おカネは大事。されど……
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映画「マネーボール」(主演 ブラット・ピット)
野球は以前から埼玉西武ライオンズのファンである。ライオンズは数年前まで山賊打線と呼ばれる豪打でリーグ優勝を重ねるなどかなり強かったのだが、このところは主力選手の移籍が毎年のように相次ぎ、さっぱりである。
特に今年は、5月に四番打者・山川穂高の不祥事(知人女性への強制性交嫌疑)が発覚すると、それまで予想以上に健闘していたにもかかわらず、どんどん成績を落としていった。プロといえども、野球はチームでするスポーツなのだなと改めて思った次第である。
さて、その山川穂高は先日、FA権を行使してかねて噂されていた福岡ソフトバンクホークスに高額年俸で移籍すると発表された。山川に関しては嫌疑発覚後も好意的に──ハニートラップではないかと──見てきただけに、彼のこの選択はとても残念であった。
「FA権はプロ野球選手として本人が獲得した権利だから、それを行使するのは仕方ないのさ」
と、球界通の知人は言う。
「だけどさァ、その辺りの感覚が一般社会とかけ離れているんじゃないのか。権利というのは、責任や義務と表裏一体なんだぞ。少なくとも一般社会ではさ」
と私。
「いや、その責任と義務を果たした証としてFA権が与えられるのだから、取得条件を満たした時点で既にそれらは果してるんだよ」
だとしても──。今シーズンの彼は四番としての責任はおろか、不祥事が元で試合に出ることすらできず選手としての義務も果たせなかった。そればかりか、チームの成績や観客動員、関連グッズやイベントの売上等チームに多大な迷惑をかけたのである。
彼が起こしたとされる事件の真偽は分からない。だが、妻帯者でありながらそこに居たのは事実だし、それによりチームに大きな迷惑をかけたことは否定のしようがない。さらにその間、彼はライオンズの施設を使わせてもらって選手としてのコンディションを維持してきた。その恩義もあるはずだ。
FA権が認められたからと言って、それらがすべてチャラにはならないと思う。少なくとも一般社会では。たとえば、勤続年数を満たし昇格試験にも受かっているからと言って、昇格のタイミングで不祥事を起こし、会社に実害を与えた社員をそのまま昇格させる会社がどこにあるだろう。
普通なら当人は減給も甘受したうえで、粛々と仕事をして名誉挽回の機会をうかがうしかない。たとえ、好条件の転職口があったとしても、まずは迷惑をかけた会社に誠意をもってお返しする。それが一般社会における人の道というものだ。山川も来年1年はライオンズに残って、それを果たすべきだったのだ。
もちろん、来年満足のいく成績を残せるかは分からない。だから、少しでも条件の良い方に行きたくなる気持ちも分からないではない。しかし、それではジコチューと言われても仕方ないではないか。
この度の彼の決断は結果として実際にそうしたわけで、そういうジコチューな思考回路を持つ男だとすると、件(くだん)の不祥事も被害女性の言い分に真実味が出て来てしまう。
俯瞰してみると、球界ではこの手の不祥事は毎年のように(大小様々あれど)起こっており、それはこれまで縷々述べてきた一般社会の感覚との乖離──問題を起こしてもチャラにされる風土にすべてが起因しているように思うのである。
さて、「そうだ、そうだ」と少しでも思ってくれたあなた。そんなあなたに是非オススメしたい映画が本作である。ラストに主人公が下した判断に山川との違いを見て欲しい。
画像引用元 人生・嵐も晴れもあり!