シンガポールの華人街
シンガポールのミナミ②
軽やかな街
私の宿がある河岸エリアから、シンガポールの御堂筋とも言えるサウスブリッジロードを南に下っていくと、高層ビル群が現れる。
あくまで大阪に例えるなら、そこはシンガポールの心斎橋だ。
高層ビル群ではビジネスマンたちが忙しなく歩いている…と思いきや、比較的穏やかに談笑する姿をよく見る。
シンガポールの人々の気質を表しているようだ。
シンガポールはとにかく感じの良い国である。
時折訪れる雨も軽やかで、雲も明るく、さーっと降る。
人も軽やかで、コンビニひとつとっても、気さくに対応してくれる。
日本に比べてコミュニケーションに対して気構えることがないのだろうか。
ここにずっといれば、自分に根付いている閉鎖的な気質も矯正されるのではないか、と変な期待をしてしまうような空気が流れている。
華人街の東西
さらに南へ行けば、華人街、チャイナタウンがある。
華人街のメインストリートはやはりサウスブリッジロードだが、途中で、マクスウェルロードとタンジョン・パガルロードが別れ、三又の形になる。
華人街はサウスブリッジロードの東と西で雰囲気がかなり違う。
サウスブリッジロードの西側一帯にはモスク、ヒンドゥー寺院、中国式の仏教寺院が並び、その周りは観光客と現地人でごった返す繁華街となっている。
一方東側は北と南で様子が違う。
北側にはアンピンヶ丘という小高い丘がある。古くから商人が家屋を構えていたらしく、比較的閑静だ。店はあるものの、おしゃれに飲んだり食べたりするような場所が多い。
南側にはイスラームの聖者廟、道教寺院、モスクが並ぶテロッ・アイエル通りに外国人向けのレストランが並んでいる。
ショップハウスとカキ・リム
どちらにしても共通して言えるのは、カラフルなショップハウスが並んでいるということだ。
ショップハウスというと面白みに欠けるが、19世紀末に建てられた華人の商店建築のことだ。
一階が商店、二階が居住スペースになっている。
日本でもこのような形態は珍しくないだろうが、ショップハウスをショップハウスたらしめているのは、「カキ・リム」の存在だ。
「カキ・リム」は平たく言えば、一種のアーケードである。
ショップハウスは二階部分が一階よりも前に張り出しており、柱で支えられている。
すると、一階の軒先に日や雨を避けられるスペースができる。
この「カキ・リム」に商品を陳列できる。
また、「カキ・リム」は多くの場合、隣のショップハウスの「カキ・リム」と繋がっているので、まるでアーケードのように、通り抜けが可能になっている。
おかげで、急な豪雨でも、華人街にいる限り、雨から身を守れる。
もちろん、日差しよけにもありがたい。
この「カキ・リム」は中国大陸では「騎楼」、台湾では「亭仔脚」として知られるのだが…
これに関してはもう少し調べてからまた書こうと思っている。
さて、話を元に戻そう。
東西になんとなく別れている華人街でも、私は主に西側を歩くことが多かった。
中でもお気に入りだったのが、仏教寺院の真裏にある「牛車水大厦(チャイナタウン・コンプレックス」である。
牛車水大厦 Chinatown Complex
「牛車水」というのは、チャイナタウンの通称で親しまれる華人街の正式名称である。
「大厦」は、香港ではマンションと訳されるが、こちらではコンプレックス(複合施設)である。
内実としてはコンプレックスの方が良い。
ここは、平たく言えば、かなり年季の入った市場だ。
このような施設はこの華人街で他にもいくつかあるが、規模、活気ともにここを超えるものはない。
一階には、衣服に、怪しげなお守り、骨董の類までが並び、二階はホーカーセンターが広がる。
ホーカーセンター
ホーカーセンターとは何か。
つまらない言い方をしてしまうと、フードコートである。
だかただのフードコートではない。
ずらりと並ぶのはちょっと値段が高く設定されたチェーン店の類ではない。
かつて華人街で活躍していた、無許可の屋台ども(ホーカー)がここに集結しているのだ。
ちょうど、広島にある「お好み村」という施設に似ている。
あそこもまた、元は屋台をやっていたお好み焼き屋が集まってできたものだから。
シンガポール滞在中、私は牛車水に限らず、ホーカーセンターに通い詰めた。
その話はまた次回。