『古井戸から落ちたロバ』最終章
「もしもし。わたくし東京MXテレビの『五時に夢中!』を制作しております。○○と申します。番組のコーナーで【装丁じゃんけん】というものがあり、2つ出版社が本の装丁について語っていただき、どちらのプレゼンが良かったのかを競ってもらうという内容なのですが、ご出演いただけますでしょうか?」
東京MXテレビ?? 五時に夢中??? 装丁じゃんけん???
いきなり電話でのTV出演依頼に驚きながらも、装丁をプレゼンするという企画の面白さと、本を紹介できるチャンス到来!と、二つ返事でOK!!
もちろんプレゼンする本は、『古井戸に落ちたロバ』しかない!
撮影当日、「人生初のテレビ出演…いくらローカル放送と言えどカメラを向けられると、どこに目を向けていいのやら…。」で、終始緊張しっぱなし…。
しかし、″この大切な絵本をしっかりと自分の言葉で伝えたい。”その思いを込めて丁寧に装丁の説明をした。
いま思い出そうとしても、緊張感からかほとんど覚えておらず、撮影終了後にスタッフの方から、「とっても良いお話しですね。」という言葉がとても嬉しかったことと、話し終えた満足感が記憶の片隅に残っているだけ。
放送当日を迎え、私の中では、TV放送といっても関東県内ほぼ東京だけのローカル番組、しかも、夕方の5時からの情報番組ということで、自分自身、放送を見たこともなく、おそらく放送されたとしてもほとんど話題になるよなこともないだろう…、と、正直、放送後の反響などあまり期待をしていなかった。
その日の夜、8時ごろ仕事を終えて帰る直前に、「とっくに放送も終わってし、もしかしたらアマゾンで少しは動きがあるかも~。ちょっとは順位があがっているといいなぁ~。」と、会社のパソコンからアマゾンのランキングを確認すると、、、
どっーーーん!! 絵本ランキング1位!!!!
えっーーーーー!!!マジっーーーーー!!!!!うそーーーーんっ!!!
いや!何度見ても【アマゾン絵本ランキング1位】とある!!!
な、なにが起こったの??? ど、どうゆうこと???
『五時に夢中!!』で何事か起こったのか???
と、、、とにかく帰って放送を見なきゃ!!!!急に全国放送とかになったのか??いや、そんなことあるわけないかっーーーー!!うほっーーー!!
急いで家に帰り、テレビの前に正座し再生ボタンをポチリ。
ドキドキしながら【装丁じゃんけん】を見る。
画面に映る【装丁じゃんけん】で話す自分の姿に恥ずかしさで死にそうになりながら、見事に編集されていることに驚き!
プレゼン対決のVTRが終わり、いざ、判定!!
番組のメイン・コメンテーターの岩井志麻子先生と中瀬ゆかりさん、お二人ともに『古井戸に落ちたロバ』に札を上げてくださり、見事勝利!!(やったー!)
そしてなにより、岩井志麻子先生のコメントでは、
「シンプルなお話なのにとても深い!どんな長編小説を読むより、深く考えさせられる。もう、ね。インディアンの人たちに驚嘆させられました。それに、このロバちゃんのかわいらしさも素敵!」
さすが超一流作家の岩井志麻子先生!
インディアンのティーチングストーリーの神髄を見事に表現されている!!
心の底からこの絵本を賞賛していただいたことで、視聴者の方が「この絵本を読んでみたい!」という思いに駆られ、すぐにアマゾンで購入をされたのは間違いない!!
後に、番組ディレクターさんから聞いた話によると、あの時間帯での視聴率は民放で一番高く、放送のない地域でもYOUTUBEなどでかなりの人たちが番組を楽しみに見られているそうで、その界隈では、「けっこう影響力のある番組なんですよ。」と教えていただいた。(その界隈とは、夜の客商売をされている方たちだそうです)
せっかくアマゾンで絵本ランキング1位になったので、「これを生かさない手はない!」さらに、岩井志麻子先生の素晴らしい感想もぜひ、「多くに人たちにシャアしたい!」そう思った私は、まず番組ディレクターさんに電話をして、岩井先生の感想を宣伝POPで使わせていただいてもよいかの確認とその後、岩井先生から即快諾をいただき、アマゾン絵本ランキング1位の書店用POPを作った。
そして、全国の書店さんに宣伝をつけたFAXを流すと、5冊、10冊、、、平積み分の注文FAXがどんどん返ってくる!
まさに、奇跡が起きた瞬間!!
取次からはダメだしされ、書店に営業へ行っても見向きもされなかった絵本が…、東日本大震災の影響で、発売から動くことすらできなかったこの絵本が…、1年近くの歳月をかけて、ようやく、日の目を見ることができた。
書店に平積みされたからといって、必ず売れるわけではないのが出版界の常識ではある。が、私には最初から確信があった。
その確信は揺らぐことなく、書店さんから注文が入った瞬間から、POPを立てた平積みから読者が手に取り売ていくイメージが、はっきりとあった。
そして、それは書店さんからの追加注文というカタチで現実となった。
また、読者カードもたくさん返ってくるようになり、読者と絵本、出版社をつなぐ素晴らしい声が届くようになった。
まさに自分自身が‟古井戸から這い上がってきたロバ”だった。
真っ暗な穴から出てきた目の前の景色は、
朝日が大地を照らす、眩しく輝く広大な‟希望という名の地平線”だった。
売れなければ、「出版社を辞める」そう決意して作った絵本。
思い返すと人生で、そこまでの覚悟を決めてやってきたことなんて、ひとつもなかった。自信なんて何一つなかった。ただ怖かった。この先このままでいることが怖かった。本心では知っていた。自分自身を生きることから逃げていては、ダメになる。いや、逃げ続けることなんてできないことを。
そんな人生を送るくらいなら、いっそのこと自分で壊してしまったほうがいい。そんな気持ちのほうが強かったかもしれない。
壊したところから、本当の自分になれる気がした。壊さなければ、ならないものがあり、それを自分の手で壊すのか、それとも、もっと深刻な事態に陥りることで、死ぬほどの後悔をしてそのことに気がつくか。その違いに気がついたとき、自分にはできる気がした。自分を壊すことができるなら、この先なんでもできる。何も怖いことなんてないじゃないか。
壊したところから生まれてくるものこそ、本当の自分であり、それは絶対に壊れることなく、根拠も何もないゼロから生まれ出る自信であること。
仕事において、これからも続く人生において、また穴に落ちることがあるかもしれない。
しかし、自分を信じて覚悟を決める。
それは人生の醍醐味の一つであり、生まれてくる意味を味わうことであり、私という存在=編集者としての生きざまである。
そういう自分を壊し続ける覚悟を持って、生きている限りこの先も本を作り続ける。
人生という地平線は、どこまでも続いている。