートルから見ても判るくらい湖が赤く染まるほど大量に出血してるのに、50メートル近く湖を泳いで岸まで辿り着くなんて体力が異常です。(笑)
まさに同じくサム・ライミがプロデュースした『ドント・ブリーズ』で一作目の盲目サイコ野郎が、二作目ではまるで座頭市のような善玉キャラになったり、二作目では刃物で何度も斬られたのにラストシーンでは案外大丈夫そうだったのを思い出します。このリアリティラインがサム・ライミのお気に入りなのでしょう。
…というか、タイトルと座組からして、ドントブリーズのNetflix版を作ろうとしたのが明らかですね。(笑)
でも二番煎じ感はあまり無い、良作だと思います。
このままドント・シリーズとして色々制作されたりしないかしら?(笑)ドント・スリープとかドント・イートとか。スリープについては、もう『水曜日のダウンタウン』でやってるか。(笑)
男を倒したアイリスの表情が格好良くて、構図的にちょっと『ゼロ・グラビティ』も思い出させるシーンで、面白かったです。(他作品のネタバレになるのであまり詳しくは書きませんが、そちらも観たことがある人なら共感していただけると思います)
●エンディング曲について
最後で『You Don't Own Me』が流れるのは格好良い使い方だと思いました。それまで身体が一切動かせずモノのように男に扱われていた主人公女性の「てめえナメんなよ」という気持ちが、歌詞で語られる束縛する男から反発する女の感情とよく符合していました。
この曲は2016年版の『スーサイド・スクワッド』でハーレイが登場するシーンでも使われましたが、この時点でハーレイはジョーカーに心酔してて事実上の奴隷のような状態なので、楽曲がミスマッチであるなんていう批判がありました。もっとも監督のデヴィッド・エアーは当初ポップス曲を劇中で使う意図はなく、あくまでスタジオの意向で無理やりやらされた部分なのですが。
それに対して『ドント・ブリーズ』では楽曲が「正しい使い方」をされたように感じます。
(了)
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