【見えざる手のある風景】あらすじ・感想(三幕構成で読み解く)
結末まで語るので、本編を未見の方にはブラウザバックを推奨します。
まずは、物語を三幕8場構成に分解します。
一幕
1)宇宙人に資本主義を通じて支配された近未来の地球。画家志望のアダムは妹と母と三人で持ち家こそあるが質素に暮らしている。父はカリフォルニアへ出稼ぎに行ったきり長く音信不通である。母は弁護士だったが現在は無職でハローワークに通う。高校では教育システムに宇宙人のテレパシー技術が採用されて、教師たちの失職が進む。そんな折に、アダムは転校生のクロエに一目惚れする。
2)アダムはクロエと失職中の父と兄の三人を自宅の地下室に住まわせる。やがてアダムとクロエは親密になり、宇宙人向けにテレパシー技術を使ったカップル配信で金策を始める。真実の恋愛感情を持っている二人のチャンネルは宇宙人の間で人気になる。
二幕
3)アダムとクロエの収入はどんどん膨らんでキャンペル家とマーシュ家の生活水準は上がる。しかしアダムとクロエが倦怠期に入ると、偽りの恋愛模様を配信していることがバレて、二人は宇宙人から賠償請求されてしまう。状況打開のためにクロエはパートナーを変更して恋愛配信を続ける道を選ぶが、心の整理がつかないアダムは手詰まりになる。
4)ベスは状況打開のために宇宙人と交渉して、地球人マニアの宇宙人と模擬夫婦生活を送ることで請求を取り下げさせる。宇宙人は20世紀らしい古風な家族像をアダム達に押し付けて、アダムの精神は憔悴する。しかしクロエの父はそんなキャンペル家を羨む。
5)ある日の深夜に突然アダムの父が帰ってくる。アダムだけが目覚めて父と話すが、父はベスが宇宙人と眠っているのを見て無言で去る。全ての教育カリキュラムが宇宙人の技術に移管されて、学校が閉鎖される。宇宙人の要求はエスカレートしてベスに古風なエプロンと金髪ウィッグを強要するが、ファストフード店の仕事が決まったベスは宇宙人と喧嘩別れして専業主婦を放棄する。家に残された宇宙人を見て、クロエの父がエプロンとウィッグを着てマーシュ家が模擬夫婦生活を継続する。ベスは無料のベビーシッターがついたと笑って、居間をマーシュ家に譲る。
6)アダムは数ヶ月を費やして、これまでの経験を全てぶつけて校舎に巨大な壁画を描く。それがたまたま散策していた宇宙人の目に留まり、アダムは年間264万ドルで宇宙人の専属アーティストとして契約する。数ヶ月で帰ると言うアダムを、どこかで聞いた言葉だねとナタリーは冷めた目で見る。アダムは小型船に乗り込み、宇宙へ送られる。
三幕
7)不気味な母船の大広間で、宇宙人が学校からそのまま運搬してきた壁画の説明をアダムは求められる。しかし理解しやすくするために宇宙人が自身で「編集」した壁画は、宇宙人にとって都合よく曲解されたポップなイラストで大幅に描き加えられて、当初のメッセージ性を全く台無しにしたもので、アダムは何も言えず、逃げ出してしまう。
8)アダムは契約を破棄する。深夜に地球に帰還したアダムは眠れず、学校に行く。同じく眠れなくて学校に来ていたクロエは壁画が加筆される瞬間を見ていたらしく、宇宙人の行為を批判する。アダムとクロエは仲直りして、残っていた小さめの壁に二人で新作を描き始める。
〜アダムは宇宙人に迎合せず、人間のアートを守ることを選択したのだ〜
FIN
▼解説・感想:
●構成
1-1:The Market (After First Contact)
1-2:The Lodgers
2-3:Still Life with Real Food
2-4:Portrait of "Shirley"/The Worst Month of My Life
2-5:An Unexpected Visitor
2-6:Life under Occupation
3-7:The Mothership
3-8:Landscape with Invisible Hand (work in progress)
アダムの作品を使って各章(場)ごとにタイトルを示すので、構成がわかりやすくなっています。
主要人物の名前がアダム、ベス、クロエと、頭文字がABCになっているのが解りやすい親切設計ですね。
英語字幕と日本語字幕で2回視聴しましたが、日本語翻訳はあまり正確でない箇所や字幕での省略が地味に多い気がしました。
MGM/アマゾン制作なのに、プライムビデオ見放題から消えてしまうんですね。なんだかすごく勿体無い気がします。ブルーレイの発売も無いみたいですし、どういう経緯でこうなったのでしょうか。
●感想
「アートは資本主義に負けないし、他の思想宗教にも負けない」という心強いメッセージ、エイリアン(≒異国人)とは分かり合えそうだと思っても本質的には分かり合えないというアイロニー、YouTubeや TikTokでバズろうと必死なインフルエンサーへの悪意に満ちた揶揄。全ての切れ味が鋭い社会批判になっていました。素晴らしいと思います。私は好きな作品です。
特に巨大壁画をポップカルチャーのアイコン的なアニメの目ん玉で「編集」してしまうところは恐ろしいと感じました。これって典型的なハラスメント加害者の発想ですよね、どんなものでも自分に好都合に解釈してしまう様子って。最近よく問題になるハラスメントもカバーしてるなんて、流石です。
ルンバのような見た目のUFO(上級国民居住区?)のデザインも最高でした。実際にゴミを捨ててるのも、なんとも可笑しいです。
宇宙人のデザインが、色々な理由でキモいです:
・人肌を連想させる色と質感
・胸や尻を想起させる口
・男性器を想起させる触手
・目の中にスマイルマークのような光☺︎
でも、だからこそアートっぽい雰囲気が出て良いと言えます。観客が感情移入できないようにわざと生理的嫌悪感を持ちやすくする目的にも適います。
SF映画らしさで言えば、食事シーンが『2001年宇宙の旅』と引用になってるのも、観てて楽しかったです。決してあんな食生活を送りたくはないなと思いますが。
クライマックス(母船)では、アダムが同調圧力に負けて宇宙人の求める「ヒューマンアート」に迎合してしまうのかな、という100%バッドエンドを一瞬想像してしまいましたが、そこはちゃんと抗って、契約解除して地球に戻ってきて安堵しました。
しかし、宇宙人達はよくアダムをもう一度地球に送り還してくれましたね。そこは契約不履行につき地球まで送る責任は無いって突っぱねてきそうなものですが。(笑)
(了)