【非公式】第7期 SF創作講座 初回課題梗概「宇宙公共事業に伴う測量原点調査業務」
はじめに
「第7期SF創作講座」が2023年6月24年から1年にわたって開講されます。その主たる内容は、講義と毎月発表される課題に沿ったテーマの物語を考えて、1,200字以内の梗概を提出し、それを講師陣たちが講評するという、なんともスリリングな創作講座です。
実は、私も聴講生(梗概や実作は講評されない立場)として参加していますが、聴講生なりの楽しみ方として、なんとなく面白そうだなと思い、今回のテーマに沿って梗概を書いてみました。
あくまで非公式です。
初回テーマ:宇宙、または時間を扱うSFを書いてください(梗概:1,200字以内 内容に関するアピール:400字以内)
梗概「宇宙公共工事に伴う測量原点調査業務」
オカモトは、宇宙開発に関わる測量・調査会社の社員で、会社から州立天文院から受注した『測宙系』の策定を行う業務の主任技術者に任命された。
測宙系とは宇宙における測量の考え方の一つだ。これまでの宇宙工事において、これまで軌道計算を用いた測量がなされてきたが、開発が発展するに連れて、人類が地球に籍を置いていた頃の測量の考え方──測地系を準用しようとする運動が出てきた。位置を座標点として表すことは、測量の精度の向上にもつながり、より緻密な都市計画や美的な外観の構造物の建設が実現できると見込まれている。
測地系が適用してきたのは、縦軸(X)と横軸(Y)とジオイド(Z)で構成されるユーグリッド空間の理論だった。しかし宇宙測量においては対象は三次元的な天球ではなく、複素構造体のため、余剰次元の軸を考慮しなければならない。その総数は九にも及ぶ。
今回の業務の目的は、九つの軸が絡んだ位置を演繹することが可能な測量原点を選び出すことだった。
上長も同行した初回打合わせで、天文院側の担当者はある計画を立案した。それは確認されている星系を座標系統ごとに切り分け、星系のエネルギーが収束する点──すなわちブラックホールを測量原点に据えるというもの。調査対象は五百天文単位先のある連星系。工期は地球標準時で十二ヶ月。精度は一キロメートルから一メートルの間。成果物から制約まで、ありとあらゆる要求が無理難題でオカモトは絶句した。
「今回も長い出張になるな」という上長の言葉にオカモトは何も思わなかった。オカモトは一人もので、長期出張を伴う案件はいつも彼が担ってきたので、今更気にはしていない。それよりも愚かな拝金主義に毒された中小企業がそのくらんだ目で受注した無謀な大型案件に辟易していた。
結局、その計画で進められることとなった。誰かに押し付けてしまおうとしたがすぐに諦めた。契約では請けてから速やかに履行しなければならないとなっている。業務計画書を提出して、リース業者からレンタルした宇宙船に機材を詰め込んで、調査を開始した。
長期間に及ぶ過酷な航海と度重なる書類仕事のストレスで徐々に気が狂い始めたオカモトは、やがてブラックホールに飛び込んでしまいたいという欲求が芽生え、やがて爆発した。目的の星系に辿り着いたオカモトはさっそくワームホールの軌道計算をブラックホールの引力圏内に設定した。
ボタンを押すと、たちまち宇宙船は潰されてオカモトはブラックホールの引力に従属した。その先に見えたものは、スペクトルが離散して写る極彩色のカラビ・ヤウ空間。あらゆるエネルギーが放出される複雑怪奇な六次元の領域。それは九次元の角点だった。
オカモトは抗えない重力とベクトル移動に身体と精神が分裂される中、自身の測量技術を結集して、その『中心』を抑え、天文院にデータを納品した。その精度、一〇〇〇分の一ミリ。完璧な選点だった。(1,200字)
内容に関するアピール
「測る」という行為は人の古来の営みの一つかもしれません。おそらく人類が宇宙に進出したとてそれは不変だろうと思います。何かを比べたり何かを導いたり何かを基準にしたりするのは根源的な欲求だと思います。
開発や公共工事もそうですが、まずは測ることから仕事は物事は始まります。設計図と現地の位置関係がわからないと目的物が造れないことは感覚的に分かりますが、その感覚こそが、もしかして、人間を人間たらしめている要素の一つかもしれません。
私自身も今の仕事に就く前は測量会社に勤めていました。このお話は測ることの過酷さと面白さを半ば無理やり宇宙SFへ落とし込んでしまおうという試みです。SF文学の強みは世界と人間を絡み合わせた表現が可能であることだと思うので、その世界と人間の関わり合いをこれからも描いていきたいです。(351文字)