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女のコはやっぱり笑顔だよね!

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映画「メランコリック」(監督 田中征爾)


これは久しぶりに面白いと思える映画だった。サスペンスコメディという触れ込みだが、ファニーという感じの「面白い」ではなく、観ていてコメディという印象はまったく受けなかった。殺人は起きるが、ドロドロしたサスペンスではないし、スカッとするアクション系でもない。はたまた感動したり、深く考えさせられるようなヒューマンドラマでもない。そうした既成のジャンルには収まらないのだ。

何と言っても、物語の設定にオリジナリティを感じる。舞台は銭湯。そこでは人知れずヤクザ絡みの殺人が繰り返される。あまりに荒唐無稽でリアリティがないとの指摘もあるだろう。しかし、殺した後の始末をつけやすい──殺すときに出る血は洗い流して、遺体はボイラーに放り込む──という設定は一定の説得力があるように感じられた。

人物設定も秀逸だ。まず主人公の鍋岡和彦。彼は東大を出ながら定職を持たずに日々を暮らすフリーターだ。そうした中で、ある時くだんの銭湯のバイト募集に応募する。彼の家族がまた好い。そんな彼を心配するでもなく(もちろん殺人云々は知らないわけだが)、かといって放任主義で無関心なわけでもない、ほどほどの距離間で自然に接する。実に平凡で平和な家族である。

鍋岡の彼女・副島さんも好い。いや、凄く好い。決して美人ではないけれど、女のコはやっぱり笑顔だよね! と改めて思わせてくれる。

それから、借金の負い目から殺人を請け負い続ける銭湯のオーナー・東。これがまた話の分かる好いオジサンだ。彼もまた人懐っこい笑顔が印象的である。そして極めつけは、鍋岡と一緒に採用された松本だ。彼はプロの殺し屋でありながら、その素性がバレた後も態度を変えずに年上の鍋岡にくだけた敬語で接し続ける。

前述の通り荒唐無稽な映画ではあるが、これはある意味、疲弊した日本社会の縮図だと見ることが出来よう。映画は終盤、殺人を指示するヤクザの田中こそが諸悪の根源だとして、若い殺し屋・松本が田中を殺そうとする。が、脇に居た銭湯のオヤジ・東に松本は撃たれてしまう。そのとき田中は勝ち誇ったように

「秩序を乱すってことは俺たち年寄りにとっちゃ君たちが思っている以上に大変なことなんだ。実際、東さんだって今まで通り、俺の言うことを聞いている方が楽なんだ」と言う。

田中はオールド・ジェネレーションの代表だ。日本の古びた社会システムそのものと言って良い。東はこのままではいけないと、若者に理解のあるふりをしながら、早く田中の側に逃げ込みたいと思っているミドル・ジェネレーションである。松本は、その実力をいいように使われるヤング・ジェネレーションで、鍋岡はそれらからはみ出した傍観者なのである。

画像引用元 シネマカフェ

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