ペットの豚さんに対する元獣医師のホンネ|あんまり大きい声で言いにくい…
公務員の獣医師として働いていた時、
「ペットとして豚さん飼い始めたんだ!!😆」
なんて声を聞こうものなら
「何イイイイ!!!???やってくれたなァ!?!?」
とブチギレるというのが常でした。
別にどんな動物飼ってもいいじゃん!個人の勝手やろがい!
と思われると思います。それは仰るとおりです。
では何故こんなブチギレてたのか。
端的に、率直に申し上げると余計な仕事が増えるから。
仕事って…?公務員で獣医師なんているの?
と思う方が大半と思います。
私が勤めていた「公務員獣医師」のお仕事をすごく平たく説明するとこんな感じ。
最後にやたら物騒な言葉が出てきましたが、これもれっきとした業務の一部なのです。
詳しくは後ほど…。
簡単に言うと、自治体内の農家さんを支援して、そこで飼われてる牛さんや豚さん達や牛乳・卵がきちっと食卓に上がるようにがんばるお仕事というイメージ…。
農家さんを支援するお仕事。
それなのに、どうしてペットの豚さんが関係あるの?
それはですね、
豚熱、という豚の病気が大きな原因です。
「豚熱」。聞いたことありますか?
「豚コレラ」なら聞いたことあるでしょうか?
数年前に名称が「豚コレラ」から「豚熱」に変わりました。
なんか小難しい言葉がたくさんですが、
治療できないし、めっちゃ感染力の高い豚さんの病気、ということです。😭
え、そんなヤベー病気が流行ったら大変じゃん…?
そうです。
大変な騒ぎです…。
もしも、農家さんの豚さんで、この豚熱に感染した豚さんが見つかった場合は
その農場の豚さんは全て殺処分です。
先程、獣医のお仕事として「殺処分」という言葉を挙げましたが、
このように、農場でヤベー病気の家畜が見つかった場合は、
かわいそうですが、その家畜は獣医師の手で殺します。
そんな事が許されるんか…!?とびっくりする方もいるかもしれません。
しかし、「特定の病気に感染した家畜が見つかった場合は速やかに殺す事」というのは実は法律で定められていることなんです。
患畜、病気と診断された家畜のこと。
疑似患畜、というのは、患畜と一緒の農場で飼われているなど、病気の疑いがある家畜のこと。
法律上では、「家畜の所有者が殺す」となってますが、実際は難しいので自治体の獣医師がこの役は担います。
この「見つかった場合は即殺処分」の対象となる病気のリストに「豚熱」が含まれているのです。
こんなヤベー病気どうすりゃいいのん。
実は、こういった病気が発生しないようにするための行動も、実は法律で定められているのです。
簡単にいうと、ヤベー病気の予防のために、家畜にワクチンを受けさせる義務があるということです。
豚熱でいうと、豚さんに豚熱ワクチンを接種する必要があります。
飼っている豚、一頭一頭にワクチンを打ちます。
といっても農家さん自身が打つことはできないので、豚専門の獣医さんや私のような公務員の獣医師がワクチンを打つことになります。
これがなかなか、というかすんごい大変なんだな……
私の管轄の農場は、小さい規模のところが多かったですが、
それでも1農場につき、100〜200頭以上は打っていました。
ワクチンは打つべき時期が決まっており、なるべく生後50〜60日の子豚に打つこととなっていました。(※今は違うかも…)
ひとつの豚房(部屋、囲いとか)に20頭くらいの子豚が入っている農場が多かったです。
その子豚にどうワクチンを打つか。
連続注射器という銃のような形をした注射器を使います。
逃げ惑う子豚にすれ違いざまに確実にワクチンを接種!そしてすかさず、左手に持ったスプレーで打った子豚の背にマークを吹きつけます。
こうすることで打ち漏らしを防ぎます。
豚房内の子豚全てにきっちり接種をしたことを確認し、次の豚房へ…。
というのを繰り返します。
手分けをし、何班かに別れて、1日に数ヶ所の農場へワクチン打ちに行くのを毎日毎日やっています。
ほほん。でも打つだけだったら、そんな時間もかからないのでは?
手分けせんでも、1日掛ければ数ヶ所回れるんじゃない?
と思うかもしれません。
しかし、ここも結構大変なところでして…。
基本的に、農場のハシゴは推奨されません。
というのは、農場から農場への感染のリスクを下げるためです。
もし、行った農場で豚熱にひっそりと感染している豚さんがいたとして、それに気付かずそのまま別の農場へ行ってしまったら…。
病原体を他の農場に持って行ってしまうことになります。
我々公務員が、農場へ病気を持ち込んだり、持ち出したり、蔓延させることは絶対にあってはなりません。
原則はシャワーインシャワーアウト。
農場の出入口にシャワーが設置されており、農場に入る際はまずシャワー!
そして作業を終えて農場を出る際もシャワー!!
というシステムのことです。正直めんどくせえ。持ち込まない持ち出さないの徹底にはこのくらい必要なのです…。
しかし、そのようなキチっとした設備のない農場も多いです。というか大半は備えてない。
そんな時は、作業が終わったら事務所に戻って片付けや洗車が終わり次第、ソッコーでシャワーです。冬寒くて死ぬ。
農場ハシゴする時は、そのような形でしっかりと身を清めてから再度出発というのが推奨されてます。
という感じで、ワクチン打ちというのはなかなかに手間と時間がかかるのです…。
豚さんの頭数が多い自治体は本当に苦労していると思います…。
んで、話をペットの豚さんに戻します。
農政部の公務員獣医師は先程からでてきている「家畜伝染病予防法」という法律に則って業務を行います。
そもそもこの法律は、家畜の伝染性疾病の発生を予防し、及びまん延を防止することにより、畜産の振興を図ることを目的に定められています。
そのために、「家畜」に対して、上記のとおり、ワクチンを受けさせたり、場合によっては殺処分という悲しい措置を行うことを法律として定めています。
さて、この「家畜」という言葉。
お肉として食べるために農家さんが飼っている動物というイメージをする方が多いと思います。
しかし、実は、ペットとして飼われる豚さんも、この「家畜」に含まれます。
ミニブタもマイクロブタも「家畜」として、この法律の対象です!
という訳で、ペットとして飼われている豚さんへの予防接種も、農場へのワクチン打ちの傍ら行う必要があります。
これが正直超厄介だった…😅
飼い主さんが、ワクチン接種のために豚さんを事務所まで連れてきてくれれば助かるのですが、
「豚さんが大きくなり過ぎて、連れてくるのが難しい!」
「そもそも車持ってない!」
などのお声もあり、
ご自宅まで打ちに行くことがほとんど…
そして、行ったら行ったで
愛情たっぷりに自由気ままに育っている豚さんにワクチンを打つのは一苦労…
軒下から全然出てきてくれなくて、一匹にワクチン打ちをするのに1時間半以上かかるなんてことも…
(勿論、ささっと打たせてくれるいい子もいました)
という感じで、畜産の振興という観点からはだいぶ外れた業務に時間と人手を取られてしまうことから
ペット豚という言葉に対してかなりナーバスになったているという次第でした…。
なんなら「ペット豚を飼うやつ許すマジ!!💢」くらいに思ってました。笑
しかし、数年前に公務員獣医師を辞めたことによって、だいぶ落ち着きました。
今は、「ペット豚飼う!」って人が身近にいたとしても「そっかー…。すんごい大変だけど、『覚悟』、出来てるなら止めないぜ」くらいに流せると思います。
今、ペット豚飼おうかな、どうしようかなって方へ
「すんごい大変」って部分は本当にマジなのでそれだけはご覚悟を…。
先ほど、殺処分のお話をあげましたが、ペット豚も容赦なくこの対象になります。
また、寿命や病気などで豚さんが亡くなってしまった場合、そのご遺体の扱いについても法律で定められているので、普通のワンちゃん猫ちゃんのようにはいきません。
最愛のペットを失って傷心のところにそういう嫌な決め事と向き合う必要があります。
それでも、やっぱり豚ちゃんをパートナーにしたいというならば、何も言いません。
面倒事に対応する覚悟とともに、お迎えした子を目一杯かわいがってください。
飼ってるぜ!って方へ
この文を読んで、不快に思われてしまったら申し訳ございません。
豚さん、かわいいですよね。
私もワクチン打ちの業務のおり、生後まもないキャワワな子豚に癒されておりました。
そのまま愛情注いでください。
そして、少しでいいので、家畜保健衛生所の人間も苦労してんだなと思っていただけるとありがたいです。
日中、ワクチン打ちだ飼養衛生管理だと面倒くせえ電話やメールを入れてしまうことも多いですが、優しく対応してくださるととても嬉しいです…。
最後に、ここまで読んでくださった方へ
ここまで読んでくださってありがとうございます。
最近、マイクロブタカフェなどが流行って、豚さんを目にする機会が増えた方もいるかもしれません。
子豚はめちゃくちゃかわいいです。
だけど、上で述べたように、家畜として法律で色々決め事がある「豚」を飼うのは本当に大変です。
一目惚れしてお持ち帰り💕なんてことだけはないように…!!(そんなことができるシステムにはなってないと思いますが…)
どうかメロメロメロウでやられないように…!もしも、マイクロブタカフェに行く際は、気をしっかり持って突入してくださいませ。
そして、食卓にあがる豚さんがどう育っているのか、たまにニュースで話題になる豚熱ってなんじゃろか、など畜産分野についても
少しでも面白いなと思っていただければ大変嬉しいです。
またこんな感じのお話も書いていければと思います。