発達障がいは病気ではない
ASD(自閉症スペクトラム)は,あなたかもしれないし,私かもしれませんし,周りの人かもしれません。共通点は「生きづらさ」を抱えていることです。しかしそれを「自覚」することで,自分の苦手な点がトレーニングでき,ストレス軽減につながることでしょう。
生まれつき苦手なことがあるために「生きづらさ」を抱える人がいます。それはコミュニケーションであったり,作文や数学であったり,こだわりが強すぎたりします(全ての特徴がそろっているわけではありません)。脳科学では,脳内ホルモンと脳内構造が影響していることがわかっています。
つまり病気ではなく「生まれつき備わった特徴」なのです。ところがここ数年「周りの人と同じだ。がんばれば大丈夫」と思う保護者・本人が増えつつあるように思います。これでは残念ながら「生きづらさ」の解消にはならないでしょう。
否定の理由として,周囲から「精神異常」と思われたくない,ということもあるようです。残念です。ASDは精神異常ではありません。生まれつきの特徴で,少なからずの人であり得ることなのです。このような偏見があると,自分の特徴を認めたくない人が増え,ストレスを抱えた生活,つまり,生きづらさが続くことになります。
発達障がいの対応には,カウンセリングルームに行ったり,心療クリニックを受診したりします。そこでは,生育歴と今までの生活で困った点を相談します。必要に応じて心理検査を受けることもあります。
自分の特徴(例:場が読めない,予定変更に弱い,板書が遅いなど)がわかると,特徴に応じたトレーニングが勧められます。また,場合によっては医師が投薬を勧めることもあります。投薬については,効果が合う薬がわかるまで数回変更することもありますが,投薬が必要なレベルの場合は忌避しないほうが楽になると思います。
それに加えて,家族,学校,職場の理解と専門的援助があれば,本人と周囲のストレス軽減につながります。そうです。周囲も楽になるのです。さらには,社会全体がASDに対する認識を深めることで,例えば,いじめと不登校の減少にもつながることでしょう。
* ASD → Autism Spectrum Disorder → DSM-5。アメリカ精神医学会診断基準第5版での新呼称。「*アスペルガー障害」,「広汎性発達障害」など,さまざまに言われた症状を総称したもので,略字を直訳すると「自閉スペクトラム症」です。
この場合のスペクトラムとは「人によって,場面,時間によって,生きづらさの特徴が変化する」ということです。例えば「ASDが根本にあった上で,ADHDやLD(特定学習症)が人によって出たり出なかったりする」こともあります。
*現在では「アスペルガー障がい」とは言いません(DSM-5でもICD 11でも)。
→ 呼称の元になった「ハンス・アスペルガーがナチスの軍医」で,自らの研究のために多数の発達障がい児を殺害したことが明るみに出たためです。