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忘れられない人たち
海沿いの小さな町。髪が多めな旅館の女将さんが、開口一番に言う。「ここに嫁いで来たことで、こんなに髪が増えた」と。海産物がいいんでしょうか、と当時は生返事だったが、今はその理由を知りたくてたまらない。(99文字)
深夜、自転車で帰宅していると、向こうからすごいスピードで平行移動するものが。自転車か? よく見ると一輪車だ。さらに観ると、乗っているのはスーツ姿のお兄さん。ネクタイを乱舞させ一輪車で夜を疾走する気分。(100文字)
家の近くの緑道を抜けたところで突然。少年が小さな玉を高く投げ、空中で10個の玉が輪をつくった。即興のジャグリングを人々は足を止めて見入る。少年は何もなかったように、リュックに玉を詰め自転車で去った。(99文字)
韓国・済州の市街地。車の外を観る。隣に停車したのは古いトラック。片膝をついたおじちゃんがハンドルを握る。大工だろうか? 散らかっているようで、使い勝手のよさそうな小物がびっしり。人の人生を覗き見た瞬間。(100文字)
駅のホーム。仲睦まじいカップル。二人の手には白杖が見えた。「よかったら、改札までご案内してもいいですか?」。男の人がわたしの肩につかまり、女の人は男の人の肩に。電車ごっこみたいだ。強い責任感も乗せて。(100文字)