全訳トム・ケニオン「Psycho-Navigation: Theory, Clinical Observations and Personal Insight (サイコ・ナビゲーション:理論、臨床観察、個人的洞察)」
記事の概要
ハトホルのチャネラーであり、サウンドヒーラー、エリクソン催眠療法家のトム・ケニオンの記事の全訳をお届けします。
ハトホルの記事で何度か、「サイコ・ナビゲーション」という言葉が出てきました。
これは、人間に備わった脳の能力であり、精神的な能力です。
トムの記事で詳しく述べられているように、低次のアルファ波やシータ波の状態に入って、自分の内的世界を探究することを指します。
夢と異なるのは、サイコ・ナビゲーションでは、自分がどこにいて、どこへ行こうとしているのかという、ナビゲーションあるいは自己コントロールを、しっかり保持しているという点です。
トムの記事では全く触れられていませんが(言及している著書では触れている)、明晰夢に近い面があるとは、言えるかもしれません。
長い記事ですが、サイコ・ナビゲーションがどういうもので、実践には何が必要かが丁寧に述べられています。
トムのCD『インフィニット・プール』や、ハトホルの音源の多くが、サイコ・ナビゲーションを行う脳波を作り出すのに最適だと、個人的には思います。
また、私見では、ハトホルやトムの音源によるサウンド・メディテーションのいくつかも、サイコ・ナビゲーション的な経験ができるものだと推測しています。
トム・ケニオン著 M.A.
「Psycho-Navigation: Theory, Clinical Observations and Personal Insight
(サイコ・ナビゲーション:理論、臨床観察、個人的洞察)」2006年発行
翻訳者:jacob_truth 翻訳完了日:2021/10/01(金)
原文:
読者へのメッセージ:この記事は、「サイコ・ナビゲーション」をテーマにしたウェブサイトの記事の第1回目です。この人間の心の能力は非常に豊かで複雑なので、私は時々この記事を追加していくつもりです。この第1部では、「サイコ・ナビゲーションの概要」、「この種の精神現象の3つの基本的特徴」、「ケーススタディ」、そして、「サイコ・ナビゲーションを自分で探求したい人のための、いくつかの実践的なアドバイス」を御紹介します。今後の投稿を御覧になりたい方は、ウェブサイトに戻り、「記事(articles)」セクションで、「Psycho-navigation」をクリックして下さい。
第1部
「サイコ・ナビゲーション(Psycho-navigation)」とは、簡単に言えば、内的空間(マインドの知覚空間)を移動するという精神的な体験です。時間を遡ったり、前進したり、あるいは、通常とは異なる空間の方向に移動したりすることがあります。時々、「サイコ・ナビゲーション」では、個人のアイデンティティーの感覚をシフトすることで、通常は持っていない能力や洞察を得ることもあります。このような心(mind)の状態や精神的注意は、有用な情報を得るために、経験(記憶や空想など)の中に入ったり出たりすることにもつながります。「サイコ・ナビゲーション」は、人間の脳の働きに備わっていると思われる魅力的な能力です。
精神神経学の研究では、アルファ波/シータ波領域の脳波活動が、多くの非日常的な現象――特にサイコ・ナビゲーションに役立つ現象――を引き起こすことが、疑いなく証明されています。
その理由は、私たちの神経生理学そのものに根ざしています。脳の活動が通常の覚醒状態であるβ波(12~16HZ)から、よりリラックスした状態であるα波(8~12HZ)へと減速すると、筋肉の緊張・呼吸・血圧・心拍数などが減少します。また、アドレナリンなどのストレスホルモンの減少も見られます。α波の深さとその持続時間に応じて、多かれ少なかれ、身体全体の器官がリラックスします。
一般的に言えば、私自身の23年間の心理療法士としての臨床観察によると、アルファ波の活動を少なくとも20分程度継続することで、ほとんどの人に上記のようなリラクゼーション効果が発生すると考えられます。
私はエリクソン催眠(訳注1:精神科医ミルトン・エリクソンが考案した催眠技法)の実践者として、エリクソン式の比喩的な言葉とクライアントのシンプルな注意の向け方を組み合わせて、クライアントを深い注意の変容状態に導くことがよくありました。例えば、呼吸と、腕や手などの付属物に、自分の意識を向けてもらいます。このようにして精神的な注意を向けることで、神経活動が変化していきます。具体的な比喩表現を用いて、クライアントの注意を向けることで、脳の処理に根本的な変化が生じたのです。
セッションの様々な場面で、クライアントは私のオフィスという外部環境を意識しなくなり、代わりに深い夢のような活動に入っていきます。私はこれを「覚醒夢状態(waking-dream states)」と呼んでいます。確かに人は起きていて、しばしば座っています。ただ、その精神的体験は、夢によく似ています。理論的には、これはシータ波活動(4-8HZ)の増加が原因です。シータ波は、アルファ波よりもはるかにゆっくりとした脳の状態です。アルファ波がリラックスした注意力を特徴とするのに対し、シータ波は外部環境に対する意識がどんどん低下していく状態になります。個人の内なる精神的現実がより鮮明になります。そして、シータ波の特定の範囲(通常は低い方)では、個人は外界との意識の知覚的接触の多くを失ってしまいます。このように外部感覚に基づく意識が低下するのは、シータ波の次の脳の状態がデルタ波(0.5~4HZ)であることに起因すると考えられます。
デルタ波では、外界に対する意識はほとんどありません。そして、デルタ波の低域では、全く意識がありません。瞑想と睡眠に関する研究によると、例外として、瞑想者が挙げられています。経験豊富な瞑想者は、第4の意識状態を報告することが多いようです。この状態では、身体は眠っているように経験され、心は自分自身を注意の対象として認識しています。この一連の研究は、主にマハリシ国際大学と超越瞑想™の効果を研究している研究者たちによるものです。この研究は興味深いものですが、現時点では、決定的なものではありません。しかし、私自身の経験と、私が知っている他の瞑想者たち(私のように様々な瞑想法を実践している人たち)の経験によれば、この第4の意識状態は、経験的な現実です。しかし、ここでシータ波に目を向けてみましょう。シータ波は、サイコ・ナビゲーションを体験するための脳の状態なのです。
EEG(electroencephalogram)の実態
まず第一に、私がシータ波やアルファ波などと言っているのは、脳全体が常にこのようなエネルギー状態にあるという意味ではありません。アルファ波とシータ波という言葉は、統計上の目印です。脳は決して単一の脳の状態にあるわけではありません(おそらく昏睡状態や、もちろん死の間を除いて)。しかし、生きていて正常に機能している脳では、数多くの種類の脳波が同時にあちこちで発生しています。EEG(脳波)トポグラフィカル・ブレインマップを見たことがある人なら、それがよくわかると思います。まだ御覧になっていない方は、私のウェブサイトの「Acoustic Brain Research」タブをクリックし、「Anecdotal Study Of EEG Effects on ABR Wave Form(EEGがABR波形に与える影響についての逸話的考察)」と題した論文を御覧になって下さい。この論文では、3つのトポグラフィカルな脳波が紹介されており、オンラインで見ることができます。
トポグラフィカル・ブレイン・マッピングの研究ではっきりしたのは、大脳新皮質では、常に複数の範囲の活動が行われているということです。この特別なタイプの技術(ニューロマッピング)を用いた脳波研究では、研究者は電極から送られてくる生データを全て比較します。そして、通常はコンピュータソフトウェアによって自動的に統計分析を行います。その結果、どのような脳の状態が支配的か、そしてその脳波の強さはどれぐらいかを、脳波活動領域の位置で示す、脳波活動の模式図ができあがりました。
婉曲的に、「あなたはアルファ波またはシータ波に入った」などと言う人もいます。このような表示は、使用者にとっては目的があるのかもしれませんが、神経学的には正しくありません。
(科学者以外の人にとって)これは、専門的すぎると思われるかもしれません。しかし、非日常的な心身の状態の重要部分を理解するためには、このような明確化が必要だと思います。サイコ・ナビゲーションの精神的現象に目を向ける時、私たちは地に足をつけたアプローチをすることが重要です。私たちはここで、ある種の妄想を求めているわけではありません。むしろ、私たちは、「既成概念にとらわれない(直訳すると「箱の外」)」思考や知覚を可能にする、自分自身の意識の側面を開発しようとしているのです。私の個人的な経験では、サイコ・ナビゲーションという精神的な行為ほど、明確に、箱の外に出ることができるものはありません。
シータ波の2つの連動する世界
アコースティック・ブレイン・リサーチの下で10年間、脳の研究をしてきた私は、シータ波が人間の神経生理において、二つの作用を生み出していると確信しています。シータ波活動は、外部環境の経験を減少させると同時に、感覚に基づく内的世界への知覚の扉を開きます。あたかも外界が消えて、代わりに、鮮明でリアルに見える、注意の内界が目の前に広がるかのようです。
臨床観察
サイコ・ナビゲーションの一例を御紹介しますと、先ほどの理論的な考えを明確にするのに役立つと思います。ジェーン(仮名)と呼ばれる女性が、うつ病のために受診しました。彼女は最近、20年以上連れ添った夫を亡くしたばかりでした。晩年、彼は、衰弱してゆく病気を患っており、妻が主に介護をしていました。しかし、夫が亡くなり、妻は悲しみに暮れていました。ジェーンは、家から出るのも、人と接するのも怖くなってしまったと言います。これまでずっと、夫のことばかり、気にかけていたからです。
彼女の生い立ちや現在の精神的・感情的な状態について少し話した後、私は変性意識状態を作り出すことを目的として作曲した、録音済みの音楽を流しました。ジェーンが音楽に合わせてリラックスした様子を見せたので、彼女の深いリラックス状態を邪魔しないように、私は低い声で話しかけ始めました。私が使ったのは、「エリクソン・メソッド(the Ericksonian Method)」と呼ばれる言葉の組み立て方です。これは、ミルトン・エリクソン博士の医療催眠をベースにした、言葉の使い方やリズムの取り方です。基本的には、無意識へのメッセージが組み込まれたメタファーを作る方法です。エリクソン式メタファーの素晴らしさの一つは、トランス状態を深めることで、脳を低次の脳の状態――低次アルファ波、シータ波、そして時にはデルタ波――にまで誘導することです。
私は、容器に対して大きくなりすぎた植物の話をジェーンにしました。
最初、植物は古い鉢が取り外され、新しい鉢には境界線がなかったので、ショックを受けていました。彼女(植物)はどうしたらいいのかわかりませんでした。しかし、やがて彼女の根は、育てられた土の中に広がっていき、成長に必要なもの全てを自分に引き寄せていきました。そして最後に、10分ほどの間、この心を揺さぶる物語を紡いだ後、植物は新しい方法で花を咲かせました。
ジェーンが内在化された注意のトランス状態に入ると、彼女の無意識は、植物の話が実は自分の話であることを理解しました。メッセージを文字通り受け取り、さらに深いトランス状態に入ると、ジェーンの自分と世界についての経験は激変しました。彼女も、私も、部屋も、全てが消えてしまったのです。それは、セッションが終わった後、彼女の体験について話し合って、わかりました。
セッションの最も深い部分で、ジェーンは植物に変身しました。認知的な思考が停止していたため、彼女はこの体験に全く疑問を持ちませんでした。自分は植物であり、それを植え替えていたのです。その時、彼女は、人間としての自分が別の領域で、これまでの人生を振り返っているのを見ました。彼女は、これらの経験から、自分では理解しておらず、しかし認識している方法で、力や洞察を引き寄せていたのです。そして、植物である彼女は、神のところに連れて行かれました。天国のきらめく白い光の中で、神は、彼女が夫の世話をしている間に悪いことをしたと思っていたことを、全て許してくれました。この時、ジェーンは泣き出してしまいました。そして、その涙で、トランス状態から自分と部屋の認識に戻ってしまいました。
それは、彼女にとって深い感動と解放感をもたらす体験でした。そして、2回目の予約の時には、彼女はもう落ち込んでいませんでした。彼女は新しい友人を作り、古い関係を再燃させていました。私の仕事は終わりました。
この話には、言語と神経生理学の間にある実に魅力的な相互関係など、検討したい要素がたくさんあります。しかし、この記事の主な焦点は、サイコ・ナビゲーションのより基本的な側面を探ることです。そこで、ジェーンの経験をもとに、基本的な部分を議論してみましょう(注:もし、エリクソン催眠のメタファーに馴染みがなく、体験してみたいという方は、『Freedom To Change』(以前は『Freedom To Be』と呼ばれていました)というCDをチェックしてみて下さい。このCDには、自尊心を高め、自己妨害を減らすためにデザインされた、三つの異なるエリクソンの物語が収録されています。このCDは非常に効果的であり、エリクソン・メソッドの良い例となっています)。
神経学、個人の歴史と意図
神経学
全てのサイコ・ナビゲーション体験に例外なく共通しているのは、まず脳波活動の変化です。
ジェーンが植物になった経験は、私が言うところの「非日常的な体験」でした。私たちは、自分が人間以外の存在であることを経験することは、ほとんどありません。しかし、より流動的な脳の状態であるアルファ波、特にシータ波では、このようなタイプの体験は、よりありふれたことになります。
音や音楽が脳の状態を変化させる手段として使われるのは、長い歴史があり、科学的にも証明されています。ただ、この記事では、それらについて説明することはできません。しかし、私たちの神経学と音の関係について、確かな神経学的情報を知りたいのであれば、次の二つのソースをお勧めします。私のウェブサイトの「Acoustic Brain Research」タブに掲載されている「Constructs of ABR Technology(ABRテクノロジーの構成要素)」という心理音響学に関する記事と、私の著書『Brain States』(New Leaf Publishing)の二つです。
いずれにしても、音や音楽は脳の状態を変化させることができます。私がオフィスで、ジェーンのために音楽をかけた時、私は彼女の脳のRAS(網様体賦活系)と呼ばれる部分を刺激し、新皮質の脳波活動を変化させました。彼女の脳は、言うなれば、低次のアルファ波とシータ波の増加を特徴とする、変容した脳の状態に誘導されたのです。エリクソン催眠の言語パターンと相まって、ジェーンの脳はシータ波活動を大幅に増加させ、外的現実に対する意識を失っていることが示されました。心を変えるシータ波の空間で、彼女は自分が植物であることを体験し、天に召されて神の前に現れたのです。
個人の歴史
サイコ・ナビゲーションの経験は、個人の歴史に強く影響されます。
ジェーンがトランス状態から抜け出した後の体験を話してくれた時、私は彼女に、神をどのように体験したのかを尋ねました。彼女は、神がはっきりと見えたと言いました。白髪、長い白鬚、流れるような白い衣を身にまとっていました。彼女は、神の現前の中で、今まで経験したことのないような深い平安を感じたそうです。
この質問は、私が継続的に行っている「神の顔」に関する個人的かつ非公式な研究の一環として行ったものです。20年以上も研究を続けていると、あることが浮き彫りになってきます。それは、人々がそれぞれの神性に出会った時の経験が、驚くほど多様であるということです。
ジェーンが植物になって天上に行き、神に会った経験は、典型的なサイコ・ナビゲーションの経験ですが、そのような経験をするために神に遭遇する必要はありません。これらの精神的な出来事の多くは、靈的・宗教的なものではありません。しかし、それらの出来事は全て、知覚される時間と空間が変化し、自己アイデンティティーの異なる体験をするという点で共通しています。
ジェーンは植物になることに忙しくしている間、心の別の領域にもいました。彼女は過去の経験から力と洞察を得るために、時間を逆行していたのです。どうしてそんなことが起こるのか、彼女にはわかりませんでしたが、彼女は、それを見て感じていました。
サイコ・ナビゲーションでは、このようなアイデンティティーの分割がよく起こります。サイコ・ナビゲーションをしている人が、自分の外に出て時間を進めたり戻したりすると、自分が時間内にいるようにも、時間外にいるようにも見えたり、経験したりすることがよくあります。これは、通常の、覚醒脳の状態では、単純に意味をなさないことです。しかし、シータ波活動の強い増加を特徴とする変容した精神状態の人にとっては、そのような能力は自明のことなのです。説明の必要はありません。たとえそれが時間と空間の性質に関するそれまでの個人的な考えに反するものであっても、それらは直接体験されるのです。
意図
サイコ・ナビゲーションの体験は、脳の状態の変化、個人の歴史、意図の相互作用から生み出されます。
ジェーンがサイコ・ナビゲーション体験に入った時、それは癒しの文脈においてでした。彼女はうつ病の治療のためにセラピストに会いに来ていて、イベントは彼のオフィス(つまり私のオフィス)で起きました。
サイコ・ナビゲーション体験が起こるためには、この意図の設定が重要です。普通に起こるわけではありません。何かが引き金となって起こるのです。
私の前提の一つは、サイコ・ナビゲーションは人間の心に備わった生来の能力であるということです。必要なのは、刺激と適切な環境だけです。
確かにジェーンは、条件さえ整えば、音楽のある教会の礼拝や、夢の中など、様々な場所でサイコ・ナビゲーションの出来事を体験することができたはずです。
サイコ・ナビゲーションを成功させるための3要素
サイコ・ナビゲーションでは、個人の歴史が重要な役割を果たします。それはフィルターであり、情報プールであり、そこから全ての経験が生み出されます。ですから、それを直接扱う必要はありません。それは精神的な経験を構成するタペストリーの一部です。特にサイコ・ナビゲーションの際には、重要な役割を果たします。
しかし、他の3つの要素は、意識的にせよ無意識的にせよ、サイコ・ナビゲーションの経験を生み出すための手段であるため、注意が必要です。
サイコ・ナビゲーションを試みる人には、三つの重要な要素があります。
1) 脳波が低域のアルファ波やシータ波に入るように変化させる手段。
2) 特定の問題、記憶、夢など、何を探求すべきかという明確な意図。
3) 実証済みの方法論
方法論
ああ、正しい方法の力です。これはまさに、計り知れないほど大きなテーマです。不思議の国(アルファ波とシータ波の魔法の窓)に行く方法はたくさんあります。この記事がどんなに長くなっても、その全てを探ることはできないでしょう。
もし、サイコ・ナビゲーションに本気で興味があるなら、できるだけ多くの発生方法を探ってみるといいと思います。言わば、バックポケットに忍ばせているテクニックが多ければ多いほど、効果的なのです。道筋を見つけたら、それに甘んじてはいけない。新しいものを見つけて下さい。
そうは言っても、私はいくつかの簡単な原則を提示して、あなたが始めるのを助けましょう。まず、先ほど述べた最初の重要な要素である「脳の状態を変える」ということです。経験のある瞑想者なら、瞑想状態に入る時には、既にこうしていることでしょう。ここで違うのは、静寂は、最終目的地ではないということです。内なる静寂は、別の種類の精神状態への入り口、敷居に過ぎません。
また、脳波活動を変化させるには、特定の音楽や音のパターンが非常に有効な方法です。これはまた別の大きなテーマです。ただ、簡単に言えば、言葉のない音楽で、パターンやリズムが連続していて、ゆっくりで、変化のないものでなければなりません。このような音楽は、通常の意味でのエンターテインメントではありません。むしろ、脳波活動を鈍らせるという目的のための手段であるという点では、その音楽は、「列車に乗せるもの」と言えるでしょう。世の中には、実際、数多くの音楽作品があります。その中には優れたものもあれば、率直に言ってかなりひどいものもあります。音楽を聴くことで、リラックスしたり、内なる方向性を感じたりすることができるのであれば、それは自分に合ったものを見つけたのかもしれません。
もし、私の録音を試してみたいのであれば、『Infinite Pool』をお勧めします。これは、特にABRライブラリーの一部として購入した場合には、『Activate the Holographic Mind』という名前のバージョンもあります。この心理音響的録音は、サイコ・ナビゲーションという行為に絶対的に最適な、非常に複雑な音色のマトリックスを設定しています。実際、サイコ・ナビゲーションの精神状態を作り出すための音響経路としては、これに勝るものはないと思います。と言っても、もちろん私が言っているのですが。
ともかく、話を戻します。あなたは、瞑想や心理音響によって、サイコ・ナビゲーションに理想的な脳の状態になるように、脳波の活動を変化させることができます。
私は個人的には、上記の2つの方法が好きですが、他にもあります。もしあなたが音と光の機械(脳同調装置と呼ばれることもあります)を持っているなら、確かに、それを使ってアルファ波とシータ波の活動を増やすことができます。
ここで余談です。私の読者の中には、非日常的な精神状態を刺激する薬を試している方もいらっしゃるのではないでしょうか。薬物が脳波活動や神経伝達物質のパターンを変化させることは間違いありません。しかし、これらの方法には、決定的に欠けているものがあります。多くの場所で違法であり、神経毒性の可能性があることに加えて、薬物は自制心の所在を増加させません。この言葉は基本的に、自分の経験をコントロールする能力を意味します。薬物が心を変化させる状態を作り出すのは、間違いありません。しかし、その状態をコントロールすることはできません。そして、高揚感が過ぎ去った後、自分の意志で、元の状態に戻ることができません。これは、あなたの脳/心が、その状態を作り出す方法を、最初から学んでいないからです。しかし、自分の脳波活動を自分の意志でコントロールできるようになれば、それは本当に素晴らしいことです。最近、ある人が自己紹介したように、あなたは真のサイコ・ノート(心の探究者)です。意識の内なる領域への旅を自分でコントロールできるようになるまでは、移動手段や素材の影響を受けることになります。私が提案するのは、自分の心のハンドルを握ることであって、ドラッグやカルト、宗教、あるいはテレビに自分を委ねることではありません。
意図
脳の状態を変化させる方法を選んだとして、次は自分の意図を明確にする必要があります。サイコ・ナビゲーションは、素晴らしい精神的なツールです。内なる空間を探索して何が起こるかを確認するだけでもいいのですが、実用的でもあるのです。サイコ・ナビゲーションは、あらゆることについての情報や洞察を得るための手段として使うことができます。始める前に意図を設定するだけです。発生する現象の多くは、意図に関連しています。
心の儀式
サイコ・ナビゲーションでは、知覚された内的空間を移動します。そして、物理空間を移動する時と同様に、自分がどこにいるのかを把握するシステムが必要になります。例えば、車を運転してどこか遠くに行く場合、地図を使って、自分の位置と行き先との関係を確認することでしょう。もしあなたが飛行機を操縦するとしたら、自分の位置を、飛行経路だけでなく、高度も含めて把握する必要があります。
内的空間を旅するための基本的な目印は、ある種の入口です。この心象風景は、通常知覚される空間と、サイコ・ナビゲーションの非日常的な空間を区別するものです。入口を越えると、魔法と無限の可能性に満ちた別世界に入ります。ここでは、空間認識は、より流動的です。時間は可変的です。人は前にも後ろにも、あるいは、知覚される時間を、進んだり、遡ったりすることができます。また、過去の出来事の記憶を遡り、様々な視点から体験することもできます。こうした視点を得ることで、二次元の時間軸に縛られている時には得られない情報を得ることができます。
時間を前に進んで、様々な可能的な時間軸を体験することもできます。それらは全て、未来の可能性や確率の表現です。
この心の内的空間に深く入っていくと、個人のアイデンティティーが驚くほど変化します。例えば、空を飛ぶ生き物になって、重力に縛られず、他の世界に行くことができます。半神やその他の超人的存在になることもあるかもしれません。こういったタイプの探求は、情報や新しいあり方を通常の個人的アイデンティティーの感覚に戻すという点で、非常に強力なものとなります。
入口をまたぐことは、基本的に心の儀式です。これは、あなたが新しい精神的空間、つまり時間と空間の法則が、通常認識されている現実とは異なる内的領域に移動するのを選択していることを、あなたの無意識に伝える信号です。実際、知覚された時間と空間の変化こそが、そもそもサイコ・ナビゲーションが行われるための横糸であり、織り方でもあるのです。
以下、2種類の入口を御紹介します。これらはサイコ・ナビゲーション空間に入るための簡単な手段です。ただ、その方法は、何百もあります。この二つの方法は、比較的簡単に想像力を働かせることができるので、初心者には非常に有効な方法です。今後の追加記事では、より複雑な方法を紹介していきます。
感覚様式と入口の創造
このテーマについては、今後さらに掘り下げていくつもりです。しかし、ここでは基本的概念について触れておきましょう。その基本的概念とは何でしょうか?それは、人間はそれぞれ、自分の主要な感覚様式を通して、内的空間の経験を作り出すということです。つまり、あなたが視覚的な人であれば、入口とその向こう側にあるものが見えるでしょう。あなたが感覚的な人(体感覚者)であれば、心の目では何も見えないかもしれません。むしろ、入口についての感覚を持つ傾向があるでしょう。自分の体験を語る内なる声が聞こえるなら、あなたは聴覚的な人であり、何も見たり感じたりしないかもしれません。入口や、向こう側にある世界を説明する声が聞こえるだけかもしれません。また、これらの様式のいずれか、または全てを組み合わせて体験することも充分可能です。四つ目の可能性は、五感ではなく、直接の精神的な啓示や直知(グノーシス)によって入口を認識することです。これは一種の「知っている」ということです。あなたは単に、入口が何であるか、それがどのように見えるか、そしてその向こう側に何があるかを知っています。純粋な直知では、直接的な感覚情報はありません。
これを理解することが肝要です。サイコ・ナビゲーションは、視覚化ではありません。何かを見る必要はありません。見えていればいい。しかし、そうでなくても気にする必要はありません。自分にとって最も自然だと思える感覚で行けばいいのです。
入口をまたぐ
自分がドアやポータルを通っているところを想像してみて下さい。そうしながら、自分は日常の世界から別の世界に渡っているのだと、心の中で自分に言い聞かせます。
あなたが意図したこと、つまり何を探求したいかを設定すると、この異世界はあなたが表現した願望に関するイメージや情報を反映したり、保持したりします。それはとてもシンプルなことです。入口を越えた後は、自分の直感に従って、自分が求めている方向に進んでいきましょう。ここからは、ただ流れに身を任せます。この異空間で、目の前に現れたものを、自分で体験してみましょう。
上り階段と下り階段
この入口は、二つのことを同時に達成しているので魅力的です。まず、通常の知覚空間とサイコ・ナビゲーションという非日常的な空間との境界線を明確にします。これが、全ての入口の第一の機能です。しかし第二に、この特殊な方法は、動きの方向性を決めるものでもあります。
階段を上ったり下りたりする自分の姿を想像しましょう。芸術的な表現をしたければ、螺旋階段やその他の空想的な形を想像することもできます。重要なことは、上に行くか下に行くかということです。
あなたの無意識は、この動きの方向を、そのような内的空間に移動するようにという指示や命令として解釈します。下に移動することで無意識が活性化され、記憶や原始的で心理的な力など、無意識が持っているものが明らかになります。
上に向かって進むと、超意識や高次マインドと呼ばれるものが活性化されます。これは、光、天使、そして高次の知覚領域です。
先住民のシャーマンは、この2つの世界を「冥界」と「天界」と呼んでいます。今後、この記事では、シャーマニズムやサイコ・ナビゲーションに関連する文化人類学の興味深い側面について説明する予定です。しかし、今は基本に立ち返って考えてみましょう。
総合的に考える
サイコ・ナビゲートを始める前に、意図を設定することをお勧めします。どんな情報や洞察を得たいのかを決めて下さい。また、サイコ・ナビゲーション日記を手元に置いておくことをお勧めします。毎回のセッションが終わった後、読み返す時に記憶を呼び起こすためにメモを書いておくといいでしょう。サイコ・ナビゲーションの内容やイメージの多くは、あなたの意図に関連しているので、この種の日記は非常に重要です。体験から抜け出した直後に、体験のエッセンスを書き留めておくと良いでしょう。というのも、サイコ・ナビゲーションは、夢のような、変性意識状態から生まれるものだからです。そして、夢と同じように、細部は簡単に忘れてしまうのです。
これは、ある種の記憶が特定の精神的・感情的な状態と結びついていることによります。サイコ・ナビゲーションをしている時は、神経学的な出来事とその結果としての心の状態が、非常に正確に、入れ子状になっています。そのような状態から抜け出すと、その時の記憶は鮮明でなくなり、自明のことと思われていた重要な情報も、すぐに失われてしまいます。
通常のサイコ・ナビゲーション・セッションでは、座って行うことがほとんどです。横になってサイコ・ナビゲーションを行うことも可能ですが、脳波がゆっくりになってくると、つい寝てしまいたくなることがあります。この種の睡眠とそれが生み出す夢は、間違いなく興味深いものではあります。しかし、これは、サイコ・ナビゲーションではありません。サイコ・ナビゲーションとは、変性意識状態に自由落下することではなく、意識そのものの内的空間を自分でコントロールし、自分で方向づけをする旅なのです。
脳の状態を変える。アルファ波とシータ波の活動を活発にするのです。これは、形式や伝統にかかわらず、全てのサイコ・ナビゲーションの神経学的な基礎となります。ですから、このようなアルファ波/シータ波の増加を生み出し、持続させる方法を使っていることを確認して下さい。ほとんどの人――特に初心者にとって――は、この種の神経活動を高めることだけを目的に作られた、心理音響学的な音楽を使うことになるでしょう。
アルファ波やシータ波の活動が活発になっている時の典型的な状態である、よりリラックスした心身の状態に自分自身が入っていくのを感じながら、入口の一つを想像してみて下さい。入口を越えて、ポータルの向こう側の空間にあるものを探り始めます。
宇宙は最後のフロンティアです。そして、外宇宙だけでなく、内宇宙も同様です。オルダス・ハクスリーの言葉を借りれば、サイコ・ナビゲーションは、「知覚の扉」を素早く開きます。心の内側のポータルを通して、パラドックスと魔法の新しい世界があなたを待っています。ここには、新しい洞察、新しいあり方、自分と世界の新しい見方など、多くの宝物があります。目の前に広がる景色は息を呑むほど素晴らしく、畏敬の念を抱かせるものですが、最も重要なのは、発見したものを使って何をするかということです。このように、サイコ・ナビゲーションを行う私たちは、私たちが生きている日常世界と、私たちの中に存在する非日常的で非凡な世界との間にある奇妙な土地で、最大の課題に直面しているのだと思います。
サイコ・ナビゲーションという行為によって目の前に広がる空間には、驚きと危険があります。驚きは自明のことでしょうが、危険はもっと隠れています。
それは単に、私たちの中には、複雑さや困難さを伴う日常生活の外の世界よりも、存在の内的世界の方がより望ましいと考える人がいるという事実によるものです。このことは、私たちが、より大きな不確実性と対立の生じる、新たな惑星的・集団的時代に入った時に、特に当てはまるかもしれません。しかし、人生経験という鍛造所においてこそ、知識が得られ、知恵が鍛えられていくのです。従って、サイコ・ナビゲーションを現実逃避のために利用するのは、実に不幸なことです。自分の内なる世界と外なる世界との間に橋を架けることは、とても素晴らしいことだと思います。両者の間に自由な交易の流れがあれば、どちらの世界も豊かになります。そして、私たちの住む世界は、この新しい形の通貨を切実に必要としているのです。
コメント
以上が、2021/10/09時点で、原文サイトにある文章の全訳となります。
最初の「読者へのメッセージ」に、「私は時々この記事を追加していくつもりです」とありますが、今のところ、今回、翻訳・公開した以上の文章はありません。
記事中で言及されている、
・サイコ・ナビゲーション空間に入るためのより複雑な方法
・シャーマニズムやサイコ・ナビゲーションに関連する文化人類学の興味深い側面
については、文章が追加されていないので、全くこれらの話は書いてありません。
ただ、サイコ・ナビゲーションをする上での基本的な枠組みや考え方は、今回、公開したものに尽くされていると考えます。
いつになるかわかりませんが、サイコ・ナビゲーションの技法的な部分だけ、いずれ、記事を書いてみたいと思います。
以前の翻訳記事はこちらをご覧下さい。