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研究開発で社会の課題を越える


廃炉という難題に挑む

CLADSセンター長代理 山口徹治

廃炉環境国際共同研究センター(CLADS)でセンター長代理をしている山口です。
CLADSでは東京電力福島第一原子力発電所の廃炉や福島の環境回復に関する様々な研究開発を行っています。

CLADSとは

JAEAは2011年の福島第一原子力発電所事故の直後から、福島県内に職員を派遣し、環境中の放射線モニタリングや除染などの活動を開始しました。CLADSはそうした環境回復を目的とする活動に加えて、福島第一原子力発電所廃炉に係る研究開発を一体的に進め、国内外の英知の結集に取り組むために誕生した組織です。
 
CLADSでは、Ⅰ.燃料デブリ、Ⅱ.放射性廃棄物管理、Ⅲ.環境回復、Ⅳ.放射線共通研究・基盤、の4つを軸として研究開発を行い、廃炉や環境回復に用いられる技術を開発するとともに、ステークホルダーへの科学的な知見の提供を行っています。

CLADSで実施している研究、技術開発

大きな課題となる燃料デブリ

燃料デブリの取り出しは、福島第一原子力発電所廃炉に不可欠ですが、高い放射線レベルのため長期にわたり困難を伴う作業です。
 
燃料デブリが発生する原子力発電所の過酷事故は、福島第一原子力発電所が初めてではなく、過去、ソ連のチョルノービリ原子力発電所やアメリカのスリーマイル島原子力発電所でも起こっています。
ただし、チョルノービリ原子力発電所の燃料デブリは取り出されることなく発電所の内部に閉じ込められています。
スリーマイル島原子力発電所の燃料デブリは、多くの技術開発を行って取り出されましたが、燃料デブリが圧力容器の外へ出ている福島第一原子力発電所においてはその取り出しは一層困難であり、新たに多くの技術開発を必要とします。

燃料デブリに関する研究開発

一口に燃料デブリ取り出しにむけての研究開発と言っても、様々な場面における分析技術の開発、取り出し時の安全確保のための研究など、その内容は多岐にわたります。
福島第一原子力発電所の1号機から3号機の中に合計約880トン存在する燃料デブリは性質や状態が均一ではなく、同じ原子炉内であったとしてもポイントによって性状が異なります。核燃料であるウランの濃度も濃淡があります。
取り出し方法や取り出し後の管理方法を検討するためには、燃料デブリの性状を知る必要があるので、燃料デブリをラボに運んで分析し、評価する技術を確立するための研究を行っています。

燃料デブリの性状はポイントによって異なる

また、取り出し前に燃料デブリを炉内の「その場」で迅速に分析するための遠隔分析技術の開発も進めています。
さらに、炉内から回収して容器に収納した状態で、核燃料物質の量を計測する非破壊測定技術の開発も進めています。これは燃料デブリと放射性廃棄物を仕分けることにより、取り出し後の管理を合理化することができる重要な技術です。
 
燃料デブリを取り出す際には、周辺作業を含め、作業を安全に実施するために、どの場所にどれだけの時間人が立ち入れるのか、ロボットがどれくらい故障せずに動作できるのかを分かった上で作業計画を立てる必要があります。
作業計画をたてるには、どこに放射性物質が付着していて、どの場所だとどの程度の被ばくが想定されるか、というデータが必要です。
そのため、事故のシミュレーションに基づいて線量率分布を予測する研究や、放射線可視化技術を用いて放射線源の分布を測定して3次元のマップにする技術の開発、ロボットや点群スキャナ、空間線量計などを用いて現場でデータを取得し、逆推定解析により3次元の線量・線源分布図を作成するシステムの開発を行っています。

放射線源を可視化する研究成果の一例

研究開発を進めていく上での留意点

研究開発を行う上で、気にしなければならない点は多くあります。
廃炉を進めるために必要なデータの量は非常に膨大です。これらを科学的な根拠を示しながら整理しなければいけません。
データを取得するために人が原子炉建屋の中に入る場合もありますが、放射線防護に万全を期す必要があります。

福島第一原子力発電所から得られるデータは国際的にも注目されているので、情報公開を適切に行っていくことも大切です。
燃料デブリの本格的な取り出しへと進んでいく中で、実施する必要のある研究課題が新たに出てくることも予想され、柔軟な対応が必要です。

私の思い

CLADSでは多くの研究者・技術者が廃炉・環境回復の完遂という目的に向けて高いもモチベーションをもって、日々課題に取り組み、努力を重ね、成果を創出しています。
私はそのような研究開発に携われることを誇りに思うとともに、身の引き締まる思いで仕事にあたっています。

燃料デブリの取り出しが始まることで、廃炉の中長期ロードマップは第3期に突入します。今までの研究開発成果の実効性が試されると同時に、より将来を見通しながら、研究開発を進めていくことになります。
期待に応えられるよう、全力を尽くしてまいります。

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