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『平和園に帰ろうよ』を読みました。
※2019年4月14日の記事を、閉鎖される他ブログから移動してきました。なるべくそのままに、でも表現があまりにもアレな箇所だけ手を入れました。
『平和園に帰ろうよ』
小坂井大輔
[書肆侃侃房]
小坂井さんは、短歌の聖地、名古屋西口にある中華料理店「平和園」の歌人です。
短歌をやっていない方には、何のことやら、だと思いますが。
料理人であり、歌人なのです。
Amazonで予約して買いました。
歌集は高いから、欲しくてもいつもなかなか買えないのですが、名古屋の歌人で、しかもTwitterでつながっているので(なぜリフォローしてくださったのかしら…うれしい、ありがとうございます)、つい。
Twitterに流れてくる短歌がどれもよかったの。
1首がどれも力強いから、これでも読むのに時間かかりました。毎回頭を殴られる。
でも読んでいて疲れないのは、並びが絶妙だからですよね。
ストレートな表現と、ひねった表現。盛りだくさん。
まずね。
状況が、リアルすぎて。
映画とか夢とかって、自分が主人公になりきって見るタイプと、客観的に見るタイプがあるじゃないですか。
小坂井さんの短歌は、私には断然前者に思えるのですよ。
作中主体の状況になってリアルに情景が見えるの。絵になって。
なのにね、言葉の使い方が斬新なんですよ。説明しきらないで説明しきる。(なんのこっちゃ。)
好きな歌がたくさんありすぎて引用したいけれど、しても漏れる気しかしません。
マーカー引いたら、本ごとすべて蛍光色になりそうな勢い。
値札見るまでは運命かもとさえ思ったセーターさっと手放す
あるある。
運命かもとまで思ったセーターなのに、「さっと」手放させる値札の魔力。
白葱を噛んだらぎゅるっと飛び出して来たんだ闇のような未来が
あるね、白葱の中に。ぎゅるっと飛び出すやつ。あれは未来だったのか。しかも闇のような。
白葱の中につまった未来。(2022年追記:このあと小坂井さんが葱が苦手なことを知りました。)
最初のほうのこの2首でまず心を持って行かれ。
父の爪がぱちんと飛んできた箱根5区の坂の途中で
箱根駅伝ですね。
箱根5区にこの人がいるわけじゃないです、当たり前ですが。もちろんその父親も箱根5区で爪を切っていたわけではありません。
皆が共有している情報を上手に使っていますよね。箱根駅伝といえばお正月。
「テレビを見ている」なんて一言も書いていないのに、読者はそれを理解できるわけですよ。すごくないですか?
真剣に走る選手を見ながら爪を切る父親のゆるさ。その父親と時間を共有している作中人物。
この、画面とは書いていないけれど画面の中の緊張感と、平和な現実とのギャップがたまりません。
擬音語がカタカナでなく平仮名なのもさすが。
届かずにわたしの後頭部に当たる誰かの願いを込めた賽銭
届かなかった誰かの願いに思いを馳せる繊細さ。
初詣に何も考えずにフードを着て行ったら、フードの中に賽銭が入ってたという話を聞いたことがあるけれど、あれは誰かの届かなかった願いを持ち帰っていたのか。
あーもう無理。書ききれないわ。
読んで。ぜひ読んで。
比喩も秀逸なので。
違和感があるんだ流行りのポップスを演歌の人が歌うくらいの
とか。
めっちゃわかりやすいですよね。でも絶対に思いつかない。
あとね、加藤治郎さんの解説にビックリ。そうだったのか!
もはや戸田さん(と穂村さん?)が、歌人、小坂井大輔(敬称略)を生んだと言ってもいいのでは。
でもあくまで最初に行動したのは小坂井さんであって、運命の扉を自ら開いたのですよね。それがドラマですよね。すでに。
何度も大切に読み返したいと思います。
遠方の歌人の方と一緒に、平和園に行くのが夢です。(2022年追記:その後平和園には無事に帰ることができ、親切な小坂井さんにお世話になりっぱなしなのでした。これを書いていた私に教えてあげたい。遠方の歌人て誰だろう。美香さんかな。)
こんなに偉そうに書いておいて、解釈が全部違っていたら笑えます。(いや泣けます。)
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