気象予報士試験を目指そうと、気象学を学び始めようと、気象学(小倉義光)や気象学入門(松田佳久)を読み始める人は多いと思うが、その中で全員知っていて当然のように”顕熱”と”潜熱”というワードが頻出する。この顕熱と潜熱について辞書的な定義をまる覚えしたり、理解せずに読み進めてしまうとその先の学習に悪影響である。その後の学習をスムーズにするためにしっかりと理解しよう!
顕熱と潜熱とは
定義
顕熱の説明は上記のような説明が一般的であり、こういった定義を丸暗記している人も多いだろう。しかし、この説明をきちんと理解するためには、熱とは何か?、物質の状態変化とは何か?、温度とは何か?を理解する必要がある。
熱とは?
熱とは、「エネルギーの移動形形態」であり、エネルギーとは「仕事(物質を動かす)をする能力」である。
まずは簡単に、「熱=エネルギー」とだけ覚えておこう。
温度とは?(顕熱について)
この問いに正確に答えることは本当に難しく、詳しいことは大学で「統計物理学」と「気体分子運動論」をぜひ学んで欲しいが、ここでは簡単に説明しよう。(詳しい話は京都大学統計物理学講義資料をチェック!)
統計物理学を学ぶと理解できるが、ポイントは「温度は運動エネルギーの平均と関係づけられる」ということである。要するに温度は分子がどれくらい動いているかを示す指標である、ということだ。
そして、顕熱が温度変化を伴うとは、「顕熱=物質の分子運動に必要なエネルギーである」ことを示すのである。
物質の状態変化とは?(潜熱について)
物質の状態変化を理解するために、物質の各状態について理解しよう。
物質の状態変化とは、分子間の繋がり方が変化すること、と理解すればOK。
そして、この物質が状態が変化(相が変化)するときに、分子間の繋がりを切ったり繋げたりする時にエネルギーが必要で、このエネルギーが潜熱である。
(例)水↔︎水蒸気
水が水蒸気になる時は、繋がりを切るためにエネルギーが必要なので周りから熱を奪うが、水蒸気が水になる時は繋がりを切るためのエネルギーが要らなくなるために熱を放出する。このエネルギーが潜熱である。
まとめ
顕熱が温度変化を伴うとは、「顕熱=分子を動かすためのエネルギー」ということを示し、潜熱が温度変化を伴わない、とは「潜熱=分子同士の繋がりを切ったり繋げたりする際のエネルギー」であって「潜熱 ≠ 分子を動かすためのエネルギー」だからである。
気象学で扱う顕熱と潜熱
気象学では、水蒸気を含む大気の話をするときに顕熱と潜熱の話が出てくるので、これを例にさらに理解を深めていく。
気象学とは大気圏のエネルギー移動を理解する学問である
様々な意見があるとは思うが、気象学とは何かの一つの答えはこれだと思っている。
太陽から地球へ届けられた熱は、低緯度で多く受け取られ、低緯度から高緯度へ大気の移動や水の状態変化を伴って移動し、高緯度で宇宙へ放熱されることで、地球大気は一定の温度を保つことができている。
低緯度から高緯度へ熱を移動させるとき、熱は顕熱と潜熱二つの形で届けられるのである。
気象学で扱う潜熱
ここまでで、『潜熱= 分子同士の繋がりを切ったり繋げたりする際のエネルギー』であることを理解してもらえたと思うが、潜熱が存在する条件というのは、物質が状態変化(液体↔︎気体・固体↔︎液体・気体↔︎固体)を起こす必要がある。
そして、大気中で状態変化をする物質というのが「水」である。
要するに、潜熱とは大気中に含まれる水(水蒸気)の持つエネルギー、ということだ。
大気の移動=熱輸送
大気が移動する時、その大気は温度で測れる「顕熱」というエネルギーを運んでいる、という理解は容易であると思う。高い温度の大気が運ばれる、ということはより多くの熱(エネルギー)を運んでいる、ということだ。
そして、大気中に水(水蒸気)が含まれている場合、この大気は状態変化が可能な水も一緒に運んでいるので「潜熱」という形の熱(エネルギー)も運んでいると言えるのである。
(例)低緯度で水蒸気を含んだ大気が高緯度に運ばれて雨を降らせた時、もちろん顕熱としてエネルギーを運んでいるが、さらに「雨になる=気体→液体の状態変化で熱を放出する」を起こしているため、水蒸気を含んだ大気の移動は潜熱という形でエネルギーを運んでいる状態と言えるのである。
その大気が、水(水蒸気)を多く含んでいればいるほど、その大気はエネルギー(潜熱)を多く含んでおり、大気が移動する時の熱(エネルギー)の輸送量も大きくなる、ということだ。