スクリーンショット_2019-12-29_22

「長くつ下のピッピ」の作者アストリッド・リンドグレーンの自伝的映画:人生を通じて貫きたいものは何ですか?【ネタバレ注意】

「リンドグレーン」(原題Becoming Astrid)を観てきました。「長くつ下のピッピ」などで知られるスウェーデンの女性児童作家アストリッド・リンドグレーンの事実を基にした作品です。ただし、この映画では彼女がいかにして児童作家になったかについてはほとんど触れられません。むしろ、既婚者との間に子供ができたことをきっかけに次々と襲いかかる苦難に対して、アストリッドが強い信念をもって対峙していく物語です。偏見や困難を乗り越えるアストリッドが格好良く、また主演したアルバ・オーガストの感情こもった演技も見所です。


簡単なあらすじ

スウェーデンの自然豊かな郊外で生まれた女の子アストリッド。敬虔なキリスト教徒ばかりのその町では、両親・兄弟揃って日曜日のミサに行くのが習わしですが、自由奔放なアストリッドは牧師の説教にも聖書にも全く興味が湧きません。ダンスパーティーから帰宅した際には、弟の門限が自分よりも長いことを咎められると、神の前では人は皆平等だと習ったとわざと嫌いな教会の説教を持ち出して母親に反抗します。アストリッドの母親は、娘のアストリッドを深く愛してはいますが、アストリッドには母親の男尊女卑・男女性別役割分担といった保守的な価値観が受け入れられないのでした。そんなある日、作文が得意だという理由でアストリッドに新聞社でのお手伝いの仕事の誘いが舞い込みます。面接で「新聞とは何か?」と訊かれ、「光」「自由」「希望」だと答えるアストリッド。新しい汽車開通を取材した彼女の記事は、才能溢れる素晴らしいものでした。アストリッドも、タイプライターを使って白紙の紙に何かを記すことに、生まれて初めての自由と何かを創造する喜びを強く感じていたのでした。そんなアストリッドでしたが、年の離れた離婚協議中の新聞社の編集長ブロンベルクと恋仲になり、子供を身ごもってしまいます。保守的なこの町では既婚者との子供の出産は世間体が悪く、そこから、アストリッドの苦難の日々が始まり・・・

抑圧された人間が創造性を取り戻す

この映画で一番記憶に残っているシーンは、アストリッドが白紙の紙をタイプライターに差し込んで嬉しそうに文字を打ち込む場面です。慣れないキーボードからゆっくりと文字を探すアストリッド、強くキーを押し込むとボンボンボンと大きな音を立てるタイプライター、そして写った文章を見て喜ぶアストリッド・・・。このタイプライターが映画上の小道具として視聴覚的に非常に有効に機能していることもあり、保守的な価値観や抑圧的な小さなコミュニティから解放されて自身の豊かな才能を発揮できる喜びが伝わってくるのでした。

母親になれなかったアストリッドが母親になる方法

里親に預かってもらったアストリッドの子供ラッセ。一度母親になることを諦めたアストリッドでしたが、里親が病気を患い面倒を見切れなくなったことで、再びアストリッドが母親になる決意をします。ところが、3歳になったラッセは引き取りにきたアストリッドを“ママ”だと認めてくれません。いつまで経っても里親を“ママ”だと言うラッセに苦しむアストリッドですが、ラッセに愛情を注ぎ続けます。そしてある日病気になったラッセがアストリッドと一緒のベットで寝てよいか尋ねるのです。アストリッドは隣に来たラッセに物語を聞かせ・・・。これがもう一つ記憶に残っているシーンでした。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?