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彼の毎日の背景を想像する

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映画「PERFECT DAYS」(監督 ヴィム・ヴェンダース 主演 役所広司)

朝起きる。鉢植えの植物に水をやる。部屋のドアを開けて空を見上げる。自販機で缶コーヒーを買い、クルマに乗って仕事場に向かう。車中、カセットテープで70年代の洋楽を聞く。

仕事は都内各所の公衆便所の掃除だ。見えにくい箇所の汚れまできっちり落とす。昼は神社のベンチに腰掛けコンビニのサンドイッチを頬張りながら、境内に茂る大樹の写真をフィルムで撮る。日が傾く前に仕事を終え、銭湯の一番風呂に入る。大衆酒場で一杯飲んだら家路に着く。寝しなに読みかけの文庫本を読んで一日を終える。

そんな主人公・平山の毎日を淡々と描く。何も起きない。誰も殺されないし、誰も死なない。だから悲嘆にくれる者はいない。人生に懊悩する者もいない。

こうした「何も起きない」系の映画としては、「パターソン」(2016年)や「ともしび」(2017年)を思い出す。これらに共通するのは主人公らの日常の背景にあるものについて何の説明もないということだ。だから、観る者が想像するしかない。

まず、平山はいくつくらいだろうか? 姪ニコの年格好から察するに──彼女は彼の妹の娘だから──たぶん五〇前後か。妹はお抱え運転手がいるくらいだから裕福なのだろう。彼女との会話から、平山は実家と折り合いが悪く、疎遠になっていることが分かる。その原因は実父との確執にあるようだ。安アパートに住み、公衆便所の清掃員をしているのも、その辺りに理由があるのかもしれない。

例えばこんなのはどうだろう。実家は阿漕(あこぎ)な商売をして庶民からカネを巻き上げ、資産を築いた。平山はそれを正そうとして、逆に父親から勘当された。公衆便所の掃除は、庶民へのせめてもの贖罪──、なんてね。

だが、彼は決して悲壮ではない。むしろ、晴れがましい毎日で、私なんかより幸せそうに見える。

観終わった直後は正直、この映画のどこが良いのか、さっぱりわからなかった。だが、時間が経つにつれて、じわじわとくるこの感じ。たしかに好い映画だ。


PS: 渋谷・宮下公園の有名なトイレ──中に人がいると外から見えず、中に誰もいないと外から見える──が、この映画のなにかを暗喩しているようにも思うのだが、それがなにかは分からなかった。考え過ぎかな?

画像引用元 ひとシネマ

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