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『モモモノローグ』を読みました。

『モモモノローグ』
 御殿山みなみ


たくさんになっちゃいそうだけれど、気になった歌を。

しがらみの転居通知の絵はがきを切手に貼ってポストに捨てる

「絵はがきを切手に貼って」という表現が好きです。切手に重きを置く表現だけれど、でも「捨てる」のよね…。「捨てる」気持ちにしても、しがらみはあるのに、転居通知は出す。複雑な心理です。


まいったな なにを粉々にしたならばこんなに広い砂漠になるの

砂を何かの欠片と定義するの、面白い、と思いました。砂漠になるほどたくさんの粉々になった何かの欠片。なんだろう、と考えてしまう歌だと思いました。


「寝室でナウマンゾウを飼っている」くらいの嘘で「楽しみ」と言う

そんな嘘はつかないでほしい、と思ってしまったので、まんまと歌の世界に入ってしまった、と思いました。


歩道橋の下で待ち合わせをしたらどれかがきみの降りてくる音

とてもロマンチックな歌だと思いました。素敵。
そんなこと言って、歩道橋を渡らないところから来たりしてね、というか、この主体がそうだとばかり思っているところに、ぜんぜん違うところから「きみ」として現れたい、と思いました。愛されている前提で。(だからかわいくないんだって。)


ポンタカード作るまでおれポンタカード作りますかって訊かれるんだな

そのままなんだけど、要するに、めんどくせ、ってことですよね。でも作るのはもっとめんどくさい。作ったら訊かれなくなるんだけど、でも必要ないものは必要ないし。どっちを選んでもめんどくさい。そしてそれを受け入れるしかないのか、という諦念。


消えてないからじゅっていう終わったと思いバケツに投げた花火は

これ、すごく好きです。
見落としがちなところ。もう消えたと思った想いは、水が入った(とは書かれていないけれど、花火を処理するためのバケツだと思うので、水は張ってありますよね、当然)バケツによって一気に冷まされる。そこでじゅっといったときに、消えたように見えた花火もまだ消えきっていなかったんだ、と再発見する。痛みが見えます。


春よ来い 新幹線の控えめな就活生の座席の角度

初々しさが見えるようです。ふてぶてしく振り向きもせず一気に座席を後ろに倒すタイプの方々も、かつてこんなことがあったでしょうにね。忘れてしまったのでしょうか。
それと。今年はこういう光景も少なかっただろうな、と思いました。面接さえリモートが多かったので。


体操のたびとがる肘とがる膝とがらない肘とがらない膝

どこかに書いた気がするのですが、これもとても好きです。
「起きていないもの」「起きるであろうこと」に着目した歌、好きです。そして読むときのリズムが、まさに体操しているみたいな気持ちになります。


起きたときわすれてしまうよい夢のひとつひとつにはさまれる羽根

よい夢にはさまれた羽根も忘れてしまうのか、忘れてしまうよい夢に羽根をはさむのか。どこからどこまでが夢なんだろう、というぽわんとした雰囲気が歌の情景に合っていると思いました。


メロンひとたま提げゆく帰路の信号の一つ残らず守りきりたり

メロンを大事に持ち帰る様子がとてもよく表現されていると思いました。それらしきことはどこにも書いていないのに。なんとなく、スーツを着てビシッと背筋を伸ばしたサラリーマンが浮かびました。あくまで私のイメージです。何のためのメロンだろう、ひとたまだから、だれかと一緒に食べるんだろうな、とか想像の世界が広がります。お供え、というのも無きにしも非ず。


ミスチルをしらないひとがぼくのことしってくれててもうそれでいい

そんなことがあったらそりゃそうなりますよね!と言いたくなる歌。ひらがなに開いているのは、夢見心地だからでしょうか。


天丼を頼めばあなたが同じのと言ってわたしもそれがよかった

絶妙な表現だと思いました。いいな、そういう関係、と思ってわかりました。これ、「わたし」がどんな人かも表れていますよね。ちょっと怖くなったりもして。でも先に天丼、と頼む人だから大丈夫ですね、きっと。


声優が死んでしまったキャラたちを逃がしてみたいプラネタリウム

声優が変わることによって別のキャラクターになってしまったように感じますからね、どうしても。でも、本人そのものではなく、あくまで声を借りたキャラクターなので、本物の星空ではなく、プラネタリウムなのでしょうか。切ないです。
亡くなってしまった場合はでも、私なんかは作品が続いてくれてよかった、と思ってしまいそうです。でも声優さんに思い入れがあったら、また違うのかもしれません。


今の私が受け取った今の感想でしかないけれど、今こう思った、ということを残しておきます。

回文短歌も完成度が高かったです。

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