猫派の私と老いた柴犬
犬より猫派。これは今後も覆ることは無い。
漠然とそのように思っていたのは確かだし、今もそう思いながら、どこかのおたくの可愛いワンチャンネコチャンを動画や画像やらで摂取して満たす日々を過ごしている。
けれども今年、完全猫派の私に思いがけない出来事があった。
それは、『犬が可愛い』という想いが、人生ではじめて心から湧き出たことである。
私の身の周りには犬猫共に飼っている人が居らず、家にいる彼らに触れる機会があまりなく、せいぜい猫カフェや、街中で見かけたり触らせてくれる猫のみが触れ合える対象だった。
そんな暮らしをしてた私だが、たまたま今年、知り合いの家に行くことになり、今まで自宅にお邪魔したことはなかったのだが、お家にはおじいちゃんの柴犬がいると事前情報として聞いていた。
犬アレルギーがあるでもなく、本当に久々に犬と触れ合えるんだな、と少しワクワクしていたものの、そこは猫派の私。まあ、猫を超えてくる可愛さは無いだろうなどと高みの見物であった。
当日、お邪魔しまーすと玄関をくぐるとそこには柴犬の姿。
老いた犬は、静かにこちらを認識していた。
舐め回したり吠えたり走り回ったり、喜びを身体で表すようなTHE犬!な動きは一切なく、そこには「お、なんか人来たな、まあ上がれや」くらいの落ち着き払った小さな毛玉がいたのであった。
回数は少ないものの、昔触れ合った犬たちは総じて若かったので皆、先ほど書いたようなはしゃぎっぷりを見せていたので、そのギャップに拍子抜けした。
老いた犬はこれほどまでに穏やかなのか、と内心。
動きは穏やかであるものの、やはり見知らぬ人間には興味が少なからずあるようで、ひたすらにニオイを嗅がれる。唸ったり尻尾を振るわけでもなく、納得がいくまで嗅ぐ。
彼の挨拶を受け入れた後は、こちらも挨拶させていただく。怖がりもせずこちらに近づいて触らせてくれるタイプのおじいちゃんで、人間ははじめて柴犬をナデナデさせてもらうことに。
や、柔らかい…!
柴犬って、柔らかいんだ…!
これが私の最初の感想である。
外観から勝手に角刈りをイメージしていた私は、柴犬の毛は硬いと思い込んでいた。
まさかのモルモットよりも柔らかかった。
しかも、毛が深い…!
奥まで手が沈む…!
これもまた同じくバリカンで刈り上げた頭が想像の根源なので、てっきり毛は短くて浅いと思っていたのだ。
はじめて触れた柴犬は、想像を超えて柔らかくフサフサで、優しい肌触りだった。
大人しく触らせてくれてしかもこちらを見つめてくれる。快く迎えてくれる。暖かいし柔らかい。可愛すぎる。まだ会ってそんなに経っていないというのに、私は完全に彼のトリコになっていた。
後ろ髪を引かれながら帰路に着いた後も、私は街中やネット上で柴犬を見かけるたび、
柴犬と暮らしたら素晴らしい日々が過ごせる気がする
家に帰ったらあの可愛い子が出迎えてくれるのか
散歩拒否られたりする時もあるんだろうな
脳内を駆け巡る柴犬との暮らしの一例である。
猫一筋だった私の意志を、短時間でここまで崩してくるあの犬は一体なんなのだろう。
愛犬はさぞ可愛いだろうと思いつつも、離れたライン上から眺めていただけだった私は、あの日にその線を跨いで、少しだけ、でも明らかに犬派に傾いたのだ。
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