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【ベイビーわるきゅーれ】から【ネムルバカ】へ:阪元裕吾の作家性とは?

https://x.com/comic_natalie/status/1835816010370396346

写真だけ一瞥して、む?べイビーわるきゅーれっぽいぞ?

…と思ったら実際に阪元裕吾で驚いた。しかも原作者も「阪元裕吾監督の【べイビーわるきゅーれ】を観た時『そうそう、こういうの! 僕はネムルバカをこういう風にしたかったんだよ』と思ったものです」とナタリーの記事で語っていた。


▼阪元裕吾の評価:

阪元裕吾の評価は難しい。彼が実現したことは凄いと思うし、世間的な評価の高さも知っている。でも、自分の目で観た時に、アクション映画としてはあまり凄くないと感じるからだ。

🚨注意:このnoteは個人の感想です。

『べイビーわるきゅーれ』が革新的で優れていた点は大きく二つあると私は思ってる。

一つ目は、スタントマン伊澤彩織にフォーカスを当てて主役にしたことである。それまでスポットライトが当たりにくい役割に徹してきたプロフェッショナルが、最大限にフィーチャーされる様子には、シンゴジラで霞ヶ関の優秀だけど不器用で出世コースから外された問題児集団が、組織や役職を超えて一致団結して大活躍したような《下克上のカタルシス》があって気持ち良い。

伊澤彩織(いざわ さおり、1994年2月16日 - )は、日本のスタントパフォーマー、女優。埼玉県さいたま市出身。日本大学芸術学部映画学科卒業。小学生のころは、クラシックバレエ、水泳などを習っていた。高校2年生のときにはその作品が「アニメ甲子園」や「映画甲子園」で受賞したことがきっかけで映画制作の道を志し、日本大学芸術学部映画学科に入学。映画『RE:BORN』の研修生オーディションに合格し、アクショントレーニングを開始。2016年、アクションの師匠である田中清一が亡くなったときに「遺志を継ぎたい」と思い、最終的にアクションの道に進むことを決意した。

ウィキペディアより引用。

二つ目は、ハードボイルドアクション映画にアイドルやアニメのような《萌え要素》を掛け合わせたことである。アクション映画を愛好する人達にとって、それまで興味がなくて知らなかった世界との出会いは、まさにケミストリーを生んだと言えるだろう。この異物感が目新しくて話題になった。

二つ目については、副次的な効果として、硬派を気取っていた映画ファンがアイドル的なものを愛でる立派な免罪符になったという側面もあるのではないか、とも思われる。女性アイドルを応援するのは男としてみっともないという感覚が中年以上世代の男性にはまだ根強くあるが、この映画は建前上はアクションなのでそうした好奇の目線を気にせず観たり、論じたりすることが出来る。

しかし、である。

私は、アクションシーンは伊澤らの《優れた身体能力》と《激しい殺陣》を凄いなあと感心することこそあれども、阪元監督の映画としての見せ方(=編集や、カメラワークや、照明の機微など)が上手いなあ…と感じたことは、実はあまり無い。

ベイビーわるきゅーれの公開は2021年だったから、本来であれば近年のリボルバーリリーとか聖闘士星矢とかゴールデンカムイとかキングダムとかG-MENとか、そういう大規模予算のアクション映画に阪元裕吾が招聘されても良い頃合いだと思う(まだ本格的にブレイクして3年だから大型プロジェクトに呼ばれても結果が出るのはもう少し先か?)のだが、実際の阪元はいまだにベイビーわるきゅーれの続編を作り続けており、つまり同じファン層に向けてしか創作活動していない。

本人も脱却を希望しているのか、第三作で完結させる意向があるようにも見える?
完全に余談だけどポスター題字の雰囲気が似てるなあ…
筆跡から見るに、たぶん別の人が書いたものではあるが…
aやsの形が全然違う。

▼次のステップは:

そしてこのたび、ようやく外部からの声が阪元裕吾に掛かったと思ったら、アクションではなくて女子大学生二人の友情もの(もしかしたらブロマンス要素もありそう)だった。

ネムルバカ,石黒正数,徳間書店 (2008/3/19)

これは、少し意地悪な言い方になるが、逆説的に「阪元裕吾はアクション監督として評価されてない」ということになってしまいそうな気がしてしまう。

別にそういう可愛い女の子の日常ゆるふわ系の監督としてビッグになるのも全然ありだと思うけどね。でも阪元裕吾監督はアクションを一番の売りにしてる印象があるので、そこは奥歯に何かが詰まったようなしこりが残る。

▼アクションで行くなら男も惚れる男を:

ベイビーわるきゅーれ2を観て強く感じたのは、男子大学生(非モテグループ)のようなクソつまらない会話のダルさだった。1作目は女子の戯言だからまだ大目に見れたけど、男子になると正直かなりウザイ。もし私が再度視聴することがあれば、殺し屋候補2人と負傷した掃除担当者のイキった長台詞シーンは全部スキップすると思う。

思い返せば、阪元裕吾の出世作もまた、アクション映画でありながら、それを感じさせないパッケージで意外性を売りにした映画だった。別作品のネタバレになるのでタイトルと詳細な内容の記述は控えるが、男女8人グループがキャンプに行った帰り道、山奥の集落でとんでもない事件に巻き込まれ、そこから意外すぎるネタバラシがあって、怒涛のアクション映画へ転換する楽しい作品だった。

しかし、それだってプロットのアイデアが独創的で目新しかっただけで、脚本やセリフは男子大学生が内輪ノリの寒い会話だけで突き進むものだったし、アクションも演者の動きが良いだけで映画的な面白味には欠けていた。

私が見るに耐えないと感じてしまう会話劇は、たぶんそれこそが阪元裕吾監督の学生時代の原体験であり、彼が作れる映画の基軸なのだと思うが、どうかもう一段階進化して、ユニバーサルに面白い会話劇を書ける人になって欲しい。特にアクション映画監督として更なる高みを目指すなら、男から見てダサいと思ってしまう男(=憧れの気持ちを持ちにくい男)を描いているだけでは、今後本格的に大ブレイクする望みは薄いと思ってしまう。

まあ、予算の問題もあるのかもしれないけどねー。演者も裏方も、人生経験の浅い若者だけを使って、手持ち弁当で映画を作るならば。上述したようなビッグバジェットのアクション映画で、熟練の撮影監督と照明職人の力も借りて、メガホンを取って欲しいよ。(上から目線でスミマセン)

▼おまけ:

じゃあ、お前が良いと思うアクション映画って何やねん?と思った読者が出てくるかもしれないので、昨年10月に書いた記事をアンサーとして先に出しておきます

マイベストアクション映画TOP10(2023年10月15日付)

(了)

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