石巻で仮面をつける
宮城県石巻市。
旧北上川の川沿いを歩く。
石ノ森萬画館が見えた。あいかわらず可愛らしい。
地図を見ると、神社がある。お参りをしていこう。
日も暮れてきて、風が冷たい。さすが東北、きりっと寒い。
途中で、三線の音色が聴こえてきた。
「チャンチャチャンチャ チャンチャチャンチャ チャンチャチャンチャ……」
沖縄民謡だ。しかも早いテンポのやつ。
見ると、川っぺりで青年が三線を奏でている。
「イーヤサッサ!」って言いたくなる音。なんならカチャーシーで踊りたい。
北風と三線。そう、ここは石巻。
***
今回の旅のきっかけをくれたのは、とある縁により出会ったアーティスト・ナガオさん。彼が主催するというアートイベントに参加するために、石巻にやってきた(ナガオさんと愉快な仲間たちとのドライブで)。
イベントの名は「A COLLECTION OF MASKED ART FESTIVAL.」。
“マスクド・アート・フェスティバル”。出展者も観覧者も、その場にいるひとはみんな仮面をかぶる、という。
配られたチラシには、こう書かれていた。
さらに話を聞くと、エントランスでスマホを預けるという。金庫に入れられる。厳重だ。名刺交換も禁止。
匿名であること、気にせずに目の前のことに集中すること(楽しむこと)に、主催側がしかけをたくさん用意している。
会場は「シアターキネマティカ」。かつて布団屋だった場所が、街の文化の発信拠点となっている。演劇や映画を鑑賞したり、カフェでお茶をしたりできる場所だ。
「テレビの取材で、又吉直樹さんが来てサラダうどんを食べてくれたんです」
カフェで働く女性が嬉しそうに教えてくれた。
***
当日は、美味しそうなケータリングがカフェスペースに並んだ。
お皿によって色がまとまっていて、まるで美術作品のようだ。
エントランスで仮面を選び、スマホを預けて、いざ入館。
映画館・劇場コーナーでは、映像が流れている。
作品も飾られている。
2階にも展示スペースが。まるで屋根裏に迷い込んだみたいだ。
それぞれの作品の近くには、QRコードが記されたカードが置かれていて、気になる作品があれば、それを持ち帰り、帰宅後にスマホで調べることができる。
たくさんカードを持って帰ってきた(これから1枚ずつスキャンして観るのが楽しみだ)。
実は、再会も果たした。10年前にお会いしたきりになっていたシマワキさん。彼もこのイベントの主催者の一人だと言う。
かなり前のことなので、いつ会ったのか記憶にない。し、向こうもこちらを覚えているか不明だ。
素面(すめん)で再会したときはドギマギして、きちんと挨拶もできずにいた。
しかしお互いに仮面をかぶると、あら不思議。
「ご無沙汰です」
「いつぶりでしたっけ?」
なんて会話がすいすい進む。
あちらはパンダ、こちらはネコの仮面。
ちゃんと名乗れば、伝わるんだ……。
不思議な会だったけれど、匿名の心地よさなのか、石巻の人たちがいいのか、隣のビールのチカラなのか、ゆったりのんびりと過ごした。
はじまりに身をゆだねることは、やっぱり面白いのだ。