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君は友部正人を知っているか

館主JajaのオススメBOOK
詩集「バス停に立ち宇宙船を待つ」(友部正人)


今日、友部正人の名前を知っている人はどれほどいるだろうか。私より下の世代はおそらく知らない。上の世代でも、せいぜい団塊の世代までで、それより上の人たちは知らないだろう。

つまり、彼を知っている世代は非常に限られている(はずだ)。そして、その限られた世代にあっても、決してメジャーな存在ではなかったから、知っていたのはごく少数で、かつ今でも憶えている人はほんの一握りではないだろうか。

友部正人は詩人で、フォークシンガーである。シンガーソングライタ―という呼び方は彼の場合しっくりこない(気がする)。

とはいえ、私も多くを知っているわけではない。というか、ほとんど知らない。「また見つけたよ」という1973年にリリースされたLPレコードを1枚持っているだけだ。そのうえ、たまたま出会った本書によって、未だ活動していることを知ったくらいだから、とても熱心なファンとは言えない。

がしかし、友部のことはずっと忘れたことがない。それは、前述のアルバムに収録されていた「密猟の夜」という曲の歌詞が、この50年、頭の隅に張り付いて離れないからである。

〽犬が吠えるよ/タバコ屋の屋根の上/オホーツクが今にも溢れそうだと

なんという歌詞だろう。黒い海がのしかかるように迫りくる──、行ったこともないサロマ湖(オホーツク海に接する汽水湖)のほとりが目に浮かぶようだ。

70年代にはグッとくる歌詞を書く人がたくさんいた。伊勢正三、荒井由実、小田和正……。松山千春の歌詞も好かったし、さだまさしも好い詞を書いた。彼らの言葉は押し並べて洗練されており、耳障りが好い。

一方、友部の詞はむき出しの言葉で、ごつごつとした礫のようだ。うっかり触ると傷つきそうな危うさがあった(このあいだ、ここで触れた岡本おさみですら、友部よりはマイルドだ)。

残念ながら本書を読んでも、かつて「密猟の夜」で受けた衝撃は得られなかった。あれは10代の私だからこそ、当時の友部と感応した体験だったのだと思う。

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