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A君の熟年離婚を考える

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映画「プラハ」(主演 マッツ・ミケルセン)


去年、10年ぶりくらいにかつて私の部下だった3人と酒を酌み交わす機会があった。彼らは私の職業人生で最もキツかった時期に私を助けてくれた面々である。

私を含めた4人のうち3人が既に当時の職場を離れており、風の便りでそれぞれの噂を聞いてはいたものの、一堂に会して近況を報告し合ったのは初めてだった。

ひと通り、現在手がけている仕事などを語り合う中で、私に一番歳が近い(と言っても10歳ほど年下である)A君が突然、

「いやあ、参りましたよ。最近、カミさんに浮気されちゃって……」

と言い出した。えっ、今なんつった? と他の3人が身を乗り出すと、彼の奥さんがパート先で知り合った大学生と不倫しているのだと言う。

「えっと、君の奥さんって幾つだっけ?」

「もちろん五〇超えていますよ。何考えているんだか、相手は自分の子どもより歳下だってぇのに」

何でも今後の法的な措置に備えて、LINEのやりとり──頻繁かつ親密に交信しているのだとか──を押さえたり、クリスマスにどこそこで会っているのをカメラに収めたりしたなどと言うのである。

自嘲気味と言うか、むしろ自虐的に語る彼の話を聞いていて、少し疑心暗鬼になり過ぎているのではないかと客観的には思えた。どうやら決定的な証拠はないようなのだ。それでもA君は、「いや、あれは絶対にやってます!」と言い張るのだった。

この映画の主人公クリストファーを観ていて、そんなA君を思い出した。クリストファーもまた、若い男と密通を続ける妻を持つ。音信不通だった父の遺体を引き取りに夫婦で訪れた異国の地プラハで彼女を責めながら、そうなるに至った自分にも忸怩たる思いを隠せない。

子どもの頃に出て行った父にはずっと嫌われていたと思い込んでいた。しかし、そんなことはなかった。その後の父の人生を異国で知る中でクリストファーは、父がひと時も忘れずに自分のことを想ってくれていたのだと悟る。どうやら人に愛を伝えるのが下手な親子のようだ。

妻のマヤだって、若い男との関係がいつまでも続くとは思っていまい。本当はクリストファーによって満たされたいのだ。

さて、A君について言えば、もちろん事の真相は分からないし、私のような外野が口を挟むべきことでもない。だが、老境を前にして妻の不貞を疑い、嫉妬心に駆られる──思わぬ形で、クリストファーのように自分が未だ奥さんを愛していたことを知ったのではないだろうか。法的な措置とやらは取らない方が良いように思う……。

画像引用元 JustWatch

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