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湯けむりとブックフェア

湯気がたっている。
草津温泉の露天風呂。
その日は気温が低く、湯気が白く際立っている。
風がこちらに向かって吹き、湯気がせまってくる。まるで雲の中にいるみたいだ。
大河ドラマのオープニングさながらの景色。
湯船の向こうに、ひとが歩いているようだが、よく見えない。
真横に吹く風の演出で、ひとびとがものすごく早く移動しているようにも見える……。

***

東京・清澄白河にある「リトルトーキョー」にて開催された『TOKYO あ〜あ BOOK FAIR』。
冒頭は、ここに遊びに来てくれた友人の話である。
わたしは、イベントの出店者としてリトルトーキョーにいた。が、いながらにして湯けむりに包まれ、どこか別の世界に迷い込んだような不思議な感覚になった。

これまで温泉に馴染みのなかったという友人がはじめて露天風呂に挑戦した、という話。近況報告としてなんとなく聞いていたはずのそれが、インスピレーションを刺激し、むくむくと想像を掻き立てるのは、このヘンテコなイベント会場のせいかもしれない……。

このイベントを説明する前に、別の催し物のことを書かなければいけない。
「東京都現代美術館」(清澄白河にある)で行われている『TOKYO ART BOOK FAIR 2023』。毎年多くの来場者数を誇り、独立系出版シーンに大きな影響を与えるというアートイベント……これが正々堂々の【オモテ】であり、A面である。

「TOKYO ART BOOK FAIR(以下、TABF)」は多くの出店希望者があり、公正なる審査制をとっている。その審査に残念ながら通らずに、「出たくても出られなかった」とへそを曲げた者がいた。
「……TABFになんか、最初から出たくなかったもんね!」
というこのへそ曲がりが、インディペンデントの中のインディペンデントな人たちを集めて、TABFの【ウラ】、B面として“本にまつわる闇市”を開いた。
それが『TOKYO あ〜あ BOOK FAIR(以下、TあBF)』だ。TABFへの参加が叶わなかった「あ〜あ」という落胆がイベントのタイトル名になっている。

ずっと「リトルトーキョー」のファンであり、TABFよりも「TあBF」に興味があったわたくし。過去(2019年)にこの場所で同イベントが開催されたこともあり、このたび「あ〜あ」が帰ってきたのだ!

出店者として、著書『プンニャラペン』を含む本と、この日のために作った包装紙などを販売した(幼少期に描いた絵を包装紙にした)。

コンスタントにお客さんがやってきて、ちょこちょこと売れた。なかには、TABFから会場をはしごしてやってきたお客さんもいた(「こっちのほうが“本家”じゃないですかね。好きな人にはたまらないでしょう」なんていう嬉しい言葉もいただいた!)。

スタイリストとして活躍しながら、実家の落花生を元気に売る岡本商店のタカコさん。
お客さんに落花生の殻を縦に割らせて「これはまさに本です」と言い切る。

5000枚(それ以上?)ものオリジナルポートレートをハガキにする。「芋占い」という神のみぞ知る占いを提供する乞食ガールズのふたり。

「過去問題集って泣けないじゃないですか?」という売り文句でおなじみ、『泣ける過去問』ほかを販売するナイスガイ編集部

などなど……あらゆるヘンテコなひとたちが集まって出店をしている。
わたしはその場にいれるだけでたまらない。

『プンニャラペン』を手にとってくれたお客さんに、本の説明をする。
「旅や日常のことを書いたエッセイ集です。……最後の黒いページはスナックのチーママをしていたときの実録集です」
「ここには、癖が強いひとしかいないんですね。……買った!」

***

湯けむりに包まれて、あれは全部夢だったんじゃないかと思う、今日このごろ。



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