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文学賞の授賞式に行った記録(鮎川哲也賞&創元ミステリ短編賞&創元ホラー)

今年(2024年)1月に、創元ホラー長編賞という小説の新人賞を受賞しました。
ありがたいことに出版社主催の授賞式を開いていただけることになり、大勢の関係者の前でスピーチをしたり、名だたる作家の方々にお会いしたり、作品を口々に褒めてもらったりというハッピーな経験をしてまいりました。

おそらく文学賞の授賞式に登壇する人間は年に数十人(?)しかいないでしょうから、レアな体験をした者として記録を残しておきたいと思います。

というわけでここからは、
・これから文学賞の授賞式に登壇するから、事前に雰囲気を知っておきたい
・全然関係ないけど単純に興味がある
などの方へ向けての、どんな感じだったかレポートです。

ゆるめに書くのでn=1の体験談としてご理解ください。

ちなみに、各方面に気を遣って書くつもりですが、場合によっては予告なく内容を修正したり消したりすると思います。あらかじめご了承ください。


①当日まで

・だいたいの場合、受賞の発表⇒刊行作業(改稿とかゲラとか)⇒書籍発売⇒授賞式という流れを経ることになると思います。

・僕の場合は、受賞した賞が1回きりの賞だったので、授賞式は毎年行われているミステリー2賞の授賞式にくっつけて開催してもらう運びになりました。そのため刊行から少し時間をおいての授賞式になり、かなり早い段階から授賞式の話を編集者さんに聞かされて準備を進めていました。

・とはいえ、当日までに準備することはそんなになく、せいぜい
1.名刺を作る
2.招待者を決める
3.スピーチの練習をする
くらいでしょうか。

1.名刺を作る
「当日は出版各社や書店の方々とやたらめったら名刺交換をすることになるため、筆名の名刺を作ってこい」と編集者さんに言われてましたので、専門業者に発注して作成しました。載せたのは名前とメールアドレス、SNSアカウント名ぐらい。枚数は100~200は作っといた方がいいと思います。
どうせなら、とガッツリ課金して活版印刷デザインの凝ったものにしたのですが、蓋を開けてみるとキャリアの長い作家さん方はもっとシンプルな名刺を使われていてちょっと恥ずかしくなりました。凝り過ぎないデザインにした方が無難だったなと後悔。

2.招待者を決める
家族を呼んでも良いということだったので、両親と姉、妻を招待してもらいました。ド平日の開催なので休みの調整、および地方から呼ぶために宿の確保なども必要だったので、早めに決めた方がいいです。

3.スピーチの練習
一番大変だったのがこれ。幸い、東京創元社の授賞式についてはYouTubeに過去のスピーチ動画が上がっていたので、過去問を参考に傾向と対策を練り、内容を考えました。
当日はめちゃくちゃ緊張してスピーチの内容が飛んでしまうかも、と思い、鏡の前で何度も何度も練習して、ほぼ自動的に話せるまで練習しました。これはやっておいてよかったです。

・というあたりが準備段階でした。あとは登壇用に着るものがなければ要調達というくらいでしょうか。僕は冠婚葬祭用のスーツで行きましたが、女性は結構トーンを決めるのが難しいかも。選考委員を務めた先生方はTシャツにジャケットやアロハシャツのようなラフな格好が多くて、それはそれで肩に力の入ってない感じがして素敵でした。

②当日の流れ

■本番90分前

・開催場所のホテルに行くと、担当編集者さんがお出迎えしてくれました。入り口にはこんな看板が。

・控室には既に到着されている選考委員の方もいらっしゃって、挨拶しつつ雑談しながら全員がそろうのを待つ流れに。

・ミステリー2賞の選考委員の方々では、大倉崇裕さん、青崎有吾さん、辻堂ゆめさんとお話させていただきました。かなり緊張してドタバタしてしまったので、失礼なことを言っていないか非常に不安です。

・そして受賞した創元ホラー長編賞の選考委員、東雅夫さんともここでようやく初対面。複数のメディアに書評を寄せてくださったお礼もようやく言えました。もう一方の澤村伊智さんは残念ながらこの日はご欠席でした。どこかでご挨拶できると良いのですが……。

・この時間はとにかく人の出入りが多く、あまり腰を落ち着けてどなたかとお話しする、という感じではありませんでした。が、反省としてはやはり有名な作家さんを前にすると「わっ!本物だ!」と思って緊張してしまい、とっさに聞きたかったことが思い出せなかったりするため、事前に「この人にはこの作品のこと聞いてみたいな」など考えておけばよかったと思います。

・そうこうしているうちにリハーサルの時間に。

■本番60分前

・本番の会場は、体育館ほどの広さのホール。結婚式なら一番規模の大きい、一族郎党から会社の上司まで全員呼ぶタイプの式が行われる部屋です。

・壁沿いには料理をその場で作ってくれるブースが並び、「うな重」「寿司」「しゃぶしゃぶ」などゴキゲンな言葉が並んでいました。寿司はその場で職人が握ってくれる豪勢さ!

・リハーサルでは、スピーチ関連はカットして立ち位置と流れだけを確認。司会を務める東京創元社の某社員さんが「どうせ私がトチるので気楽にやってください」と和ませてくれました。実際にちょくちょく噛んでました。

・このあたりから緊張が鰻登りに。

■本番

・その後また控室で少し待機し、雑談したり、緊張のあまりトイレとの往復をしたりなどしている間に本番の時間が。

・会場に再び入場すると、推定200人ほどの参列者で場内の様子はすっかり様変わりしておりました。えっ、こんなに人いる前でスピーチすんの!?と戦々恐々としながら、待機場所へ。

・授賞式は「鮎川賞」⇒「ミステリ短編賞」⇒「ホラー長編賞」の順番で行われました。あろうことか最後。式の最中、緊張がずっと続く。

・選考委員による講評、社長から賞状の授与、選考委員から記念品の授与、そして受賞者のスピーチ、という流れが3回繰り返されました。鮎川賞の山口さんも、短編賞の歳内さんも素敵なスピーチをされて、200人から惜しみない拍手が送られるのを横目に、自分は「やばい、用意してきたスピーチとちょっと毛色が違う!」と気付いてお腹がキリキリと痛くなっていました。

・いよいよ名前を呼ばれて登壇。賞状と記念品の懐中時計を受け取り、スピーチへ。もうこのときは緊張がピークで頭が真っ白になっていたので、話しているときにどこを見ていたのかなどは全く記憶にありません。自動運転モードで話せるくらいに練習しておいてよかった。

・一音も落とさず喋れるように練習していたのですが、本番は三回くらい甘噛みをした気がします。劇団四季なら即、稽古場送り。

・あとは会場の雰囲気などを見てアドリブなど入れようか、など小癪なことを当初は思っていたのですが、結果そんなことをしなくて良かったです。用意したことをしっかりやるのが一番。

・こうしてスピーチを無事乗り切ったのですが、よく考えるとああいう場って聞く側はそんな真剣に聞いてなかったりするんですよね。卒業式の卒業生代表スピーチとか、結婚式のあいさつとか。だからもうちょっと気楽にやって、壇上からの景色を楽しむくらいの余裕が持てればよかったなーなどと後悔もありつつ。まあきっとこんな機会はもうないでしょう。

■あいさつ回り

・式が終わると、ご歓談タイムに突入。新人作家にとってはここからが実質本番で、会場に来ている出版関係者にひたすら顔と名前を売る時間になります。

・「あいさつ回り」と聞いていたので、会場内をグルグル回りながら名刺を配り歩くことを想像していたのですが、実際は異なりました。新人作家組が会場前方に陣取って、ご来席の皆様の方からこちらに出向いてくださるアイドルの握手会スタイルでした。

・僕は特別開催のホラー賞ということもあり、割とボーっとできる時間もあったのですが、鮎川賞の山口さんは常に7~8人の方が列を作っている状況で傍目にも大変そうでした。とはいえ僕の方にもかなりの人数の方がいらしてくださり、お待たせしてしまう時間もあり恐縮&恐縮…。わざわざお時間を割いてくださった皆様ありがとうございました。

・そんな具合なので、高砂の新郎新婦よろしく受賞者組はうな重や寿司やしゃぶしゃぶを賞味することはできず。会場にはフォアグラ丼なる罪深い食べ物もあったようなので、これはぜひ味わっておきたかった。

・また、これはマジの反省なのですが、スピーチの緊張で口内の唾液という唾液が枯れ切ってしまった結果、たぶん僕の口からはジジイの匂いがしていたと思います。自覚してちょくちょく水を飲んでごまかしていたんですが、「うわっジジイの匂いすんな」と思った方すみません。ブレスケアとか、かむかむレモンとかをポケットに忍ばせて持っていけばよかった。

・ここでお会いした方々との思い出話は、↓の方でまとめてします。

■21:00~ 二次会

・その後は近場の飲食店に移動し二次会となりました。文学賞の授賞式というと下村敦史さんの『ヴィクトリアン・ホテル』を最近読んだせいで、ホテルの高級シガーバーに連れていかれて朝まで大御所作家に説教される、みたいなイメージを抱いていたんですが、普通の居酒屋で作家も編集者も入り乱れて気楽に話す会でした。

・この場では麻耶雄嵩さん、東川篤哉さんの鮎川賞選考委員のお二人と、短編賞受賞者の歳内さんと同席させていただきまして、本にまつわったりまつわらなかったりする緩い雑談で楽しい時を過ごさせていただきました。今思うと鮎川賞選考委員のお二人は鮎川賞受賞者の山口さんとも話したかっただろうに私が正面に居座ってしまってすみませんでした……。

・周りを見ていると、話したい人を次々と捕まえてテーブルをホッピングするという大勢の飲み会で大活躍するレアスキルを有している人もいて「ああいう立ち回り、一生身に着かないよね」という話をするなどしました。あれ、どこで習うの?

■23:00~ 三次会

・二次会もあっという間に解散の時間になってしまい、最後に受賞者3人で「我々、全然メシ食えてないですよね」という話になり、担当編集者さんを加えた4人でうどんでも食べましょうという流れに。

・しかし開催地付近の飲食店がこの時間のきなみ閉店しており、結果さまよった挙句チェーン居酒屋におさまる形になってしまいました。

・東京、コロナ禍以降、全体的に飲食店の営業時間が短縮されたままな気がする。みんな「早く帰って寝た方がいい」という事実に気付いてしまったのかもしれない。

③当日話した方々の記憶

そんな流れで激動の一日を終えたのですが、最後にお会いした方々との思い出を振り返っておければと思います。かなり多くの方と言葉を交わしたため、とりあえずこの場ではホラー関係に絞って。

■東雅夫さん
選考委員として、拙作を受賞作に選んでくださった大恩人の東さん。大学の先輩ということもありお会いしたかったのですが、刊行から2か月経ちようやく顔を合わせてご挨拶ができました。
かわいいオオサンショウウオの付いたカバンを持ってらしたので「オオサンショウウオとか、すみっコぐらしのとかげちゃんとかお好きですよね。よくTwitterで写真を上げてるのを拝見してます。僕はアランジアロンゾのとかげが好きなんですが…」などと話したところ「アランジアロンゾのとかげちゃんも、もちろんカバーしてますよ」とおっしゃっていました。広げよう、とかげの輪。

アランジアロンゾのとかげ

■井上雅彦さん
あいさつ回りタイムに、「なんかすごいオーラの人が来た!」と思ったら『異形コレクション』などでお馴染みの井上雅彦さんでした。長身、長髪、ヒゲ、彫の深い顔立ちで「ヴァンパイアっぽいな」と思っていたら頂戴した名刺にも「不死者」と書いてあったのでマジモンだったかもしれません。あとで複数の編集者さんにその話をしたら皆「井上さんってめちゃくちゃビジュが強い」という話をしてました。ビジュが強い。

■織守きょうやさん

↑このイベントに客として参加した時などに一方的にお顔は拝見していたのですが、この度ようやくお会いできました。澤村伊智さんや岩城裕明さんも参加されている『ひとひら怪談』を1部プレゼントしてくださるというサプライズも!ありがたすぎる!
Twitterでいつも素敵なおやつをアップされてる印象もあるので、ぜひ甘いもの開拓に同席させていただきたいです。

■芦花公園さん
担当編集者さんが「この手のイベントには来ない方なので、招待状が『出席』に丸がついて戻ってきてびっくりした。おそらく出席と欠席を間違えたのではないか」と言っていたので、「芦花公園です」と言われたときは隣の編集者さんともども「ゑ!?」となりました。人間でした。

皮を剥がれました。

■朝宮運河さん
ひるおびに出てらしたときも思いましたが、シュッとしていて大勢の中でも目を引く存在感を放ってらっしゃいました。
「家族の帰宅にヒヤヒヤするYouTube動画の緊張感が好きです」「ワニのラインスタンプ出してください」などいろいろ好き勝手お伝えしてしまったところ……

YouTubeには動きがあるかも!? 楽しみにしてます!

■芦沢央さん
めちゃ好きなのでお会いできたのが嬉しすぎて「『悪いものが、来ませんように』でドハマりして既刊はほぼ全部読んでます!!『火のないところに煙は』大好きです!!」などと早口オタクになってしまいました。芦沢さんは「なんだこいつ、口からジジイの匂いするな」と思ったことでしょう。
「『獏の耳たぶ』だけ序盤のある描写がしんどすぎて続きを読めていない」と話したところ「そのあともっとしんどくなります」とおっしゃっていたので、もう読めないかもしれません。あとでTwitterを見て知ったのですが、

『火のないところに煙は』に続編が………??

■余談
もう少しいろいろ書きたいのですが5,000字を超えてしまったので終わりにします。
最後に余談を。この会にはオモコロ編集長の原宿さんも参加予定だったのですが、土壇場で仕事が立て込んでしまい残念ながらキャンセルになってしまいました。
……というニュースを聞いて、作家、編集者、関係者などで残念がってる人が恐ろしいほど大勢いて、オモコロの存在感の大きさにびっくり。さすがananの表紙を飾った男は違う……。

(そう言えば青崎さんもオモコロがお好きでしたね……)


お読みいただきありがとうございました。

上條

※受賞作『深淵のテレパス』発売中です!よろしくお願いします!

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