冒険の先駆者
秋が来た。まだまだ残暑が厳しく、額からつたう汗がそれを認めてくれないが、そう思い込むことにした。
この秋は、自転車に乗るぞ!
15年ほど前に思い切って購入したロードバイク。先日やっと整備したので、なるべくたくさん乗りたい。
長い距離にもチャレンジできるようになりたい。
まずは3キロ、5キロ……と近所の移動距離を伸ばしているところだ。
「今日は思い切って巣鴨まで行ってみよう」
調べると自宅から巣鴨までは、11キロ。
時刻は15時。ここから出かけたら、到着は夕方になる。
いきなり10キロオーバーは大丈夫なのか? いろいろと不安も渦巻くが、気がつくとヘルメットを被っていた。
買ったばかりのスマホホルダーをハンドルにくくりつけ、いざ出発。
簡易なゴム製のものを選んだから、段差を超えるたびにガタガタ揺れるスマホ。大丈夫……? いや、きっとくっついていてくれるはず! 頼みます。
中山道をメインに走っていくコースのようだ。久しぶりに走る公道脇。車がすぐ横を通る道は、やっぱりちょっとこわい。
ハンドルのスマホで地図を確認する。
あら、大通りの横を沿うようにして「旧中山道」がはしっているんだ。こういう細い道や路地が好みのわたしは、すぐに方向転換。
旧中山道を行く。
ずっと商店街がつづいていて、車はほとんど走っていない。夕方の帰宅ラッシュと重なったせいか、人通りが多い。歩行者にまじり、子どもを後ろに乗せたお父さん(が多かった)がすいすいと人の波をよけて進んでいく。
初めての道を通るときに注目するのは、地元の人の走り方。自信にあふれている。というか、通い慣れているので、その道を信頼しきっている。だから、スムーズに進んでいく。
そういう人の後にくっついていくと、安心して走れる。
わたしが後を追ったママチャリお父さんは、ペダルの回転が早く、ぐんぐんとその距離が開いてしまう。
が、信号があるので、その度に追いつく。後ろに乗っている少年も安心しきっているようで、お父さんの背中に身体を預けてウトウトしている。
「お父さん、やるなあ」
時刻は15時半をまわり、世のお父さんの働きを思う。この時間には仕事を上がり、子どもを迎えに行き、ペダルを漕いで次の予定に向かう(家に帰るかもしれないし、習い事に行くかもしれない。買い物に寄るかもしれない)。
ママチャリお父さんを追いかけつづけていると、気がつけば巣鴨に着いていた。お父さんは途中で華麗なハンドルさばきで横断歩道を渡り、右折していった。
「ありがとう、お父さん……」
巣鴨で目当てにしていた喫茶店は早じまいしていたが、別のカフェに入り、落ち着くことができた。仕事をしながら、地図を見返すと、旧中山道は家の近くまでつづいていることがわかった(往路は途中から大通りに出てしまっていた)。
苦手な勾配も少ないし、車も少ないし、最高じゃん……!
帰りは、旧中山道をずぅっと通って帰ってきた(途中、回転寿司屋に吸い込まれて、補給食とする)。
すっかり自信がつき、「自転車で巣鴨まで行った!」と家族にLINEをする。妹は褒めてくれた。
祖母のやえばあにも、聞いてもらう。
「わたしたちは歩いて行ったことあるのよ。旧中山道を通ってね」
わたしが勇気をもってやることは、だいたい祖父母が先にチャレンジしているのだ。
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