10/17(木)「認知症患者に介護ロボット「パロ」を導入することの是非について」
背景
アザラシ型ロボット「パロ」は、世界で最もセラピー効果のあるロボットとしてギネス世界記録に認定されており、本物の動物と同じように触れ合うことで、アニマルセラピーと同等の効果があるとされている。このロボットは日本で開発され、世界中の介護施設や福祉施設などで活用されている。日本では、主に認知症患者のいる老人介護施設などで用いられているが、欧州や米国などでは公的な医療機器として認められている。医療現場で使用する際、病原菌の媒体にならないよう、パロの毛には銀イオンを使用し制菌加工を施すなどの安全性や、10年以上使用できる耐久性なども備わっている。「パロ」に関する論文の数は900を超え、暴力・暴言などの問題行動や社交性の改善、投薬の低減など多くの効果が発表されている。超高齢化社会を迎えた日本においても、約2000体が販売され、その約半分が個人名義でペット代替での利用、その他は老人介護施設や在宅介護で使用されている。しかし日本は他の国に比べて利用率は高くなく、本当に効果のある使い方がされているのか、また倫理的問題や費用対効果などについて疑問視される場合もある。
議題
今回は、日本において認知症患者の治療ツールとして「パロ」を認め、米国のように導入を推進していくべき(賛成)か、また、パロを利用せず、それ以外の方法での治療を進めるべき(反対)か。
立論者が反対の立場、質問をする参加者が賛成の立場で議論した。
前提質問
Q.パロの使用用途 子どもへのセラピーもあるのでは?
A.介護の点で議論
Q.導入を推進するとは?
A.医療施設で。 海外では保険適用も。
Q.技術の導入の規制は難しい。少しでもメリットがあるという点で、規制する必要はない。
A.1つの施設に2~3台。(普及率が高くない)。コストがかかる。
Q.市場に淘汰されるのでは
Q利用を促進すべきか否か、が適切では?
A 公的に認めるかどうか
意見・論点とそれに関する議論
1. 費用対効果について
→公式サイトによると、1体につき約40万〜50万円かかる。海外では副作用の多い精神薬を可能な限り減らすためにパロを使っているケースが多い(最初にパロを使用し、ある程度効果が出たら薬を使わない)が、日本では薬治療を推進しており、実際のところ単なるお年寄りの遊び相手やペット代替としての使用が多いため、パロの効果を充分に発揮できているケースは少ない。
Q.アニマルセラピーと比べて、費用対効果が高いのでは?
A.回答なし
Q.薬を減らすことができるのでは?
A.薬による治療のシステムが変わる必要がある。
2.薬と違って効果は人それぞれ
→パロを手放した人によると、興味をなくした、飽きたという理由が挙がっている。このように効果が一時的で不安定かもしれないものを、高いお金を払って取り入れることは長期的に見てデメリットになる可能性がある。
Q.どんなサービスでも賛否がある。導入すべきでない理由にはならないのでは?
(福祉大国でも普及。メリットの方が大きい。)
A.
Q.認知症の効果的な治療が確立されていない。(薬や手術を用いても完治できない)薬の効果も人それぞれでは? 薬を使わないで治療したい人の方が多いのでは?
A.認知症の症状に合わせた薬の開発が進んでいる。副作用のない薬の開発の可能性がある。パロの効果は一時的であり、長期的にみて、薬による治療の方がいいのでは。
Qパロの効果は本当に一時的なものか?
A.薬の方が、科学的に認められている。
3.正しく使わないと故障の恐れがある
→パロを可愛がるあまり食べ物や飲み物をあげようとしたり、目やひげ部分を触ったりする人もいる。こういった間違った使用をすることで故障の一因になる。
予想される反論に対する再反論 に対する議論
1.心理的・感情的な安定をもたらし、言語障害が回復するなどの事例がある。患者にとって良い効果があるなら導入するべきでは?
→確かに効果をもたらすことも多いが、人と人とのコミュニケーションの時間が失われたり、疎かになったりする可能性も考えられる。また、人はロボットを愛しても、ロボットには人を愛する感情がない。感情的な繋がりは「偽りの関係」であり、本人の意思確認なしにロボットを与えることは酷なのではないか。
Q.人と人とのコミュニケーションが少なくなっている人にとって、ロボットの導入のメリットがあるのでは?
A.パロに依存してしまうリスクが考えられる。
Q.介護士の負担を減らすことができるのでは?
(2040年272万人が高齢者に。57万人の介護士不足。)
A.
2.本人の同意を得れば良い?
→認知機能や判断能力が低下していたり、意思表示が難しかったりする人もいる。ロボットを人や動物に似せるほど、認知症の人は本物の人や動物と誤認するかもしれず、騙していることになりかねない。
Q.患者にとっては、人か動物かは重要でないのでは?本来の目的は、
A.人間のリアルな反応が癒しにつながる。
Q.データはありますか?
Qリアルかどうかは重要な論点ではない。
Q本人が満足していればいい。
A.本人が本物の動物と認識する。心理的な問題。
Q.介護をする側(動物)にもストレスがかかる。ロボットの場合はかからないのでは?
A反論する余地がない。
Q生きた動物にしかできないことがあるのか?
Aアニマルセラピーの効果が大きい。
本物の犬よりもロボットの方が効果が薄れる。
3.ロボット導入により介護者の負担が減るのでは?
→前提として、ロボットによる介護は、人間的な共感や温かみのあるケアが失われており、介護の質が低下すると考える。また、ロボットが患者の感情や行動を全て汲み取りサポートできるわけではないため、介護者の負担が減るほどの介護はできない。また、ロボットの運用やエラーが起きた時の対応は知識を持った人間が必要である。さらに欧米ではパロの効果を引き出すためのセミナーが行われているが、これを日本でやろうとすると介護者にとって負担となってしまうため、これらを踏まえると負担が減るとは言いづらい。
Q.介護士1人あたりの生涯年収(1億)と比較すれば、ロボット1台にかかるコストは低い。
A.介護士は資格を持ったプロであり、介護士とロボットが同様の価値があるとは言えない。
Q.費用対効果を考えると、ロボットの方が良いのでは?
A.ロボットの耐用年数は10年。故障のリスクもある
先生のコメント
・既得権を持つ人(白髪、背広、)の話がリアリティがない。
・男社会と実態の乖離
・既得権を持つ人は、全否定。リスク0でなければ、やってはいけない。
(介護ロボットは、リスクがあると、全否定する人もいる。)
・社会変革が必要。
・欧米は、おおらか。リスクを認める。文化的な違いがある。
参考文献
朝日新聞「アザラシ型ロボは認知症ケアを変えるのか 「パロ」が起こした議論」(有料記事)
https://digital.asahi.com/articles/ASS9L45GQS9LUTFL008M.html?iref=pc_rellink_01
NDソフトウェア株式会社(公式サイト)
https://www.ndsoft.jp/product/medical/paro/
認知症患者への「パロ」の効果、国内外の事例
https://xtech.nikkei.com/dm/atcl/news/15/121701605/
介護のみらいラボ
https://kaigoshoku.mynavi.jp/contents/kaigonomirailab/news/report/3505/ - 5
メンタルコミットロボット「パロ」の開発と普及
https://www.jstage.jst.go.jp/article/johokanri/60/4/60_217/_pdf/-char/ja
パロのふれあいによる介護予防
https://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2005/pr20050916/pr20050916.html
第6回アザラシ型ロボット・パロによるロボット・セラピー研究会
http://intelligent-system.jp/paro-therapy6.pdf
柴田教授のひびきの放送局 セラピーロボット「パロ」の効果
https://tom-shibata.hatenablog.com/entry/2023/08/14/100747
非薬物療法のためのアザラシ型ロボット・パロによる神経学的セラピー
https://www.tyojyu.or.jp/net/topics/tokushu/koureisha-kaigo-robot/hiyakubutsuryoho-paro.htm
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