祖母が目指した緑色
2016年の秋、母方の祖母が亡くなった。
亡くなる直前、ちょうど仕事で気仙沼市へ出張していたので、上司に事情を伝え、ゆらゆらと1人だけのバスに乗り込み、岩手県にある病院へ向かった。
先に来ていた親戚に話を伺うと、意識が朦朧としていて、お見舞いに来た古い友人や親戚が声をかけても誰だか分からず怪訝そうな表情を繰り返していたそうだ。
そんな状態の祖母なのに、私の母(祖母から見れば実の娘)を見た瞬間、涙を流して微笑んだ。
どんなに意識が朦朧としていても実の娘はわかることに私は家族と尊さを目の当たりにした。
最期に会えて本当に良かった。
その数ヶ月後、祖母は亡くなった。
お正月に実家に帰省すると、母親から祖母が使っていた色鉛筆をもらった。
綺麗なちりめん柄のペンケースには、たくさんの緑色の色鉛筆が入っていた。
…思い出した。
私がまだ大学生の頃、祖母がデイサービスで「塗り絵」に夢中になっていて、花が好きな祖母はよく花を描いて見せてくれた。
親戚から花を描くときにいつも
「この色鉛筆じゃ、この花の茎の緑色がどうしても出ない。」と嘆いていたことを聞いた。
兄が御茶ノ水の画材屋で選りすぐりの緑色の色鉛筆を数本買って、祖母にプレゼントしたのだ。
後日、親戚から電話があり、祖母はとても喜んでくれたそうだ。
冬深まるお正月、一瞬だけ秋を取り戻したような陽気の暖冬の一日。大掃除をしていたらあのペンケースを見つけた。
祖母は、どんな緑色を描きたかったのだろう。
きっと、祖母が目指した緑色は、使い込まれた色鉛筆の背丈だけが知っている。
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